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第三章 仲間は多いほうがいい
1 チナのお見舞いに
しおりを挟む「あーあ、幽霊さん来ないね。つまんない」
「エマ、幽霊さんが来ないってことはいいことなんじゃないのか」
「えっ、なんで」
「陽太くんのこと忘れたのか」
「陽太くんのこと」
エマは天井あたりをみつめて「元気かな」と呟いた。
あんなに必死に助けたいって泣きながら願っていたのに、エマって嫌なことはすぐに忘れてしまうのだろうか。幽霊が来ないってことは死ぬ人がいないってことだろう。それもわからないのか。しかたがないか。
あれ、けどまったく死ぬ人がいないなんてことあるのかな。
「やっぱりおまえは阿呆だ」
「なんだよ、もふもふ様。阿呆って言うな」
「ここに来る幽霊は一部の者だけだ。死者が全部ここに来たら、ここは爆発しちまうかもな。幽霊もある意味エネルギー体だからな」
「ふーん、なるほどね」
「それと、幽霊が来ないのはいいこととは言えないぞ。まあ、生きている者にとっては死は悲しいことだろうけどな」
「どういうことだ。そういえば、前にもそんなこと話していたような」
「あの世は故郷みたいなところだって話しただろう。この世は修行の場みたいなところだってことだ」
「ふーん、もふもふ様っていろいろ知っているんだな」
「今更気づいたのか。おいらは博識なのだ」
もふもふ様は軽くステップを踏んでニコリとした。
「ちょっと頼りないけどな」
「な、なんだと。そんなおまえは阿呆者だ」
「そうかもな」
確かにそうだ。やっぱり僕は阿呆なのかも。まあいいか。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんは阿呆なの」
「エマ、なんでそこに注目するんだよ」
「だって、だって、なんか面白いんだもん」
溜め息を漏らして項垂れた。
「ふふふ、元気出せ」
なにが元気だせだ。そうだ、そういえばチナはどうしているだろうか。またお見舞いに行くって約束したのに行っていない。ああ、もうきっと寂しい思いしているはずだ。
「えええっ」
な、なんだ。エマの奴、急に叫んでなにがあった。
「お兄ちゃん、チナちゃんとキスしたいの」
「な、な、なにを。そ、そんなこと誰が言った」
「もふもふ様が」
僕はもふもふ様を睨みつけた。もふもふ様はニヤリと笑い「手伝ってやろうか。縁結びってやつだ」と言葉を残してポンと音をたてて消えてしまった。
「あれ、もふもふ様どっか行っちった」
まったくふざけやがって。誰かがキスをしたいだって。いや、したくないわけじゃないけど。思わず想像をしてしまった。
「ああ、お兄ちゃん、真っ赤っかだ。あはは、真っ赤だな、真っ赤だな~」
「エマ、歌わなくていい」
「えへへ、怒られちった。ゴマしゃん、ちー、たー、よー、あそっぼ」
どいつもこいつもふざけやがって。そう言いつつも怒りよりもチナのことが頭から離れなくなっていた。一度気になり出すと頭から消せないみたいだ。やっぱりお見舞いに行こう。
「行くのか、キスしに」
突然頭の上に乗って来てニヤリとするもふもふ様。
「ちょっと、いい加減にしろぉ」
僕は頭の上のもふもふ様を叩こうとしたのだが、サッと躱されて自分の頭を叩いてしまい痛さに蹲る。
「なに、なに、キスって今言わなかった」
猫たちを引き連れてエマが近寄ってくる。
「なんでもない、あっちへ行け」
「ねぇ、ねぇ、キスって言ったでしょ。言ったよね、もふもふ様」
「言ったな」
「ああ、もういい。言ったよ言った。んっ、あれ、違う。言ったのはもふもふ様だろうが」
「あはは、そうだっけ」
ゴマと子猫たちはじっとこっちの様子を窺っていたが飽きたのか子猫はゴマにじゃれつきはじめていた。
ひとつ息を吐き、僕はもふもふ様とエマに「あのさ、チナちゃんのところにお見舞いに行こうと思うんだけど一緒に行くか」と誘ってみた。
「行く、行く。エマ、行く」
エマはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいた。
母にチナのことを話すと、お見舞いに行くならなにか持っていってあげたらと提案された。確かにそのほうが喜ぶかも。けど、なにがいいだろうか。
「お花、お花、お花がいいな」
花か。
「エマ、お花はどうかなぁ。花はダメっていう病院もあるから訊いてみようか」
母の言葉にそうなんだと思った。病院に確認をしたらやっぱり生花はダメだと返答があったらしい。なんでも感染症のリスクがあるとか。よくわからないけど、ダメならしかたがない。
「ええ、お花ダメなの。じゃプリンだ」
「もしかして、エマが食べたいんじゃないの」
「えへへ、バレちった」
母はエマの頭を撫でて僕に向き直ると「チナちゃん、食べ物は大丈夫なのかな。食べられるのかな」と訊いてきた。
「うーん、どうだろう。わかんないや」
そのへんはわからない。こないだは元気そうだったし食べられそうな感じだったけど。
「それなら、本は。漫画でもいいかもね」
「ああ、エマも漫画読む」
「今は、チナちゃんの話でしょ」
「そうだった、ごめんママ」
お見舞いには母も一緒に行くことになり途中で少女漫画の雑誌を買うことにした。好みはわからないし雑誌ならいいんじゃないかと話しがまとまった。
なぜかエマは「マンガ、マンガ」と呟きながらスキップしていた。エマに買ってあげるわけじゃないのに。
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