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第一章 わが家は不可思議なことばかり
7 むかし、むかし
しおりを挟む「侑真、いるか」
突然の声に、僕は飛び起きて玄関先に向かう。
「修也、どうした」
「どうしたはないだろう。まあいいか。面白い話をばあちゃんから聞いてさ。いや、面白いというより不思議な話かな」
「不思議な話?」
「なに、なに、不思議な話ってなーに。エマも聞く、聞く」
エマが奥の部屋からドタドタと音をさせて飛んできた。視線を感じてそっちへ目を向けるとゴマが柱の陰から覗き込んでいた。何事だとでも思っているのだろう。
「うわっ」
エマの頭の上に狐神様が突然現れて仰け反り後ろにいた修也にぶつかってしまった。
「なんだよ、侑真」
「あっ、ごめん」
さすがに狐神様のことは話せない。水晶玉がなきゃ僕も狐神様の存在には気づいていなかったのだから。
「あのね、うんとね。もふもふ様がね」
「ああ、修也。早く話を聞かせてくれ。な、な」
僕は慌ててエマの言葉を遮り修也に話すように促した。
「今日の侑真はおかしいぞ」
「うんうん、お兄ちゃん、おかしいの。へんてこりんのぽんぽこりんなの」
「なんだよ、それ」
『へんてこりんのぽんぽこりん』ってどこかで聞いたことがあるような。どこでだったろう。まあいいか。
エマの頭の上で狐神様が口に手を当てて笑っていた。
いつの間にかゴマが足元に来て僕を上目遣いでみつめている。まさか、ゴマも笑っているのか。ふとそう感じてしまった。
「修也、なんでもいいから不思議な話ってなんだよ」
「まあまあ、怒らない、怒らない」
「怒ってなんてないよ」
「お兄ちゃん、ぷんぷくぷんだ」
エマはまたわけのわからないことを。
「とにかく話しだろう」
口元を緩ませて修也は話しはじめた。修也のおばあさんがまだ子供の頃のことらしい。
「ばあちゃんが子供の頃だって言うから結構前の話みたいだけどさ。おまえの家が火事になったみたいだぞ」
「火事」
修也の話に相槌を打つ狐神様の姿が目の端に映った。
「そう、火事。全部燃えちまったんだって。でさ、なんでもお稲荷さんが庭にあったとかでさ、そのお稲荷さんも燃えちまったんだって」
そうなのか。僕はチラッと狐神様のほうを見遣る。やっぱり相槌を打っている。
「そうそう、またその火事が変だったんだって」
「変って」
「火元が天井あたりだったんだってさ。変だろう」
確かに変だ。天井って。僕は想像してブルッと身体を震わせた。幽霊たちが天井あたりを飛んでいたことを思い出したせいだ。まさか、幽霊の仕業。どうなのだろう。ありえるのかもしれない。
「ばあちゃんはさ、お稲荷さんがいるのに火事を止められなかったのかねぇ。なんて話していたんだけどさ。どうなんだろうな。小さな社はあったみたいだけど、本当はお稲荷さんなんていなかったんじゃないのかな。いたら、なんとかしてくれただろう。そのときいたじいちゃんとばあちゃんも死んじまったらしいから。本当に神様とかっているのかな」
「なるほどね、そんな話があったのか」
狐神様は後ろ足でぼりぼりと頭を掻いていた。
「神様はいるよ。ほら、ここに」
僕はエマの口を手で塞いで苦笑いを浮かべた。
「なにしてんの」
「なんでもない。気にするな」
「いててて」
「お兄ちゃん、苦しいでしょ」
「ごめん、でも噛みつくことないだろう」
「だって、だって、だって」
エマはポカポカと腹を叩いてきた。
「痛いよ、エマ、やめて」とエマの手を掴み引き寄せると耳元で「狐神様のことはナイショだよ」と囁いた。
「なんで、どうして」
「いいから」
「なら、エマ行く。もふもふ様、行こう」
あっ、まったくあいつは。
エマは二階に四つん這いになり上がって行った。狐神様の真似でもしているのか。それともゴマの真似かも。ゴマはそんなエマを追い抜いて二階へ駆けていく。
「なあ、もふもふ様ってなんだ」
「なんでもないよ。気にするな。そんなことよりゲームでもしないか」
「おお、いいね」
修也とふたりで対戦ゲームをして遊んだ。けど、頭の中では火事のことを考えていたせいで対戦ゲームは全敗だった。
「侑真、弱すぎだろう」
そう修也に言われても笑って誤魔化すだけだった。
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