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第4章 意趣返し
7 龍の宝珠(1)
しおりを挟む大和は病院の前まで来ると足を止めて上の階の窓をみつめた。明らかに他とは違う箇所があった。窓から異様な気が漏れている。間違いなく、あの部屋に徹がいるのだろう。五階だ。
徹は大丈夫だろうか。
早く行かなくてはとの思いとは裏腹に異様な気を感じる場所に行きたくない気持ちが胸の奥にはあった。それでも行かなくてはいけない。徹を救わなくては。
うっ、冷たい。
そう思って空を見上げると顔にポツリポツリと雨粒が落ちてきた。
この雨、なにか臭う。錆びついた鉄のような臭いがする。雨に何かが混ざっているのだろうか。それとも悪しき者のせいだろうか。
「大和、何をしているの。急ぐわよ」
愛莉に促されて夜間入り口から病院内へと入り込む。無事でいてくれたらいいけど。
エレベーターに乗り込み五階へと向かう。不思議と頭の中に徹の病室の場所が浮かんでくる。運よく看護師と出会うこともなく徹の病室前まで辿り着くことができた。本当に運がよかっただけなのかは疑問だ。なにかの力が働いている可能性もある。
鬼猫の力だろうか。
「ここで間違いないわ。大和、行こう」
大和は頷き、愛莉と見合って扉を開ける。
真っ暗だ。いくらなんでも真っ暗過ぎる。部屋に入ることが躊躇われる。それでも大和は一歩病室へと踏み出した。
うっ、頭が締め付けられる。大和はすごい妖気に気絶しそうになったがなんとか堪えることができた。素戔嗚尊の力のおかげだろう。隣を見遣ると愛莉も頭を押させていた。普通だったら引き返すべきところだがそうもいかない。霊感が強くない人でもここにいたら体調を崩してしまうだろう。
「愛莉、大丈夫か」
愛莉は「大丈夫」とだけ答えてこめかみを手で押さえた。
大和は愛莉と手を取り合って部屋の中へと一歩一歩進んで行く。なぜこんなにも暗いのだろう。まったく前が見えない。それっておかしくはないか。そもそもここは本当に病室なのか。
なんだか変だ。部屋がやけに広い。結構歩いた気がするのに何もない。徹はどこだ。鬼猫たちはどこだ。
「大和、あそこ」
愛莉が指差す先にベッドらしきものがあった。なぜあんな遠くに。ベッドだけ見えるのも不自然だ。なにがどうなっているのだろう。
「鬼猫、どこだ」
大和は後頭部の疼きに耐えながら鬼猫を呼ぶ。
『来たか。大和、愛莉、そこで止まれ』
今の声は鬼猫だ。けど姿が見えない。心に直接語り掛けてきているようだ。止まれと聞こえたけど。
大和は指示通りに止まってあたりに目を向けた。
『ふたりともよく聞くのだぞ。今ここは結界が張られている。集中しろ。今のおまえたちならこっちへ来ることができるはずだ』
結界か。集中すればいいのか。
「愛莉、結界の中に行くぞ」
頷く愛莉の手をしっかりと握りひとつ深呼吸をする。
愛莉は空いているほうの手に勾玉を握りしめて瞼を下ろした。大和は無意識に弁天様から渡された水晶玉を空いたほうの手に持ち徹のことを頭に浮かべる。
遠くにあったベッドが近づいてくる。同時に身体がぐらついてバランスを崩した。暗い部屋に何者かの気配を感じはじめた。人影も徐々にはっきりしてくる。真っ暗だった部屋が徐々に明るさを取り戻していく。とは言え月明かりの淡い光だけだが。
あそこにいるのは徹だろうか。違う、あの子は誰だ。
気づくとすぐ隣に鬼猫たちがいた。
目の前に不気味な笑みを浮かべる男の子が睨みつけている。背筋に悪寒が走った。徹は大丈夫だろうか。あたりを見回すと五人の子供たちに囲まれるようにして徹がぼんやりと立っていることに気がついた。けど、ベッドにも徹が寝ている。
これって……。
んっ、なんだか視線を感じる。
大和はゆっくりと天井に目を移したとたん身体を仰け反らして尻餅をついてしまった。巨大な骸骨が歯を鳴らして笑っていた。
「人間が来たところで何も変わらないよ。まあ、ちょっとは力があるみたいだけど」
大和は尻餅をついたまま鬼猫に「あの子供は誰だ」と訊ねた。
「孝とかいう奴だ。徹がコクリに頼んで呪っていた子だ。今、あの子には邪魅が取り憑いている。厄介な妖怪だ。このままだと徹は黄泉に連れていかれてしまうだろう」
そんな……。
「大和、その水晶玉よ。早く龍に」
そうだった。こいつを渡せばもしかしたらこの窮地を脱せるかもしれない。
大和は龍を探した。どこだ。
いた。霊体になった徹の足下にいる。
「わらわに任せろ」
コクリが水晶玉を銜えて龍のもとへ駆け出した。だがガシャドクロにコクリが掴まれてしまい銜えていた水晶玉がコクリの口から転げ落ちてしまった。
まずい、水晶玉が孝の足下に転がっていく。龍に渡すはずだったのに。
転がる水晶玉を目で追う龍の姿があった。気づいてくれたようだが水晶玉はすでに孝の手の中にあった。
あっ、コクリが……。
コクリは抗うこともできずにガシャドクロに呑み込まれてしまった。
万事休すか。
いや、まだだ。
「大黒様、剣をくれ」
「大和、いいのか」
大和は頷き天叢雲剣を手に取った。すると剣は大きさを増して輝き出した。剣に宿った八岐大蛇が姿を現す。その瞬間、明らかに孝の顔から、いや邪魅の顔から笑みが消えた。
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