鬼猫来るーONI-NEKO KITARUー

景綱

文字の大きさ
上 下
44 / 48
第4章 意趣返し

5 呪われた者を好む妖怪

しおりを挟む

 鬼猫は徹の病室に入るなり、愕然とした。
 徹の魂が抜けだして霊体となって呆然と突っ立っていた。小さな龍も傍にいる。どこか項垂れている感じがする。

 ベッドの奥にはギラリとした鋭い視線を向ける子供がひとり。その子供の手は徹の首にある。その子供の背後には五体の幽霊がニタニタと不気味な笑みを浮かべている。
 間に合わなかったのか。

「鬼猫、あいつ邪魅が取り憑いているぞ」

 大黒がベッドで徹の首を絞めつけている子供を指差した。
 邪魅か。呪われた者に取り憑くと言われている魑魅ちみの類の者だ。

「早いところ邪魅をあの子から引き剥さなくては」

 鬼猫が近づいて行くと、スッと五人の子供たちが壁を作り行く手を阻んできた。五人とも
片目がなく異様な雰囲気を纏っていた。この子供たちも徹が呪いをかけたものたちなのだろう。

「百目鬼、ついて来ているか」
「ここにいる」

「この子たちの目を奪ったのはおまえだろう。早いところ目を返してやれ。この子たちがいる場所はわかっているのだろう」
「まあな。だが、それでなんとかなるかはわからないぞ」

「なんとかしろ」
「なんとかねぇ」

「百目鬼、なんとかしなければおまえを封印させるぞ」
「わかったよ。じゃ、行ってくるとしよう」

「待て、蹴速とともに行け。蹴速はしっかり監視しろよ。そいつは油断ならぬ奴だからな」

 蹴速は頷き、百目鬼の肩に手をまわして「行こうか」と促した。

「まったく、もう逃げやしないって」

 百目鬼はそう文句を言いつつ闇に溶け込んで行った。

「さてと、どうしたものか」

 鬼猫は蛭子に大黒の顔を見遣る。

「徹はもうこっち側の住人になってしまったのか。蛭子、どう思う」
「大黒、まだあいつは三途の川を渡っていない。呼び戻せるかもしれない」
「なら問題はあの邪魅が取り憑いた子供だな」

 すぐにでも祓いたいところだが五人の子供たちが邪魔だ。だからと言って、強引に進むことはできない。この子たちもまだ完全に死んではいない。薄っすらと命の糸が見える。身体と繋がっていることは間違いない。徹にも命の糸はある。きっと大丈夫だ。

『百目鬼、早く目玉を戻してくれ。命を呼び戻してやってくれ』

 鬼猫はそう念じて小さく息を吐いた。はたして百目鬼に命を呼び戻せるかどうか。正直できるのかさえわかっていない。だができるような気がした。そうだとしても五分五分だろうか。

「まずいな。大黒、蛭子、上を見ろ」

 天井に暗雲が立ち込めていた。まだ遠くだが魑魅魍魎ちみもうりょうたちの気配が暗雲の向こう側から感じた。道が繋がってしまっている。いや、どこかで結界を張った者がいるようだ。それでも近づく者の気配は感じた。

「鬼猫、あの子供たちはわらわが呪いをかけたものたちだ。徹の願いを聞いてね。これはわらわの責任だ。なんとかしようではないか」

 コクリの目が赤く染まり毛を逆立てていく。真っ白な毛が発光しはじめる。だが、なぜか光が萎んでいってしまった。

「どうしたコクリ」
「どうもおかしい。わらわにもわからない。力が誰かに奪われている気がする」
「奪われる」

 鬼猫はあたりに目を向けた。他にも妖怪がいるのかもしれない。どこだ、どこにいる。大黒も恵比寿も様子を窺っている。

「コクリ、おまえ……」

 気づかなかった。コクリは背中に傷を負っていた。血は止まっているようだが出血した痕が残っている。力が奪われたのではない。怪我で本来の力が出せないのだろう。おそらく徹がいた家の火事での怪我だろう。

「わららも気づかなかった」
「しかたがない奴だ。大黒、蛭子、ここは我らでなんとかするぞ」

しおりを挟む
感想 58

あなたにおすすめの小説

朧《おぼろ》怪談【恐怖体験見聞録】

その子四十路
ホラー
しょっちゅう死にかけているせいか、作者はときどき、奇妙な体験をする。 幽霊・妖怪・オカルト・ヒトコワ・不思議な話…… 日常に潜む、胸をざわめかせる怪異── 作者の実体験と、体験者から取材した実話をもとに執筆した怪談短編集。

お昼寝カフェ【BAKU】へようこそ!~夢喰いバクと社畜は美少女アイドルの悪夢を見る~

保月ミヒル
キャラ文芸
人生諦め気味のアラサー営業マン・遠原昭博は、ある日不思議なお昼寝カフェに迷い混む。 迎えてくれたのは、眼鏡をかけた独特の雰囲気の青年――カフェの店長・夢見獏だった。 ゆるふわおっとりなその青年の正体は、なんと悪夢を食べる妖怪のバクだった。 昭博はひょんなことから夢見とダッグを組むことになり、客として来店した人気アイドルの悪夢の中に入ることに……!? 夢という誰にも見せない空間の中で、人々は悩み、試練に立ち向かい、成長する。 ハートフルサイコダイブコメディです。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

赤い部屋

山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。 真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。 東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。 そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。 が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。 だが、「呪い」は実在した。 「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。 凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。 そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。 「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか? 誰がこの「呪い」を生み出したのか? そして彼らはなぜ、呪われたのか? 徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。 その先にふたりが見たものは——。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

餅太郎の恐怖箱【一話完結 短編集】

坂本餅太郎
ホラー
坂本餅太郎が贈る、掌編ホラーの珠玉の詰め合わせ――。 不意に開かれた扉の向こうには、日常が反転する恐怖の世界が待っています。 見知らぬ町に迷い込んだ男が遭遇する不可解な住人たち。 古びた鏡に映る自分ではない“何か”。 誰もいないはずの家から聞こえる足音の正体……。 「餅太郎の恐怖箱」には、短いながらも心に深く爪痕を残す物語が詰め込まれています。 あなたの隣にも潜むかもしれない“日常の中の異界”を、ぜひその目で確かめてください。 一度開いたら、二度と元には戻れない――これは、あなたに向けた恐怖の招待状です。 --- 読み切りホラー掌編集です。 毎晩20:20更新!(予定)

File■■ 【厳選■ch怖い話】むしごさまをよぶ  

雨音
ホラー
むしごさま。 それは■■の■■。 蟲にくわれないように ※ちゃんねる知識は曖昧あやふやなものです。ご容赦くださいませ。

神送りの夜

千石杏香
ホラー
由緒正しい神社のある港町。そこでは、海から来た神が祀られていた。神は、春分の夜に呼び寄せられ、冬至の夜に送り返された。しかしこの二つの夜、町民は決して外へ出なかった。もし外へ出たら、祟りがあるからだ。 父が亡くなったため、彼女はその町へ帰ってきた。幼い頃に、三年間だけ住んでいた町だった。記憶の中では、町には古くて大きな神社があった。しかし誰に訊いても、そんな神社などないという。 町で暮らしてゆくうち、彼女は不可解な事件に巻き込まれてゆく。

処理中です...