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第4章 意趣返し
5 呪われた者を好む妖怪
しおりを挟む鬼猫は徹の病室に入るなり、愕然とした。
徹の魂が抜けだして霊体となって呆然と突っ立っていた。小さな龍も傍にいる。どこか項垂れている感じがする。
ベッドの奥にはギラリとした鋭い視線を向ける子供がひとり。その子供の手は徹の首にある。その子供の背後には五体の幽霊がニタニタと不気味な笑みを浮かべている。
間に合わなかったのか。
「鬼猫、あいつ邪魅が取り憑いているぞ」
大黒がベッドで徹の首を絞めつけている子供を指差した。
邪魅か。呪われた者に取り憑くと言われている魑魅の類の者だ。
「早いところ邪魅をあの子から引き剥さなくては」
鬼猫が近づいて行くと、スッと五人の子供たちが壁を作り行く手を阻んできた。五人とも
片目がなく異様な雰囲気を纏っていた。この子供たちも徹が呪いをかけたものたちなのだろう。
「百目鬼、ついて来ているか」
「ここにいる」
「この子たちの目を奪ったのはおまえだろう。早いところ目を返してやれ。この子たちがいる場所はわかっているのだろう」
「まあな。だが、それでなんとかなるかはわからないぞ」
「なんとかしろ」
「なんとかねぇ」
「百目鬼、なんとかしなければおまえを封印させるぞ」
「わかったよ。じゃ、行ってくるとしよう」
「待て、蹴速とともに行け。蹴速はしっかり監視しろよ。そいつは油断ならぬ奴だからな」
蹴速は頷き、百目鬼の肩に手をまわして「行こうか」と促した。
「まったく、もう逃げやしないって」
百目鬼はそう文句を言いつつ闇に溶け込んで行った。
「さてと、どうしたものか」
鬼猫は蛭子に大黒の顔を見遣る。
「徹はもうこっち側の住人になってしまったのか。蛭子、どう思う」
「大黒、まだあいつは三途の川を渡っていない。呼び戻せるかもしれない」
「なら問題はあの邪魅が取り憑いた子供だな」
すぐにでも祓いたいところだが五人の子供たちが邪魔だ。だからと言って、強引に進むことはできない。この子たちもまだ完全に死んではいない。薄っすらと命の糸が見える。身体と繋がっていることは間違いない。徹にも命の糸はある。きっと大丈夫だ。
『百目鬼、早く目玉を戻してくれ。命を呼び戻してやってくれ』
鬼猫はそう念じて小さく息を吐いた。はたして百目鬼に命を呼び戻せるかどうか。正直できるのかさえわかっていない。だができるような気がした。そうだとしても五分五分だろうか。
「まずいな。大黒、蛭子、上を見ろ」
天井に暗雲が立ち込めていた。まだ遠くだが魑魅魍魎たちの気配が暗雲の向こう側から感じた。道が繋がってしまっている。いや、どこかで結界を張った者がいるようだ。それでも近づく者の気配は感じた。
「鬼猫、あの子供たちはわらわが呪いをかけたものたちだ。徹の願いを聞いてね。これはわらわの責任だ。なんとかしようではないか」
コクリの目が赤く染まり毛を逆立てていく。真っ白な毛が発光しはじめる。だが、なぜか光が萎んでいってしまった。
「どうしたコクリ」
「どうもおかしい。わらわにもわからない。力が誰かに奪われている気がする」
「奪われる」
鬼猫はあたりに目を向けた。他にも妖怪がいるのかもしれない。どこだ、どこにいる。大黒も恵比寿も様子を窺っている。
「コクリ、おまえ……」
気づかなかった。コクリは背中に傷を負っていた。血は止まっているようだが出血した痕が残っている。力が奪われたのではない。怪我で本来の力が出せないのだろう。おそらく徹がいた家の火事での怪我だろう。
「わららも気づかなかった」
「しかたがない奴だ。大黒、蛭子、ここは我らでなんとかするぞ」
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