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第3章 狐の涙

9 九尾の狐の心

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 鬼猫はコクリの心に目を向けていた。

『わらわはあの人の子と自分を重ね合わせていたのかもしれない。子供の頃、化け狐と言われて追い回されて怖い思いをしたときのことを。けど、母上の言葉が人を殺めることを拒否させた。母上は石になってしまったというのに』

 コクリは母上玉藻前の念が込められた石の欠片を手にして項垂れる。

『母上はまたしてもわらわを引き止めようとするのですね。あの人の子を守る龍の出来損ないと同じように。わらわは鬼猫を怨んでいたのだろうか。いや違う。鬼猫に会いたかったのかもしれない』

 コクリは溜め息を漏らして目を合わせてきた。

「わらわは間違いを犯してしまったのだろうか」
「そうかもしれないな」
「そうなのか。鬼猫、ならばもうあとには引けない。一緒に死んでくれ。外の者たちもわらわとともにあの世へ行ってもらおう」

 鬼猫はかぶりを振った。

「そうではないだろう。コクリ、今なら引き返せるさ。あの人の子もきっと龍が命を繋いでくれるはずだ。大丈夫だ。百目鬼が奪った目玉ももとへ戻させるさ」
「だが生き返ることはないだろう」

「いや、まだ間に合うかもしれない」
「けど、わらわはもう人間というものを信じることができない。どれだけ裏切られてきたのか」

「だから、怨みを晴らすというのか」
「毎朝手を合わせてくれたこの家の者たちはわらわを捨てて行ってしまったのだぞ。唯一の心の支えになっていたというのに。この暗い密閉した部屋に閉じ込めて行ってしまったのだぞ。何年帰りを待ったことか。それなのに知らぬ家族がやってきた。しかも、負の念が抱いて」

 鬼猫はコクリの涙を目にした。
 一人になってしまった寂しさ、辛さ、裏切られたとの思いがコクリを変えてしまったのだろう。だが、母上の石が以前のコクリへと引き戻してくれた。これでもう怨霊が招かれることもないだろう。おそらく。

 それにしてもなにやら外が騒がしい。この気はまさか……。大和に愛莉なのか。

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