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第2章 怨霊退治
2 大和と鬼猫
しおりを挟む大和はネオンの姿の鬼猫とともに猪田家へと向かっていた。愛莉はアパートで留守番しているだろう。大人しくしていればいいけど。何か訊かれたらとりあえず、親戚の子だとでも話しておくとしよう。
「すまない、大和とやら」
「えっ」
急に謝られても困る。相手はネオンの姿の鬼猫だ。言葉を話すとは言え、猫が口を利くことがどうにも違和感があって馴染めない。けど、猫と話せることは楽しくもある。
「大和を巻き込んでしまった。素戔嗚尊の生まれ変わりであっても関係はない。大黒は余計なことを教えてしまった。知ってしまったからには後戻りもできない。ただ、忠告をしておく。大黒の持つ剣を手にするではないぞ。いいな」
どういうことだろう。大黒様の剣がなんだというのだろう。
「聞いているのか」
「あっ、はい」
「大黒にも困ったものだ。あいつのせいで怨霊に大和の存在を知られてしまったのだから。我が守ってやる。安心するがいい」
「はい」
大和はそれしか答えられなかった。
「それにしても、忌々しき事態だ。過去の過ちが今再び繰り返そうとしている。鬼退治だとほざいているが、単なる殺人であり動物虐待だ。あってはならないことだ。身を潜めていた妖怪どもも騒めきはじめている。いや、逆かもしれぬ」
逆って。
訊きたいが、おそらく訊いたところでよくわからないだろう。やめておこう。幽霊は怖くはないが、怨霊が相手となると気をつけなくてはいけない。
大和は溜め息を漏らして鬼猫に目を向ける。この鬼猫はいったい何者なのだろう。普通に会話しているがこれは異常なことだ。鬼猫か。猫に身分が低いもなにもないだろうし、鬼猫は本物の鬼なのだろうか。
「あのさ、鬼猫って。その、鬼なのか」
「我は本物の鬼ではないぞ。もともと普通の猫と変わりはない。ただ、タタラ場で生まれただけのこと。あの場所では水銀を使っていたからな。所謂、奇形だ。額に瘤がふたつあってな。まるで鬼みたいだと噂になってしまった。帝はそんな些細な噂も許さなかった。タタラ場の民はすべて殺されてしまった。鬼退治だとの名目でな。我もその中にいた。そのあと、偶然災害やら疫病やらが起きて怨霊だと騒がれてしまって。気づけば鬼猫鎮神社の神と崇められてしまった。そんなところだ」
なるほど。よくある話だ。猫は珍しいかもしれないが人だったら、平将門や菅原道真が有名かもしれない。怨霊を鎮めるために神社を建立したってことか。こないだ話していた崇徳天皇もそうなのかもしれない。
怨霊か。関わりたくない存在だ。事実だったかはわからないけど。あの世で怨霊ではないと訴えているかもしれない。ふと大和はそんなことを考えてしまった。
そろそろ猪田家が近い。
「鬼猫、猪田家に着いたらネオンと呼ぶからな。普通の猫を装ってくれよ」
「わかっている」
「あっ、今更だけど神様にタメ口を利いてしまって天罰とか下されないよな」
「ふん、我はそんなこと気にしない。神だが昔も今も民と同じような会話を好む。今まで通りで構わないぞ。愛莉とはいつも友達口調だしな」
「そうか。それを聞いて安心した」
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