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第1章 鬼猫来る
10 猫たちに起きた悲劇
しおりを挟む大和は学校帰りに立ち寄ったコンビニで買ったハムとたまごのサンドイッチをパクつきながら、大黒様のことを考えていた。突然、アパートの部屋に現れたのは半年前のこと。それ以来、まったく音沙汰がない。あの日の朝起きたら、大黒様の姿はなかった。
赤茶トラ猫も力士も大黒様も怨霊もまったく姿を見せることはなかった。
あれは夢だったのだろうか。
そうだったらいいのだが、そんな気がしない。夢にしてはリアル過ぎた。しっかりと記憶に残っている。だけどあれから半年姿を見せていない。どういうことだろう。狙われているというのは間違いだったのだろうか。いや、時々外が騒がしいときがある。窓の外を覗いても特に何もないのだがどうにも気にかかる。視線を感じることもある。なのに、誰もいない。
そんな不思議なことはあるけれど、これといって被害にはあっていない。
この半年ずっと考えているのに答えは見えてこない。大黒様はどこかで見守っていてくれるのだろうか。
考えてもしかたがないか。もしも現実に起きたことだとしたら、またいずれ会うことになるだろう。
そんなことよりもネオンに会いたい。きっと猪田家の門のところでお出迎えしてくれるはずだ。あの角を曲がれば猪田家が見えてくる。同時にネオンの姿も見えるはずだ。
大和はネオンを待つ姿を想像して角を曲がった。
あれ、いない。
ネオンはどうしたのだろう。いつも待っていてくれているのに。まあ、いいか。そういう日もある。大和は猪田家の庭へと回り込む。
「幸吉さん、照さん」
チーもチコもキトの姿もない。縁側で日向ぼっこしていることが多いのに。今日はちょっと暑いから家の中で涼んでいるのだろうか。それとも何かあったのだろうか。
大和は一瞬、チーたちの悲鳴を耳にしたように感じられた。庭を見回してみたがなんの変化もない。
「大和……」
暗い顔をした照が顔を出す。やっぱり何かがあったのだろうか。
「どうしたの、照さん」
大和の問いかけに突然照は涙を零した。
えっ、なんで。
「チーが、チコが、キトが……死んじまったんだよ」
大和は耳を疑った。なんで、どうして。もしかして事故か。んっ、ネオンは……。
「事故でもあったの。照さん」
「わからない。庭で口から血を流して倒れていたんだよ。なんでこんなことに」
「そんな。で、ネオンは」
照は首を振るばかりで何も答えてくれなかった。
大和はすぐに家にあがり奥の部屋へと進んだ。
段ボール箱に入れられたチーたちがそこにいた。まったく動かないチーたちを目にした瞬間、心臓が締め付けられた。
「チー、チコ、キト。ほら、目を覚ませよ。ほら、どうした」
触れた瞬間、ハッとする。身体が冷たくて硬直している。死後硬直だろう。冷たくなってしまった身体を撫でてあげてももう目を細めて気持ち良さそうな顔をすることはない。大和は気づくと頬を濡らしていた。
「なあ、チー。ネオンはどこにいるんだ。一緒にいなかったのか」
返事がないことはわかっているが問い掛けていた。チーの幽霊が見えるかと思ったのに、気配がない。このへんにはチーたちの魂はいないのだろうか。すでに天国へ旅立ってしまったのだろうか。
ネオンを探そう。大和は立ち上がると庭に出て名前を呼びかけた。返事がない。こうなったら近所を隈なく探してやる。
数時間探しても結局、ネオンの姿をみつけることはできなかった。いったいどこへ行ってしまったのだろう。猪田家に戻ると、テレビから流れてくるニュースで衝撃の事実を知ってしまった。
逮捕された成瀬道也が脱走したというニュースだ。
精神鑑定のため入院していた病院から逃げてしまったらしい。警察はいったい何をしていたのだろう。
大和はハッとした。
まさか、チーたちの死は成瀬の仕業なのだろうか。
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