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第1章 鬼猫来る

2 加地大地の帰り道(2)

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 大和はいつものコンビニに向かい、モチモチ饅頭を自分のぶんを入れて三個買った。なんとなく目にしたチーズパンと海老煎餅とシャキシャキのレタスとハムのサンドイッチまで買ってしまった。
 完全な衝動買いだ。

 コンビニの袋を見つつ、まあいいかと思い直す。無駄遣いではない。食べたいから買った。それだけだ。すでにチーズパンを頬張っている。

 美味い。

 あっという間に完食してしまった。物足りなさを感じてサンドイッチまでパクついてしまう。レタスのシャキシャキ感はやっぱりいい。あまり野菜を食べないのだがこのサンドイッチは食べたくなるから不思議だ。オヤツだとしても食い過ぎだろう。その前にオヤツの時間ではない。まあ、そんなこと気にするな。袋の中を覗き込みニンマリする。猪田家に着いたら、モチモチ饅頭も食べよう。

 駄目だと思いつつも食べてしまう。そのわりには太っていないのが不思議だ。部活も入っていないし、運動らしい運動もしていない。いったい自分はどこでエネルギーを消費しているのだろう。

「あっ、どうもこんにちは」

 通りすがりの女性に会釈されて思わず挨拶をしてしまった。けど、今のは誰だろう。最近、よく挨拶をしてくるけど誰だかわからない。振り返ってみたものの女性の姿はなかった。幽霊だということははっきりしている。また見てしまった。霊感があるせいか、普通に幽霊を見てしまう。しかも、幽霊と気づかずに挨拶してしまうことが多々ある。いいのか悪いのかよくわからないが特に問題が起きているわけではないから気にすることはない。

 幽霊は怖いってイメージあるけど、生きている人とそれほど変わらない。いや、どちらかと言うと生きている人のほうが怖いかもしれない。悪霊とは出会ったことがないからそう言えるのかもしれないけど。

 そうか、霊的なものを見てしまうことが知らず知らずのうちにかなり体力を消耗している可能性もあるのか。幽霊に体力を奪われているって考え方もできるのかもしれないが、それはちょっと違う気もする。いや、違わないのか。

 んっ、もしかして駅からアパートまでの通学が運動になっているのだろうか。片道二十分くらいは歩いている。往復で四十分だから、考えてみたらまったく運動をしていないわけじゃない。学校でも毎日ではないが体育の授業はある。基礎代謝がいいってこともあるのかもしれない。

 あれ、なんでこんなことを考えているのだろう。どうだっていいことだ。とにかく猪田家に急ごう。モチモチ饅頭で笑顔になってもらおう。

 んっ、あれは蛇か。

 目を擦ってもう一度目を向けたが、蛇はいなかった。目の錯覚だろうか。蛇が黄金色に輝いていた。目の錯覚じゃないとしたら神の使いとかだろうか。

 なんだろう。今日はやけにいろんなものを見る。

 まあ悪意はなさそうだからいいか。けど、あの力士は……。

 力士の顔がどこか怒りを込み上げた顔つきに思えて大和はブルッと身体を震わせた。自分に向けられたものではないのは確かだが、あの怒りはどこに向けられたものなのだろう。大黒様も剣を掲げていた。まさかと思うが、戦いに向かったなんてことがあるのだろうか。

 あの世でも争い事はあるものなのだろうか。

 いやいや、そんなことは考える必要はない。余計なことを考えて巻き込まれでもしたら最悪だ。というかもうすでに巻き込まれているのだろうか。
 大和はかぶりを振って猪田家に急いだ。

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