そばにいるよ

景綱

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翔太とさとみの出会い

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「なあ、おまえ、なんで空きカンなんかで遊んでいるんだ。変わったネコだな」
「ニャー」
「まあいいや。空きカンはちゃんとゴミ箱に捨てなくちゃだめだぞ」
「ニャー」
「そういえば女の子の声もしたけど、どこにもいないなぁ。変だな。まあいいか」
「ニャー」

 翔太が白ネコに話しかけるたびにかすれたような声で鳴くのでなんだか白ネコと会話しているような気分になれてうれしかった。翔太は空きカンを拾うと駄菓子屋の横にあるゴミ箱のところまで歩いていった。白ネコも翔太を追いかけるようにちょこちょこと足にまとわりつきながら歩いてきた。白ネコはチラチラとこっちに目を向けてどうにも落ち着かない様子だ。

「空きカンはゴミ箱へ」

 翔太が空きカンをゴミ箱に放り投げた瞬間、「キャッ」との声とともに白ネコの目がギロリとにらみつけるように光った。白ネコは空きカンが捨てられたゴミ箱に飛び込んでいった。

「お、おい、なにをしてんだよ」

 白ネコがゴミ箱に飛び込んだ反動でゴミ箱はたおれあっちこっちに転がり出て空きカンだらけになってしまった。そのときまた悲鳴のような声がどこかでした。
 気のせいだろうか。あたりにはだれもいないのに、女の子の声がするなんて。翔太はブルッと体を震わせた。

「おや、どうしたんだい。このありさまは……」

 空きカンがばらまかれてけたたましい音におどろいた駄菓子屋のおばあちゃんが店先にひょっこりと顔を出した。

「あっ、ごめんなさい」
「おや、翔太じゃないか。おまえさんかい、こんないたずらしたのは」
「いや、その……」

 翔太がどうしたものかともじもじしていると、ゴミ箱から空きカンをくわえた白ネコが顔をのぞかせた。

「あらまあ、真犯人の登場かい」

 おばあちゃんは、白ネコを見てしわくちゃな顔をもっとくちゃくちゃにして微笑んだ。おばあちゃんも大のネコ好きだった。

「ミャーオ」

 白ネコは自分の大事な空きカンをみつけて大満足とでも言いたいのかニコニコ顔のおばあちゃんにあいさつをした。ゴミ捨て場みたいに空きカンだらけになっているのも白ネコはおかまいなしという感じだった。翔太はぶつぶつ文句を言いながら空きカン拾いにせいをだす。でも白ネコのむじゃきな顔を見るとにくめなかった。翔太は散らばった空きカンを全部拾い終えると白ネコがしっかりとくわえている空きカンをしゃがみ込んで見てみた。

「うーん、やっぱりだだの空きカンにしか見えないんだけどなぁ」
「その空きカンを取りたかったのかねぇ。このネコちゃんは」

 おばあちゃんは翔太に聞くように話した。

「うん、たぶんそうだと思うんだけど、ぼくにもよくわからないや」

 翔太はしゃがみ込んだままズリズリと足を引きずるように白ネコに近づくと、白ネコの青い目をみてたずねた。

「なあ、その空きカン、おまえにとってそんなに大事なものなのか?」
「はい」
「そうか、そうなのか。えっ、ええーっ。ネコが、ネコがしゃべった」

 翔太はしりもちをついてその場にかたまってしまった。おばあちゃんもこしをぬかしそうになって店の戸にもたれかかっていた。白ネコは飲み口の空いた穴を上にして空きカンをカタンとおくと頭を左右にゆらして翔太をのぞき込むように見た。前足をちょこんと空きカンの上におくように持ち上げてもいる。

「おい、何が言いたいんだよ。わからないよ。しゃべれるんだろう。わかるように言ってくれよ」

 白ネコは翔太をみつめてこきざみに左右に頭をゆらせた。

「おばあちゃん、わかる? 何を言いたいのか」
「そうだねぇ。何を言いたいのかねぇ。このネコちゃんはやっぱりしゃべれないようだしねぇ」
「じゃあ、さっきの声はだれの声?」
「んー、女の子のような声だったような……それとも、気のせいだったのかねぇ」

 翔太とおばあちゃんの会話を聞いた白ネコは「ニャー」と鳴くと空きカンの穴をのぞくようなしぐさをした。

「中をのぞけってことなのかな」

 翔太はおばあちゃんの顔を見てちょっとの間考えていた。考えてもしかたがないか。何か大切なものでも入っているのかもしれない。それとも化け物でも中にいるとか。まさか、それはないか。翔太はひざをつき空きカンの穴に目を近づけようとして途中でやめてしまった。胸の奥がドクンドクンとしていた。

 大丈夫かな。のぞかないほうがいいのかな。とんでもないものが中から飛び出してきたらどうしよう。白ネコを見ると早くのぞけという目をしているように感じた。意を決して翔太は穴をのぞいた。

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