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美月のミルク
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「モンド様」
「なんだ血相を変えてどうした。んっ、その赤子はもしや」
モンドの大きな身体がどかどかと近づいて来た。じっとみつめるや否や「間違いない。賢とやらが赤子になったのだな」と玉三郎に言い放つ。
「はい、これはいったいどういうことでしょう」
「ねぇ、ねぇ、賢は元に戻れるの。これじゃ画家の夢を叶えられないわ」
美月はモンドに詰め寄り訴えていた。目元が光って見えたのは気のせいだろうか。
「うむ、大丈夫だ。この者には夢の魂が効き過ぎているだけだ。命に関わるようなことはない。この現象はわしも久しぶりに見た。何百年前だったか記憶は定かではないがその者は立派な男となって帰っていった」
「そうなんだ。それなら賢も同じなの」
「まあそういうことだ。おそらく賢は化けるぞ」
「化け物になっちゃうの」
「違う、違う。世界に通じる有名画家になる可能性があるってことだ」
「すごい。よかった。私、死んじゃうんじゃないかって思っちゃった」
「美月、おまえは優しいな。というかこの者を好いておるのだろう。おまえの未来も少しは考えてやらねばならぬな」
「えっ」
「モンド様。娘のことはいいのです。夢月楼としてはこの者の夢をしっかり叶えてやることが使命なのです」
「まあそうだが。己家よ、お主も父親ならば娘の幸せもしっかり考えてやらねばいけないぞ。わしは悲しみのない世界にしたい。時期王となる身なのだからすべてを見通せる心広き者にならねばな」
「はい。モンド様」
流石王様だ。この国はモンドがいれば安泰のようだ。
あの大きな姿を見てしまうとどうしても恐怖を感じてしまうが心根は優しいようだ。自分も大丈夫みたいだし一安心だ。それよりも何百年前っていったい何歳なのだろう。それに立派になって帰った者ってのも気にかかる。誰のことだろう。
「ばぶ、ばぶ、ばぶ」
あっ、ダメだ。訊きたいのに口を開くと『ばぶ、ばぶ、ばぶ』になってしまう。
「賢、どうしたの。何か言いたいことがあるの。あっ、そうか。お腹が減っているんだったわね。けどどうしよう」
「美月」
「あっ、はい。モンド様」
「大丈夫だ。ちょっとこっちへおいで」
モンドに呼ばれて美月が近づいていく。
いったい何をしているのだろう。美月の頭を撫でているようだが何か意味があるのだろうか。
「あっ」
美月、どうかしたのか。
「ふむ、これでいい。美月よ、お主が賢を育ててやるのだ。お主の乳を飲んだとなればこの者の才能は一気に開花するであろう」
「モンド様、それはどういうことでしょうか。美月がその者を育てる。そんなこと。娘はまだ嫁入り前なのですよ」
「己家、わかっておる。これはこの者のためでもあるが美月のためでもある。心配するな」
「それはどういうことでしょう」
モンドは己家の問いに答えずに微笑んでいるだけだった。
美月が自分を育てる。それが才能を伸ばすことになるのか。それは凄い。ただ美月のためとはどういうことだろう。己家の問いに答えてほしかった。
「タマおじさま、賢を私のもとへお願い」
「んっ、なぜだ」
「いいから、いいから」
玉三郎に抱かれていた自分は美月の横へ下ろされた。
んっ、この匂い。これはもしかして。
ぐぅーっとお腹が鳴った。
「賢、ほら私のお乳を飲んでお腹いっぱいにして」
えっ、お乳。
やっぱりそうか。この匂いはミルクの匂いだ。気づかなかったがいつの間にか美月の乳房が膨らみを増していた。
どうしてとの思いもあったが空腹には勝てなかった。
美月のおっぱいにしゃぶりつきゴクゴクとミルクを飲んでいく。なんだか不思議な感覚だ。猫のミルクを飲んでいるだなんて。
「おい、嫁入り前の娘に何をする」
己家の怒りの孕んだ声が届くが無視を決め込んだ。今の自分にはお腹いっぱいになることが重要だ。猫の美月が母のように感じる。エロい感情はまったくなかった。これが生きるということなのかもしれない。
美月のミルクを飲むたびにエネルギーを感じた。身体に力が湧いてくる。頭がスッキリとして五感が研ぎ済まされていく。美月のミルクは何か特別なエキスが含まれているのではないだろうか。
モンドの話した才能が一気に開花すると言うのはこういうことなのかもしれない。
ああ、美味しかった。
満腹になり急に眠気を感じた。
ああ、なんだかあたたかい。もふもふな何かに包まれているようだ。そんな心地よさに賢は深い眠りへと誘われていった。
「お、遅れて申し訳ありません。僕の主様は何処に」
なんだか騒がしい奴が来たみたいだけど。まあいいや、今は眠ろう。
「なんだ血相を変えてどうした。んっ、その赤子はもしや」
モンドの大きな身体がどかどかと近づいて来た。じっとみつめるや否や「間違いない。賢とやらが赤子になったのだな」と玉三郎に言い放つ。
「はい、これはいったいどういうことでしょう」
「ねぇ、ねぇ、賢は元に戻れるの。これじゃ画家の夢を叶えられないわ」
美月はモンドに詰め寄り訴えていた。目元が光って見えたのは気のせいだろうか。
「うむ、大丈夫だ。この者には夢の魂が効き過ぎているだけだ。命に関わるようなことはない。この現象はわしも久しぶりに見た。何百年前だったか記憶は定かではないがその者は立派な男となって帰っていった」
「そうなんだ。それなら賢も同じなの」
「まあそういうことだ。おそらく賢は化けるぞ」
「化け物になっちゃうの」
「違う、違う。世界に通じる有名画家になる可能性があるってことだ」
「すごい。よかった。私、死んじゃうんじゃないかって思っちゃった」
「美月、おまえは優しいな。というかこの者を好いておるのだろう。おまえの未来も少しは考えてやらねばならぬな」
「えっ」
「モンド様。娘のことはいいのです。夢月楼としてはこの者の夢をしっかり叶えてやることが使命なのです」
「まあそうだが。己家よ、お主も父親ならば娘の幸せもしっかり考えてやらねばいけないぞ。わしは悲しみのない世界にしたい。時期王となる身なのだからすべてを見通せる心広き者にならねばな」
「はい。モンド様」
流石王様だ。この国はモンドがいれば安泰のようだ。
あの大きな姿を見てしまうとどうしても恐怖を感じてしまうが心根は優しいようだ。自分も大丈夫みたいだし一安心だ。それよりも何百年前っていったい何歳なのだろう。それに立派になって帰った者ってのも気にかかる。誰のことだろう。
「ばぶ、ばぶ、ばぶ」
あっ、ダメだ。訊きたいのに口を開くと『ばぶ、ばぶ、ばぶ』になってしまう。
「賢、どうしたの。何か言いたいことがあるの。あっ、そうか。お腹が減っているんだったわね。けどどうしよう」
「美月」
「あっ、はい。モンド様」
「大丈夫だ。ちょっとこっちへおいで」
モンドに呼ばれて美月が近づいていく。
いったい何をしているのだろう。美月の頭を撫でているようだが何か意味があるのだろうか。
「あっ」
美月、どうかしたのか。
「ふむ、これでいい。美月よ、お主が賢を育ててやるのだ。お主の乳を飲んだとなればこの者の才能は一気に開花するであろう」
「モンド様、それはどういうことでしょうか。美月がその者を育てる。そんなこと。娘はまだ嫁入り前なのですよ」
「己家、わかっておる。これはこの者のためでもあるが美月のためでもある。心配するな」
「それはどういうことでしょう」
モンドは己家の問いに答えずに微笑んでいるだけだった。
美月が自分を育てる。それが才能を伸ばすことになるのか。それは凄い。ただ美月のためとはどういうことだろう。己家の問いに答えてほしかった。
「タマおじさま、賢を私のもとへお願い」
「んっ、なぜだ」
「いいから、いいから」
玉三郎に抱かれていた自分は美月の横へ下ろされた。
んっ、この匂い。これはもしかして。
ぐぅーっとお腹が鳴った。
「賢、ほら私のお乳を飲んでお腹いっぱいにして」
えっ、お乳。
やっぱりそうか。この匂いはミルクの匂いだ。気づかなかったがいつの間にか美月の乳房が膨らみを増していた。
どうしてとの思いもあったが空腹には勝てなかった。
美月のおっぱいにしゃぶりつきゴクゴクとミルクを飲んでいく。なんだか不思議な感覚だ。猫のミルクを飲んでいるだなんて。
「おい、嫁入り前の娘に何をする」
己家の怒りの孕んだ声が届くが無視を決め込んだ。今の自分にはお腹いっぱいになることが重要だ。猫の美月が母のように感じる。エロい感情はまったくなかった。これが生きるということなのかもしれない。
美月のミルクを飲むたびにエネルギーを感じた。身体に力が湧いてくる。頭がスッキリとして五感が研ぎ済まされていく。美月のミルクは何か特別なエキスが含まれているのではないだろうか。
モンドの話した才能が一気に開花すると言うのはこういうことなのかもしれない。
ああ、美味しかった。
満腹になり急に眠気を感じた。
ああ、なんだかあたたかい。もふもふな何かに包まれているようだ。そんな心地よさに賢は深い眠りへと誘われていった。
「お、遅れて申し訳ありません。僕の主様は何処に」
なんだか騒がしい奴が来たみたいだけど。まあいいや、今は眠ろう。
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