満月招き猫

景綱

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おかしな売り物件

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 ショッピングモールへ行ってもなんだか占いのことが気になり楽しめなかった。本屋に行っても落ち着かず結局家に戻ることにした。
 カラフルな招き猫とか話していた。もしかしてスマホで見た記事の招き猫のことだろうか。まさかな。
 満月の夜になんか起きるんだっけ。えっと、扉が開くとかなんとか。
 美月とかいう占い師が口にした『運命に変化をもたらす』ってことと合致する。たまたまだ。偶然だ、きっと。何も起きたりしないさ。

 家に戻るバスから外の景色を眺めていたらこっちをじっとみつめる白猫をみつけた。
 なぜだか無性に気になり次の停留所で降りることにした。
 降りてからさっき白猫がいたあたりへと歩いて行く。汗が止まらない。気温がだいぶ上昇してきたと思われる。降りるんじゃなかった。
 白猫なんて気にするほうがおかしい。

 占いなんて信じていないはずなのに。どこかで引っ掛かっているのかもしれない。そんなんじゃダメだ。もしかしたら自分は騙されやすいのだろうか。人を信じやすいのだろうか。
 せっかく貯めた百五十万が泡のように消え去るなんてことが。馬鹿なこと考えるな。
 まあいい。せっかくここまで来たんだ。白猫を探そう。
 確かこの辺にいたはず。

 あたりをしばらく歩いてみたが白猫はどこにもいなかった。
 まったく何をしているのだろう。時間の無駄だ。気づけば人気のない裏路地まで来てしまっていた。
 空き地が結構ある。家もまばらだがあるにはある。

 んっ、この家。

 なぜだか妙に気にかかる。結構綺麗な家だけどなんとなく誰も住んでいない気がする。単に留守なだけなのだろうか。家の門の前に来るとそこに売り物件との看板がかかっていた。そうなのか。なんとはなしに二階の窓へと目を向けると何かがキラリと光った。

 んっ、なんだろう。

 少し移動してもう一度二階の窓に目を向けて心臓が跳ね上がった。あれは招き猫。しかもカラフルな招き猫だ。スマホで見た招き猫の写真に似ている。これこそ偶然だろうか。
 待てよ。ここは売り物件だろう。誰も住んでいないはずだ。なぜ、二階に招き猫がある。どういうことだ。目の錯覚。そうじゃない。
 賢は看板にあった不動産屋の電話番号を確認して電話をかけた。

「はい、二道にどう不動産です」

 反射的に電話をかけてしまった何を訊いたらいいものか迷ってしまう。この家を買うつもりはない。その前に家を買う金なんてないだろう。アルバイトじゃローンだって組めないだろうし。それでも何か話さなければ。

「もしもし、あの。二道不動産ですが」
「あっ、すみません。あの」

 ここはどこだろう。町名もわからない。この家のことを訊こうにもどこの家のことか伝えなければ向こうにはわからない。そうだ招き猫のある家って言えばわかるかもしれない。

「えっとですね。二階に招き猫がある家があるんですが、この家ってその売り物件なんですよね」

 こんなんでわかるだろうか。

「ああ、はい、はい。もちろんわかりますよ。それで購入されたいということでしょうか」
「あっ、いえ。そうではないのですが気になりまして」
「ほほう。気になりますか。それはもしかしたら縁があるかもしれませんねぇ。招き猫に呼ばれたかもしれませんよ。そうだったら凄いですよ、あなた」

 何を言っているのだろう。招き猫に呼ばれた。凄い。
 賢は首を捻りつつ「どういうことですか」と訊ねた。

「その家はですね。招き猫が住む方を選ぶんです。変なこと言っていると思いでしょうが本当の話でね。誰でも住めるわけではないのです。売値が百万円ですからね。もう人気物件ではあるんですが招き猫のお眼鏡に適うものが現れていないのですよ」

 不動産屋は電話の向こうで笑っていた。
 ふざけているのか。
 この家が百万円。そんな破格な売値の家があるか。しかも招き猫が住人を選ぶ。ありえない。もう話を聞くのはいいや。こんなところに居ても暑いだけだし。

「突然電話してすみませんでした。ありがとうございました」

 賢は電話を切り家路に着いた。

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