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第四章「暗雲を跳ね除けろ」
『万事休す』なのか……
しおりを挟む教室に避難をしたとたん窓ガラスが割れ突風が吹き荒れた。結界が破られてしまったようだ。魔猫集団が押し寄せて来る。校舎も音を立てて軋み出す。
もうダメだ。ここで全員殺されてしまうのだろうか。
嫌だ。そんなの嫌だ。
「ここはもうダメだ。みんな急いで体育館へ行くぞ。あそこならここより安全だ。そこに結界を張ろう。それには全員の力が必要だからね。急ぎなさい」
マネキ先生の言葉に従い急いで体育館へと駆けていく。
体育館にはすでに上級生たちもいて先生たちと一緒に結界を張るのを手伝っていた。微力ながらも心寧も手伝った。ほんのちょっとだけど四猫神様からもらえた力がある。だけど、本当にこのままでいいのだろうか。
結界を張ったところで魔猫たちをやっつけなきゃ意味がないんじゃないの。けど、力は向こうのほうが上みたい。カネルとかいう奴の言う通り、みんな平和ボケしていたのかもしれない。
こんなことになるなんて予想もしていなかったのだろう。自分もそうだもの。
うわっ。
体育館が突然横揺れして心寧はよろけてしまった。
外に目を向けると大きな真っ黒な猫が体育館に体当たりをしている。
「まずいですよ、猫仙人様。魔猫の頭領ネコルが復活してしまいました。どういたします」
「うむ、これは非常にまずい。やはり四猫神の力をよみがえらせなくては太刀打ちできまい。だがしかし……」
心寧は猫仙人の言葉を聞き再び大きくて真っ黒な猫へと目を向けた。あいつが魔猫のボスなのか。その隣にいるひとまわり小さいのがさっきのカネルとかいう魔猫だ。
ズドン、ズドドンとの音とともに体育館が揺れる。結界のおかげでなんとかなっているけど時間の問題かもしれない。
どうしたらいいの。
『お母さん』
『頑張っていれば、報われるわよ』
えっ、お母さん。どこ。
空耳だったろうか。いや、違う。どこかにいる。さっきいたじゃない。けど、ここにはいない。まさか魔猫にやられちゃったのだろうか。
心寧は嫌な考えを振り払いお母さんの言葉を頭の中で繰り返した。
『頑張っていれば、報われる』か。
でも、でも、でも。どう頑張ればいいの。
四猫神様がいなくなっちゃったのに。まだ力をもらえていないのに。
そういえばチムはどうなったのだろう。殺されてしまったのだろうか。んっ、それはないか。だってチムは幽霊なんだもの。もう死んでいる。けど、あの子は魂となって生きている。なんだか変なこと言っているけど、あの子はあの世へはいっていない。
チム……。
困り顔の黒白猫のチム。
なぜだか無性に気になってしまう。まだどこかにいるのなら助けてあげたい。
ズドン、ズドドン。
「うわわっ」
なにを考えているのだろう。チムを助けてあげたいだなんて。自分の身が危ないって言うのに。心寧はフッを笑った。そうなんだ。いつも自分のことより誰かのことを考えてしまう。みんなが笑ってくれるとなんだか心があったかくなるんだもの。
心寧はため息を漏らして必死に結界を張るみんなの姿に目を向けた。
みんながんばっている。けど……。
体育館の外では魔猫ネコル、カネルとともにたくさんの魔猫たちが攻撃をしかけてきている。
『わたしの夢は叶えられずに終わってしまうのだろうか。笑顔の花を咲かせることはもうできないのだろうか』
乙葉と乙葉のお母さんの顔がふと浮かぶ。
魔猫集団がこの世を支配しはじめたら人の世もおかしくなってしまうのかもしれない。それでいいの。ここで諦めてもいいの。ダメでしょ。でも、ダメダメな自分にはなにもできない。
心寧の目から涙が溢れ出す。
やっぱりダメ。ダメダメな自分にもなにかやれることがあるはず。
「ぼ、ぼく……。ああ、苦しいよ。助けて……」
心寧は耳をピンと立たせた。今の声は……誰。
「た・す・け・て……」
誰かが助けを呼んでいる。どこ、どこなの。
耳を動かし心寧は声のする場所を探した。
体育館の中じゃない。もしかして校舎にまだ誰かが残っているのだろうか。いや、違う。
あっ、下からだ。下って……。もしかして四猫神様の墓。
もしかして四猫神様が。ううん、違う。シュレンでもソウでもハクでもない声だ。じゃ誰なの。コクだろうか。
わからない。まさか……。
心寧は駆け出した。
「心寧ちゃん、どうしたの。ダメだよ、ここから出たら危ないよ」
ムサシの声が背後から飛んできたが走ることをやめなかった。なぜだかわからないけど行かなきゃいけない気がした。
心寧は走りに走った。
体育館を飛び出し廊下を駆け抜けて地下への扉を目指す。
もしかしたら助けを求めているのは……。
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