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第三章「修行で大騒ぎ」
全員登頂
しおりを挟む「本当によかった。心寧ちゃんが急にいなくなっちゃうから心配していたよ」
ムサシに抱きつかれてそんなこと言われるなんて。なんて幸せなの。
「ちょっと、離れて。私にもギュッとして」
ココが割り込んで来て瞳を潤ませる。
もうココったら。もっとムサシのぬくもりを感じていたかったのに。
「ああ、嫌だ、嫌だ。三角関係は嫌だねぇ。どんくさくてもそっち方面には素早いんだな」
ミヤビの言葉に頭に血が上る。
「わたくしも嫌ですわ。心寧ちゃんのおかげで無駄な時間を過ごしたではないですか。そのあげくこんな三流恋愛ドラマみたいなもの見せられて面白くありませんわ」
ルナまでそんなこと言うの。ちょっとくらい心配してくれたっていいじゃない。あっ、もしかしてルナもムサシのこと……。どうなのだろう。ムサシは頭もいいし、運動もバッチリだしカッコイイもの。もしかしたら、女子全員敵にまわしちゃっているかも。そうだとしたら自分はどうしたらいいの。
心寧はムサシのことを考えないようにした。今は、猫神様を目指す。それだけを考えよう。そのために猫神学園に入学したんだから。園音様にも申し訳ない。
「ちょっと、ちょっとミヤビくんにルナちゃん。神聖な場所でそんなこと言っちゃいけません。ほら、山猫神様もいますよ」
「ふぉふぉふぉ、本当に面白い生徒たちだ」
「すみません。騒がしくて」
「いや、マネキ先生。それくらいがちょうどいい。我も楽しめるってものだ」
山猫神様の存在にみんなやっと気がついたらしく口をポカンと開けて見上げていた。大き過ぎると意外と目に入らないのかもしれない。自分と同じく大木と思っていたのかもしれない。
「でっけぇ。さすが山猫神様だ」
ミヤビは感嘆の声をあげている。
ワサビもなにか話したようだが聞こえなかった。
コマチは「わたくしったら山猫神様に気づかないなんて、失礼なことを」と口走り頭を下げて伏せをしている。
ムサシもルナも目を見開き固まっている。ノワールとマル、ココもだ。置物みたいに動かない。
サクラは「シイの木かと思った」とボソッと口にした。
「ほほう、シイの木とはな」
「あっ、失礼なこと言っちゃった。ごめんなさい」
「いやいや、かまわんよ」
マネキ先生は頭を下げると「山猫神様のお話を聞きましょう」と全員を山猫神様のまわりに集めた。
「マネキよ、我はたいした話はできぬよ。ここへ登頂することが修行になるのだからな」
「いえいえ、そんなことはありません。長年ここで修行された山猫神様ならそのたいしたことない話でもためになるはずです」
「うむ、そうか。それなら」
山猫神様は空を仰ぎ、なにやら考えている様子。
「そうだな。なにを話そうか。うむ……。それではあの話にしよう」
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