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第三章「修行で大騒ぎ」
狐神様のお言葉
しおりを挟む狐神様は次々と生徒たちのいいところ悪いところを指摘して助言をしていった。はじめて会うはずなのに的確なものだった。
ワサビは芸術に司る猫神様となるだろうとの言葉に一瞬だけ目を輝かせていた。
あれ、ワサビは嬉しくないのだろうか。いや、嬉しいはずだ。もっと喜べばいいのに。まわりに気を使っているのだろうか。いや、きっとワサビなりに喜んでいるのかもしれない。もっと感情を出せばいいのに。
心寧はそう思ったのだが、それもワサビらしいのかもとも思った。
ココは恋愛を司る猫神様か。ノワールは商売繁盛に力を発揮するのか。特に食に関する商売に強いらしい。わかる気がする。
マルは家内安全でコマチは学問なのか。なるほどと心寧は頷いていた。
サクラは五穀豊穣に強いみたい。
ムサシはオールマイティだなんて、やっぱりすごい。
ただルナに関しては厳しい言葉が。
「今のままでは猫神様としては難しいだろう。能力をむやみに自慢しないことだ」だなんて。まさかの言葉が飛び出してルナは憤慨していたのだが、続きの言葉を聞くなり口角をあげてニヤリとしていた。
「もっと、己自身をみつめなさい。開眼した折にはこの国を守れるくらいの大きな猫神になれるであろう」
確かにすごい言葉だ。国を守るだなんてすごすぎる。
「さすが偉い狐神様だわ。よくわたくしのことをわかっていらっしゃる。そう、わたくしこそこの国を守る猫神になれる存在なのですわ」
ルナは高らかに笑っていた。狐神様はそんな様子に苦笑いを浮かべていたがなにも口にしなかった。きっと、そういう態度を直さないとダメだってことなのではないだろうか。心寧はひとり頷いていた。いや、自分だけじゃないみたい。コマチとムサシもそう思っていそうだ。あれ、ミヤビももしかしたら同じこと思っているのかも。
「最後に心寧だが……」
「えっ、あっ、わたし」
「うむ、そうだ」
あっ、やっと自分の番だ。ここでも最後だなんて。よっぽど『最後』に縁があるみたい。いいのか悪いのかわからないけど、まあいいや。いったいなんて言われるのだろう。
猫神様は無理だなんて言われたらどうしよう。
ああ、なんだかドキドキしてきた。どんなお言葉が聞けるか気になるけど、聞きたくない気持ちもどこかにある。
『お母さん、園音様、わたし大丈夫だよね』
心寧は祈る気持ちで狐神様の言葉を待った。
「ふむ、知力、体力ともに不足しているようだな。集団行動も苦手とみた。自分勝手で自己中心的だと思われがちだがそれは違うな。慈しみ思いやる心が強い。そのため困っている人を見過ごせないようだ。それにお主といるだけで不思議と笑顔になれる。うむ、お主自身愛される存在となるだろう。そのまま突き進みなさい。慈愛の猫神様となるであろう。園音が気に入ったのも頷ける」
えっ、園音様に気に入られているの。そうなの、本当に。その言葉だけで心寧の心は舞い上がっていた。
「慈愛の猫神様か。心寧ちゃんにぴったりだね」
えっ、ぴったり。ムサシに言われるとなんだか照れてしまう。そうか、ぴったりか。それなら勉強も運動もダメダメでもいいのかも。
「心寧、知力、体力もしっかりつけていかなければダメだぞ。そうでないと叶えてあげられぬ願いが出てきてしまうかもしれぬからな。とにかくがんばる姿勢が大事だ。いいな」
「あっ、はい」
やっぱりダメダメのままじゃダメなのか。そりゃそうだ。がんばらなきゃ。けど、自分にもすごいと思えることがあると知った。愛することが他のみんなよりすごいんだ。
すごいと思えることがあってよかった。
「最後に、それぞれの力にあった神社に参拝しにいくこと。それがお主たちの力を向上させることだろう。いくべき場所は各々気づきがあるであろうから探すことはない。時期が来たら自然と足が向くであろう。みんな、がんばりなさい」
狐神様はそう告げるとどこかに吸い込まれるように消え去ってしまった。
「みんな、狐神の長九郎にお礼を言って次の修行場へ行きましょう」
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