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第三章「修行で大騒ぎ」
マラソン大会でもやっぱり……
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真っ青な空に一筋の雲が流れていく。姿は見えないけど、きっと龍神様が晴れにしてくれたのだろう。
あっ、どこからか鳥たちの楽しそうに歌が聞こえてくる。きれいな歌声だ。自分もあんなふうに歌ってみたい。
耳を澄ませて鳥の歌声を聞き入った。
ステキ。
鳥はどこで歌っているのだろう。
えっと、えっと。どこ、どこ。
ダメダメ。鳥を探しちゃダメ。マラソン大会なんだからそっちに集中しなきゃ。
危ない、危ない。気づいたらスタートしていたなんてことになったらビリ確定しちゃうじゃない。心寧はまわりに目を向けてまだスタートしていないことを確認する。
集中、集中。
ちょっと寒いけど気持ちいい朝だ。マラソン大会にはもってこいの日だ。いや、くもりのほうがよかったかも。太陽に照らされてだんだん暑くなってしまうかも。そうなったら絶対にばててしまう。そうならないように気をつけなきゃ。
よし、準備運動しておこう。
心寧は準備運動しながらみんなの様子を窺い、今日は絶対にビリ脱出だと誓った。ふとっちょノワールにはきっと勝てる。おっとりのんびりのマルにも勝てそうだ。体力なさそうなワサビにも勝てるはず。いつもそう思っているのにビリだけど、今日は違うと信じたい。
あっ、そろそろスタートみたい。心寧はスタート地点に駆け寄り今日こそはと気合を入れる。
「位置について、よーい」
パーーーン。
えっ、なになに。今の音なに。そう思ってキョロキョロしていたらみんなが走り出す。
あっ、しまった。出遅れた。
いっつもこれだ。もうなにをしているの。スタートの合図に驚くなんて。こんなんだからスタートダッシュできないんじゃない。いや、この短い足のせいで遅いのかも。みんなよりちょっと身体も小さいし、体力一番ないのかもしれない。
ダメダメ。マイナスなことは考えないの。無心でがんばるの。そうすればきっと。ほら、後ろにノワールがいるじゃない。マルも後ろだ。出遅れたのは自分だけじゃない。
目の前にはワサビもいる。がんばれば抜けるかも。今日は今のところビリじゃない。後ろにふたりいる。今日はいける。大丈夫。
先頭はムサシみたい。ああ、もうあんな遠くに。ミヤビも追いかけて行く。なんであんなに早く走れるのだろう。
あっ、しまった。マルに抜かれた。考え事しながら走っているからいけないんだ。無心で走るの。がんばるの。
大丈夫、ノワールがまだ後ろにいる。
あっ、あんなところにチョウチョがいる。
待て、待て、待て。
あっ、ダメダメ。
そうよ、いつもビリなのはこれも原因だ。わかっていてもつい気になっちゃって。足が遅いのにこれじゃビリ脱出は無理だ。今日こそは前をしっかり見てゴールに向かわなきゃ。短距離走とは違うからきっと大丈夫。
前だけを見て、無心で走るの。
「心寧ちゃん、がんばって」
あっ、園音様だ。思わず立ち止まって「わたし、がんばるね」と手を振ってしまった。
「心寧ちゃん、ほらほら走らなきゃ」
そうだった。またビリになっちゃう。もう、なんでこうなの。
「やった、心寧ちゃんに追いついたぞ」
ノワールが隣に来ていた。
今日は絶対の絶対の絶対、ビリ脱出する。負けないんだから。
あれ、どこかで泣き声がする。どこ、どこ。女の子の泣き声だ。
心寧は足を止めてあたりを見回す。あっ、いた。いったいどうしたのだろう。助けてあげなきゃ。心寧は女の子のいる木の下へとダッシュした。
「ねぇ、どうしたの。なにがそんなに悲しいの」
女の子は木の上を見ていた。
上になにかあるのだろうか。
んっ、あれは風船。そうか、風船か。
心寧は木の幹にしっかり爪を立てて登っていく。風船が引っ掛かっているところの枝へとしがみつき枝の上をゆっくりと進む。ちょっと揺れてビクッとして落ちそうになるのをなんとか堪えた。女の子を笑顔にしたくて心寧は風船へと近づいていく。枝に絡まった風船から垂れ下がる紐をどうにか手繰り寄せて口でくわえると木の幹に爪をうまく引っかけてズリズリとずり落ちていく。
女の子は気づくと泣いていなかった。こっちをじっとみつめている。不思議そうな顔をしている。
風船の紐をくわえて女の子に近づくとニコリと微笑み頭を撫でてくれた。
「猫さん、ありがとう」
やった、またひとり笑顔の花を咲かせられた。
胸の奥にあたたかなものが広がっていく。やっぱり『ありがとう』の言葉は心地いい。
あっ、あああ、もしかしてまたやっちゃった。もしかしなくてもやっちゃったんだ。
もうなにをしているの。マラソン大会の途中だったでしょ。
ああ、もう。
そうだ、ノワールは……。
えっと、えっとノワールはどこ。いた。ああ、もうあんな遠くにいる。ダメだ、これじゃ追いつけない。
結局心寧はまたビリだった。
もう、もう、もう。バカ、バカ、バカ。
こんなんじゃいつまでたってもビリ脱出できない。けど、女の子を笑顔にできた。マラソン大会の順位と女の子の笑顔。どっちが大切だろう。
もちろん、笑顔の花を咲かせることだ。
そうそう、それならビリだっていいじゃない。
心寧はひとり頷き胸を張った。でも、一度くらいはビリを脱出したい。
***
「心寧ちゃん、なにをしているの。置いて行かれちゃうよ」
あっ、そうだった。今は修行旅行の途中だ。考え事しなら歩くのは危ない。ダメダメ。気をつけなきゃダメ。
「待って、待って、待ってよ」
わかっていても自分の性格は直らない。けど、直す必要はあるのだろうか。人を笑顔にさせているのだからそのままでもいいのかもしれない。あのときもそう思った。でも、迷惑かけるのはよくないか。それじゃどうすればいいのか。
あっ、ダメダメ。また遅れている。
心寧は急いで最後尾に追いつき歩みを進めた。
あっ、どこからか鳥たちの楽しそうに歌が聞こえてくる。きれいな歌声だ。自分もあんなふうに歌ってみたい。
耳を澄ませて鳥の歌声を聞き入った。
ステキ。
鳥はどこで歌っているのだろう。
えっと、えっと。どこ、どこ。
ダメダメ。鳥を探しちゃダメ。マラソン大会なんだからそっちに集中しなきゃ。
危ない、危ない。気づいたらスタートしていたなんてことになったらビリ確定しちゃうじゃない。心寧はまわりに目を向けてまだスタートしていないことを確認する。
集中、集中。
ちょっと寒いけど気持ちいい朝だ。マラソン大会にはもってこいの日だ。いや、くもりのほうがよかったかも。太陽に照らされてだんだん暑くなってしまうかも。そうなったら絶対にばててしまう。そうならないように気をつけなきゃ。
よし、準備運動しておこう。
心寧は準備運動しながらみんなの様子を窺い、今日は絶対にビリ脱出だと誓った。ふとっちょノワールにはきっと勝てる。おっとりのんびりのマルにも勝てそうだ。体力なさそうなワサビにも勝てるはず。いつもそう思っているのにビリだけど、今日は違うと信じたい。
あっ、そろそろスタートみたい。心寧はスタート地点に駆け寄り今日こそはと気合を入れる。
「位置について、よーい」
パーーーン。
えっ、なになに。今の音なに。そう思ってキョロキョロしていたらみんなが走り出す。
あっ、しまった。出遅れた。
いっつもこれだ。もうなにをしているの。スタートの合図に驚くなんて。こんなんだからスタートダッシュできないんじゃない。いや、この短い足のせいで遅いのかも。みんなよりちょっと身体も小さいし、体力一番ないのかもしれない。
ダメダメ。マイナスなことは考えないの。無心でがんばるの。そうすればきっと。ほら、後ろにノワールがいるじゃない。マルも後ろだ。出遅れたのは自分だけじゃない。
目の前にはワサビもいる。がんばれば抜けるかも。今日は今のところビリじゃない。後ろにふたりいる。今日はいける。大丈夫。
先頭はムサシみたい。ああ、もうあんな遠くに。ミヤビも追いかけて行く。なんであんなに早く走れるのだろう。
あっ、しまった。マルに抜かれた。考え事しながら走っているからいけないんだ。無心で走るの。がんばるの。
大丈夫、ノワールがまだ後ろにいる。
あっ、あんなところにチョウチョがいる。
待て、待て、待て。
あっ、ダメダメ。
そうよ、いつもビリなのはこれも原因だ。わかっていてもつい気になっちゃって。足が遅いのにこれじゃビリ脱出は無理だ。今日こそは前をしっかり見てゴールに向かわなきゃ。短距離走とは違うからきっと大丈夫。
前だけを見て、無心で走るの。
「心寧ちゃん、がんばって」
あっ、園音様だ。思わず立ち止まって「わたし、がんばるね」と手を振ってしまった。
「心寧ちゃん、ほらほら走らなきゃ」
そうだった。またビリになっちゃう。もう、なんでこうなの。
「やった、心寧ちゃんに追いついたぞ」
ノワールが隣に来ていた。
今日は絶対の絶対の絶対、ビリ脱出する。負けないんだから。
あれ、どこかで泣き声がする。どこ、どこ。女の子の泣き声だ。
心寧は足を止めてあたりを見回す。あっ、いた。いったいどうしたのだろう。助けてあげなきゃ。心寧は女の子のいる木の下へとダッシュした。
「ねぇ、どうしたの。なにがそんなに悲しいの」
女の子は木の上を見ていた。
上になにかあるのだろうか。
んっ、あれは風船。そうか、風船か。
心寧は木の幹にしっかり爪を立てて登っていく。風船が引っ掛かっているところの枝へとしがみつき枝の上をゆっくりと進む。ちょっと揺れてビクッとして落ちそうになるのをなんとか堪えた。女の子を笑顔にしたくて心寧は風船へと近づいていく。枝に絡まった風船から垂れ下がる紐をどうにか手繰り寄せて口でくわえると木の幹に爪をうまく引っかけてズリズリとずり落ちていく。
女の子は気づくと泣いていなかった。こっちをじっとみつめている。不思議そうな顔をしている。
風船の紐をくわえて女の子に近づくとニコリと微笑み頭を撫でてくれた。
「猫さん、ありがとう」
やった、またひとり笑顔の花を咲かせられた。
胸の奥にあたたかなものが広がっていく。やっぱり『ありがとう』の言葉は心地いい。
あっ、あああ、もしかしてまたやっちゃった。もしかしなくてもやっちゃったんだ。
もうなにをしているの。マラソン大会の途中だったでしょ。
ああ、もう。
そうだ、ノワールは……。
えっと、えっとノワールはどこ。いた。ああ、もうあんな遠くにいる。ダメだ、これじゃ追いつけない。
結局心寧はまたビリだった。
もう、もう、もう。バカ、バカ、バカ。
こんなんじゃいつまでたってもビリ脱出できない。けど、女の子を笑顔にできた。マラソン大会の順位と女の子の笑顔。どっちが大切だろう。
もちろん、笑顔の花を咲かせることだ。
そうそう、それならビリだっていいじゃない。
心寧はひとり頷き胸を張った。でも、一度くらいはビリを脱出したい。
***
「心寧ちゃん、なにをしているの。置いて行かれちゃうよ」
あっ、そうだった。今は修行旅行の途中だ。考え事しなら歩くのは危ない。ダメダメ。気をつけなきゃダメ。
「待って、待って、待ってよ」
わかっていても自分の性格は直らない。けど、直す必要はあるのだろうか。人を笑顔にさせているのだからそのままでもいいのかもしれない。あのときもそう思った。でも、迷惑かけるのはよくないか。それじゃどうすればいいのか。
あっ、ダメダメ。また遅れている。
心寧は急いで最後尾に追いつき歩みを進めた。
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