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第二章『猫神学園に入学だ』
わたしの名前は心寧
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「乙葉ちゃん、心寧帰ったよ」
玄関前で叫んでみたが誰も出てこない。あれ、誰もいないみたい。ちょっと小腹が空いているけどまあいいや、リンゴの木箱に入って待ってよう。
んっ、鍵の開く音だ。
木箱を飛び出し玄関扉の前に座り込む。乙葉はいたのか。ごはん、ごはん、ごはんをちょうだい。あれ、違った。乙葉のお母さんだ。
「あっ、子猫ちゃんいたのね。お腹空いた? なにか食べる」
「うん、食べる、食べる」
乙葉のお母さんの足に抱きつくとカリカリのいつものごはんが出てきた。心寧は乙葉のお母さんを見上げてじっとみつめる。
「あれ、お腹減ったんじゃないの」
違うの。魚か肉がいいの。
あっ、ダメダメ。そんなワガママ言っちゃダメだ。カリカリのごはんの匂いを嗅いで、一口かじる。やっぱり猫神学園で食べたサンマとササミが食べたい。いやいや、あんなおいしいもの滅多に食べられるものじゃない。ここはカリカリで我慢するか。
んっ、我慢。いや、我慢するほどまずくはない。それに乙葉にもお母さんにも失礼だ。せっかく食べさせてくれているのに。けど、サンマとササミが……。
心寧はブルブルッと頭を振るわせてカリカリにかじりつく。そうだ、この間食べた柔らかいのはないのかな。チラッとだけ乙葉のお母さんに目を向けたがすぐにカリカリに目を戻す。
ないんだよね、きっと。それならいいの、カリカリで。
「そういえば子猫ちゃんの名前つけてないよね。乙葉、名前つけてあげたのかな」
「えっ、名前。わたし、心寧だよ」
「うーん、いい名前考えてあげないとね」
「だから、心寧だってば」
いくらそう叫んでもわかってくれない。
「どうしたの。もっと食べたいのかな」
「違う、違う。わたしの名前は、こ・こ・ね、なの」
「じゃ、もう少しだけあげるね」
ああ、ダメだ。全然通じない。しかたがない、もうちょっとだけ食べて寝よう。そう思っていたら背後から「あら、可愛い子猫ちゃんだこと」との声が飛んで来た。
振り返ると和服が良く似合う女の人が近づいてくるところだった。
「あの、ちょっと撫でてもいいかしら」
「はい」
「あっ、ごめんなさいね。急に来て挨拶もしないで。私、園音といいます。ちょっとこの辺に引っ越してこようと思いましてね。いい物件がないかって探しているところなんですよ」
えっ、園音って。もしかして、園音様が化けているの。チラッと女の人の顔を見やるとウィンクしてきた。間違いない、園音様だ。
「そうなんですか」
「ええ、そうなんです。それにしても本当にかわいいわね」
「そうでしょ。娘がかわいがっているんですよ」
「あら、もしかして外で飼っているのかしら」
「まあ、そうなんです。なんだかこの子猫ちゃん、家の中に入ろうとしないんですよ」
「なるほど、怖いのかしらね。それにしても本当にかわいい。私が以前飼っていた猫にそっくり。心寧って名前をつけていたんですけどね。この子はなんて名前なんですか」
「いえ、その。まだ名前はなくて」
「そうなんですか。あの、もしよろしければ心寧とつけてもいいでしょうか。すごくそっくりなんです」
「そうですね。ココネちゃんですか。確かにかわいらしい名前ですよね」
「そうでしょ、そうでしょ。『心』に丁寧の『寧』の字で心寧って言うんです。いいですよね」
「決めた。今日からこの子は心寧ちゃんにします」
「よかった。あなたの名前は心寧よ。あっ、すみません。約束があるのを忘れていました。それではこれで」
園音様はそう呟くとお辞儀をして帰っていった。
乙葉のお母さんは心寧という名前が気に入ったのかしきりに「心寧ちゃん」と呼んでいた。
もうそんなに呼ばなくてもいいって。わかったから。どう反応していいのか困っちゃうじゃない。けど、誰かに名前を呼んでもらうってほっこりする。
園音様に感謝しないといけない。
ムムタみたいに違う名前で呼ばれることもない。
『そういえばムムタさん、どこいっちゃったんだろう。帰って来ないな』
何気なく道路のほうへ目をやると八の字眉毛の黒白猫の子が門柱からちょっとだけ顔を出していた。あっ、あの子。
心寧は八の字眉毛の黒白猫の子ほうに行こうとしたのだが、足を動かしても前に進まず空を切ってしまう。
んっ、なに、なに。
『わたし、浮いている』
えっ、なんで、なんで。あっ、乙葉のお母さんの手がある。そうか抱き上げられちゃったのか。
ちょっと待って、待って。どこへ行くつもり。ああ、そっちには行きたくない。
「ねぇ、ねぇ、乙葉のお母さん。下ろしてよ。お願いだから。わたしは木箱がいいの」
違う、そうじゃない。今は、あの黒白猫の子のところに。あれ、いなくなっちゃった。
「あっ、ムムタさんだ。ねぇ、ちょっとムムタさん助けて。わたし外がいいの。ちょっと、ちょっと、どこいっちゃうの。待ってってばムムタさーーーん」
ムムタはチラッとだけこっちに目を向けたが真剣な眼差しでどこかへ行ってしまった。なんで、どうして。
心寧はどうにかしようともがいてみたが、抵抗虚しく抱かれたまま家の中へと連れて行かれてしまった。
玄関前で叫んでみたが誰も出てこない。あれ、誰もいないみたい。ちょっと小腹が空いているけどまあいいや、リンゴの木箱に入って待ってよう。
んっ、鍵の開く音だ。
木箱を飛び出し玄関扉の前に座り込む。乙葉はいたのか。ごはん、ごはん、ごはんをちょうだい。あれ、違った。乙葉のお母さんだ。
「あっ、子猫ちゃんいたのね。お腹空いた? なにか食べる」
「うん、食べる、食べる」
乙葉のお母さんの足に抱きつくとカリカリのいつものごはんが出てきた。心寧は乙葉のお母さんを見上げてじっとみつめる。
「あれ、お腹減ったんじゃないの」
違うの。魚か肉がいいの。
あっ、ダメダメ。そんなワガママ言っちゃダメだ。カリカリのごはんの匂いを嗅いで、一口かじる。やっぱり猫神学園で食べたサンマとササミが食べたい。いやいや、あんなおいしいもの滅多に食べられるものじゃない。ここはカリカリで我慢するか。
んっ、我慢。いや、我慢するほどまずくはない。それに乙葉にもお母さんにも失礼だ。せっかく食べさせてくれているのに。けど、サンマとササミが……。
心寧はブルブルッと頭を振るわせてカリカリにかじりつく。そうだ、この間食べた柔らかいのはないのかな。チラッとだけ乙葉のお母さんに目を向けたがすぐにカリカリに目を戻す。
ないんだよね、きっと。それならいいの、カリカリで。
「そういえば子猫ちゃんの名前つけてないよね。乙葉、名前つけてあげたのかな」
「えっ、名前。わたし、心寧だよ」
「うーん、いい名前考えてあげないとね」
「だから、心寧だってば」
いくらそう叫んでもわかってくれない。
「どうしたの。もっと食べたいのかな」
「違う、違う。わたしの名前は、こ・こ・ね、なの」
「じゃ、もう少しだけあげるね」
ああ、ダメだ。全然通じない。しかたがない、もうちょっとだけ食べて寝よう。そう思っていたら背後から「あら、可愛い子猫ちゃんだこと」との声が飛んで来た。
振り返ると和服が良く似合う女の人が近づいてくるところだった。
「あの、ちょっと撫でてもいいかしら」
「はい」
「あっ、ごめんなさいね。急に来て挨拶もしないで。私、園音といいます。ちょっとこの辺に引っ越してこようと思いましてね。いい物件がないかって探しているところなんですよ」
えっ、園音って。もしかして、園音様が化けているの。チラッと女の人の顔を見やるとウィンクしてきた。間違いない、園音様だ。
「そうなんですか」
「ええ、そうなんです。それにしても本当にかわいいわね」
「そうでしょ。娘がかわいがっているんですよ」
「あら、もしかして外で飼っているのかしら」
「まあ、そうなんです。なんだかこの子猫ちゃん、家の中に入ろうとしないんですよ」
「なるほど、怖いのかしらね。それにしても本当にかわいい。私が以前飼っていた猫にそっくり。心寧って名前をつけていたんですけどね。この子はなんて名前なんですか」
「いえ、その。まだ名前はなくて」
「そうなんですか。あの、もしよろしければ心寧とつけてもいいでしょうか。すごくそっくりなんです」
「そうですね。ココネちゃんですか。確かにかわいらしい名前ですよね」
「そうでしょ、そうでしょ。『心』に丁寧の『寧』の字で心寧って言うんです。いいですよね」
「決めた。今日からこの子は心寧ちゃんにします」
「よかった。あなたの名前は心寧よ。あっ、すみません。約束があるのを忘れていました。それではこれで」
園音様はそう呟くとお辞儀をして帰っていった。
乙葉のお母さんは心寧という名前が気に入ったのかしきりに「心寧ちゃん」と呼んでいた。
もうそんなに呼ばなくてもいいって。わかったから。どう反応していいのか困っちゃうじゃない。けど、誰かに名前を呼んでもらうってほっこりする。
園音様に感謝しないといけない。
ムムタみたいに違う名前で呼ばれることもない。
『そういえばムムタさん、どこいっちゃったんだろう。帰って来ないな』
何気なく道路のほうへ目をやると八の字眉毛の黒白猫の子が門柱からちょっとだけ顔を出していた。あっ、あの子。
心寧は八の字眉毛の黒白猫の子ほうに行こうとしたのだが、足を動かしても前に進まず空を切ってしまう。
んっ、なに、なに。
『わたし、浮いている』
えっ、なんで、なんで。あっ、乙葉のお母さんの手がある。そうか抱き上げられちゃったのか。
ちょっと待って、待って。どこへ行くつもり。ああ、そっちには行きたくない。
「ねぇ、ねぇ、乙葉のお母さん。下ろしてよ。お願いだから。わたしは木箱がいいの」
違う、そうじゃない。今は、あの黒白猫の子のところに。あれ、いなくなっちゃった。
「あっ、ムムタさんだ。ねぇ、ちょっとムムタさん助けて。わたし外がいいの。ちょっと、ちょっと、どこいっちゃうの。待ってってばムムタさーーーん」
ムムタはチラッとだけこっちに目を向けたが真剣な眼差しでどこかへ行ってしまった。なんで、どうして。
心寧はどうにかしようともがいてみたが、抵抗虚しく抱かれたまま家の中へと連れて行かれてしまった。
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