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第二章『猫神学園に入学だ』

言葉って大事

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「そんなこんなで四猫神はこの猫神学園を創ることになったわけだ」

 えっ、あれ、あれ。
 ここは教室だ。戻って来たみたい。
 ちょっと待って。そんなこんなってどういうこと。なんだか大事な部分を聞き漏らしちゃったみたい。悪霊退治をして猫神学園をつくろうと思ったってこと。うーん、よくわからない。まあ、いいか。
 あっ、そうだ。

「あの、その猫仙人さん。質問いいですか」
「んっ、なんだい。心寧ちゃん」
「えっと、えっと。なんだっけ」
「なんだっけと言われても……」
「ウソっぱちはしょうがないな」
「だから、ウソっぱちじゃないの。ミヤビくんはちょっと黙っていてよ。思い出すから」

 ミヤビは立ち上がりなにか文句を言いたそうな顔をしていたがマネキ先生にさとされて席に座った。
 なんだっけ。思い出さなきゃ。
 うーんと。えっと、えっと。心寧はさっきの心地よくなるやつ。清々しい気分になるやつ、なんていったっけ。えっと、えっと。『大笑い』じゃなくって、おお……。

「ほら、さっさと質問しろ」

 ミヤビは我慢できなかったのかそう叫んだ。
 もう、本当に嫌な奴。あっ、ダメダメ。怒りん坊さんになっちゃダメ。
 あっ、そうだ。

「猫仙人さん、あのね、おおはらえってなんですか」
「おや、そんな言葉を知っているのかい。すごいね」

 えっ、すごいの。よくわからないけどめられちゃったみたい。あれ、ムサシとルナが驚いた目をしてみつめてくる。なに、なに。そんなにすごいこと口にしたの。もう、そんなにみつめないで。心寧は耳をガシガシ掻きながらはにかんだ。

「それじゃ、心寧ちゃんの質問に答えるとしよう。まあ、難しいことを言ってもよくわからないだろうから、簡単に話そうか」
「それ賛成。簡単が一番」
「ミヤビくん、静かに」
「はい」

 猫仙人はひとつ咳払いをして説明をしはじめた。

「そうだな。わかりやすく言えば『けがれ』『つみ』『あやまち』をはらう力をもった言葉ってところだろうか」

『けがれ』『つみ』『あやまち』か。

 えっと、『つみ』はいけないことだってなんとなくわかる。『あやまち』は、えっと間違ったことしちゃうことだ。それじゃ『けがれ』は……。心寧は小首を傾げてあれこれと考えた。
『けがれ』でしょ。毛がれちゃうとか。心寧は毛がなくなって丸裸の自分を想像してブルブルッと身体を震わせた。嫌だ、そんなの。寒いじゃない。それよりも恥ずかしいじゃない。違う、違う。絶対そんなことじゃない。それじゃなに。
 ダメだ、わからない。

「あの、『けがれ』ってなんですか」
「んっ、そうかわからないか。それはな、うむなんて説明したらよいか。不浄ふじょう。いや、これもわからないかな。精神的にみにくいってことだろうか。異常をもたらす危険な状態ってことだろうか。わかるかな」
「うんとね。よくわからないけど、わかったことにする」
「そうか、ふぉふぉふぉ」

 四猫神があの言葉を唱えて悪霊も笑っていたのだから、きっとみにくい心がきれいになったってことだろうか。あっ、性格悪い嫌な奴がいい奴になったってことかも。チラッとミヤビに目を向けて頬を緩ませた。

「あの、たぶん。その言葉で悪霊も救われたってことなんでしょ」
「んっ、悪霊を退治したとは言ったが悪霊が大祓詞おおはらえことばで救われただなんて話、わしはしたかな。確かに四猫神は大祓詞で悪霊を成仏させたんだが」

 えっ、そんな話はしていないの。あれ、えっと。そうか、あの映像が見えたのって自分だけなのか。
 心寧は笑って誤魔化ごまかした。

「心寧ちゃん。君は不思議な子だね」

 えっ、それって。なに、なに。不思議だなんて。褒められているの。それともダメな子ってこと。どっち。

「おまえ、頭がいいのかアホなのかわからないな」
「おまえってなによ。ひどい」
「おい、引っ掛かるところが違うんじゃないのか」

 えっ、なんで。『ウソっぱち』も『おまえ』って言われるのも嫌なんだもの。それに自分はアホかもしれないし。そこは気にならない。なんてウソ。本当は気になる。

「ミヤビくん、ひとつ君に言っておこう。いや、みんなも聞いてくれ。悪い言葉は言わない方がいい。言葉は大事だからな。言霊ことだまと言ってな。言葉には魂が宿っているなんて昔から言われている。発した言葉どおりの結果をもたらす力があるからな。自分の言葉に責任をもちなさい」
 なるほど、そうなのか。それじゃ口に出して言えば実現するってことでしょ。

「猫仙人さん。それじゃ、わたしは園音様のような立派な猫神様になる」
「ふぉふぉふぉ。そうか、そうか。期待しているぞ」
「僕は、四猫神様のようになりたい」
「ふむふむ、がんばりなさい。そうそう、四猫神の像が校庭にあるからあとで見ておくといい」

 心寧は猫仙人の指差すほうへ目を向けた。あっ、あれがそうなのか。朝来たときに見たものだ。
 四猫神か。
 心寧はさっき見た映像を思い返して頷いた。

『四猫神様もすごいけど、わたしはやっぱり園音様みたいになりたい』

 頑張らなきゃ。
 そうすればきっと立派な猫神様になれるはず。

『お母さん、そうでしょ』


***


「マネキ先生」
「はい、なんでしょう猫仙人殿」
「心寧とやらは感受性が豊な者だな。操りやすい者だとも言えるが素直でよろしい。ちょっと念を飛ばしたらあの者には四猫神の戦いの様子が見えたようだな。自らの力で映像が見えたと勘違いしているかもしれぬがそれもよしとしよう」

 猫仙人は「ゆかいだ、ゆかいでならぬ。あの者の将来が楽しみだ」と笑いながら去って行った。

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