23 / 76
第二章『猫神学園に入学だ』
謎の子猫
しおりを挟む
あれ、いなくなっちゃった。
帰っちゃったのかな。
「心寧ちゃん、どうかしたかい」
「あっ、いえ。その、さっき門柱のところに子猫がいたの」
「子猫が」
マネキ先生が窓の外を覗き込むと首を捻った。
気づくと全員が窓に顔をべったりくっつけて外の様子を窺っていた。
「いないぞ、心寧」
「うん、そうなの。さっきまでいたんだけど」
「本当にいたのかよ。おまえ窓に映る自分の顔見ただけじゃないのか」
「違うもん。いたんだもん」
「おまえ、ウソっぱちだもんな」
「だから、違うってば。ミヤビのいじわる」
やっぱりミヤビはいい子なんかじゃない。心寧はなんだか悲しい気分になってきた。
「ミヤビくん、心寧ちゃんと仲良くしなきゃな」
「先生、いじめをする子は猫神様になれないってルールを作るべきではないでしょうか」
コマチが真面目な顔をして訴えていた。
「それはね、コマチちゃん。ここを見てごらん」
マネキ先生がコマチになにやら本を広げて見せている。なんだか気になる。心寧はコマチの隣へ行って覗き込んだ。
『猫神協会の判断で猫神様としてふさわしくないと思われた者は退学と処す』
そう記されていた。
なるほど。
「納得。このままだとミヤビくんは退学になりそうね」
「なんだと。おれは退学なんてならないぞ。なあ、先生。おれいじめているつもりはないんだ。つい言っちゃうんだよ。癖みたいなもんなんだよ」
「それじゃ、その癖を直さないといけないな」
「うん、まあ、そうだけど……」
心寧はミヤビをじっとみつめて首を傾げた。本当に変な子だ。酷いこと言っておいて注意されるとすぐに反省する。けど、また繰り返す。ダメダメだ。まあ、自分もダメダメだけど。
そのときチャイムが鳴った。
一時間目の終わりだ。
「それじゃ五分の休憩です。次は『学活』ですからね」
マネキ先生はそう告げると教室を出ていった。
学活ってなにをするのだろう。それはそうと猫神様になるためのなにか特別な授業とかなにのだろうか。まだはじまったばかりだし、そのうちそういう授業もあるだろう。きっと、そうだ。
心寧は再び窓の外の景色に目を向けた。
門柱にいた子猫のことが気にかかる。自分もまだ子猫だけど自分よりも小さかった気がする。もしかしたらあの子もここで勉強がしたいのかもしれない。ちょっと、見に行ってみようか。けど、五分しか休憩はないし。八の字眉毛だからすごく困っているように言えるけどどうなのだろう。なにか言いたいことがありそうな気がするけど。
どうしたらいいのだろう。心寧は気になって仕方がなかった。
「ちょっといいかしら」
えっ。
「あっ、はい」
目の前にルナが立っていた。やっぱりキラキラしている。なにかつけているわけじゃない。由緒正しきかどうかはわからないけど、このいわし組で一番神様に近いのはやっぱりルナなんじゃないだろうか。
「さっき、子猫がいたって言っていたでしょう」
「うん、あっ、はい」
「あら、心寧ちゃん。いいのよ、そんなに畏まらなくて。まあ、わたくしのような猫神様の資質ある猫には自然と敬意を払いたくなるのはわからなくもないけどね。けど、さっきの自己紹介聞いていたでしょ。わたくしはまだ未熟なのですわ。どこにでもいる猫といっしょなのですわ。だから、みんなと同じ対応をしてかまわなくてよ」
心寧はブンブン頭を振り「どこにでもいるだなんて。ルナちゃんは違う。全然、違う。すっごくキラキラして眩しいくらいだもん。すでに猫神様みたいだもん」
「まあ、本当に正直なお方。それはそうですわよね。資質が違いますもの。けど、わたくしなんてまだまだですわ。心寧ちゃんのほうこそ猫神様に近いのでは」
「えええ、そんなこと。わたし、ダメダメだし」
「わかっていますわ。本気にしないでください。お世辞ですから。まあそれでも誰かのために親身に話を聞く。その姿勢は褒めてあげられますわね。わたくしはそう思いますわ」
身体がポッポポッポと熱くなるのを感じた。そんなこと言ってくれるなんて。なんだか温泉入り過ぎてのぼせちゃったみたい。って温泉なんて入ったことないけど。のぼせるってのも正直なところよくわからない。そんな話を聞いたことがあるだけ。それくらいうれしいってこと。けど、『おせじ』ってなんだろう。よくわからないけど、まあいいや。
「ありがとう」
心寧は思わずルナに抱きついていた。
「あら、どうしたのかしら。やめてください。痛いですわ。それに汚れてしまうではありませんか」
「あっ、ごめんなさい」
謝りつつも心寧はちょっと腹も立った。『汚れる』だなんて。そんなに汚くないのに。
「あら、こちらこそごめんなさい。変なこと口にしてしまいましたわ。あっ、そうそう門柱にいた子猫なんですけどね。その子、黒白猫じゃなかったかしら」
「うん、そう。黒白猫だった。もしかして知っている子」
「いえ、知っているってほどではないのですけどね。その子よく神社にも来ている子じゃないかしらね。けど、鳥居の外からいつも眺めているだけなんですわよ。変ですわよね」
鳥居の外って。なんでだろう。
「今、黒白猫って言ったか。困り顔のだったら僕も見たよ。目が合ったら逃げちゃったけど」
ルナとムサシが話す黒白猫が同じ猫だとしたら、黒白猫は何者なのだろう。
考え込んでいたらチラッとミヤビと目が合った。なに、なにか言いたいことでもあるの。そう思っていたら目を逸らしてしまった。やっぱりミヤビって変だ。まあいいけど。
あっ、チャイムだ二時間目のはじまりだ。やっぱり五分って短い。
帰っちゃったのかな。
「心寧ちゃん、どうかしたかい」
「あっ、いえ。その、さっき門柱のところに子猫がいたの」
「子猫が」
マネキ先生が窓の外を覗き込むと首を捻った。
気づくと全員が窓に顔をべったりくっつけて外の様子を窺っていた。
「いないぞ、心寧」
「うん、そうなの。さっきまでいたんだけど」
「本当にいたのかよ。おまえ窓に映る自分の顔見ただけじゃないのか」
「違うもん。いたんだもん」
「おまえ、ウソっぱちだもんな」
「だから、違うってば。ミヤビのいじわる」
やっぱりミヤビはいい子なんかじゃない。心寧はなんだか悲しい気分になってきた。
「ミヤビくん、心寧ちゃんと仲良くしなきゃな」
「先生、いじめをする子は猫神様になれないってルールを作るべきではないでしょうか」
コマチが真面目な顔をして訴えていた。
「それはね、コマチちゃん。ここを見てごらん」
マネキ先生がコマチになにやら本を広げて見せている。なんだか気になる。心寧はコマチの隣へ行って覗き込んだ。
『猫神協会の判断で猫神様としてふさわしくないと思われた者は退学と処す』
そう記されていた。
なるほど。
「納得。このままだとミヤビくんは退学になりそうね」
「なんだと。おれは退学なんてならないぞ。なあ、先生。おれいじめているつもりはないんだ。つい言っちゃうんだよ。癖みたいなもんなんだよ」
「それじゃ、その癖を直さないといけないな」
「うん、まあ、そうだけど……」
心寧はミヤビをじっとみつめて首を傾げた。本当に変な子だ。酷いこと言っておいて注意されるとすぐに反省する。けど、また繰り返す。ダメダメだ。まあ、自分もダメダメだけど。
そのときチャイムが鳴った。
一時間目の終わりだ。
「それじゃ五分の休憩です。次は『学活』ですからね」
マネキ先生はそう告げると教室を出ていった。
学活ってなにをするのだろう。それはそうと猫神様になるためのなにか特別な授業とかなにのだろうか。まだはじまったばかりだし、そのうちそういう授業もあるだろう。きっと、そうだ。
心寧は再び窓の外の景色に目を向けた。
門柱にいた子猫のことが気にかかる。自分もまだ子猫だけど自分よりも小さかった気がする。もしかしたらあの子もここで勉強がしたいのかもしれない。ちょっと、見に行ってみようか。けど、五分しか休憩はないし。八の字眉毛だからすごく困っているように言えるけどどうなのだろう。なにか言いたいことがありそうな気がするけど。
どうしたらいいのだろう。心寧は気になって仕方がなかった。
「ちょっといいかしら」
えっ。
「あっ、はい」
目の前にルナが立っていた。やっぱりキラキラしている。なにかつけているわけじゃない。由緒正しきかどうかはわからないけど、このいわし組で一番神様に近いのはやっぱりルナなんじゃないだろうか。
「さっき、子猫がいたって言っていたでしょう」
「うん、あっ、はい」
「あら、心寧ちゃん。いいのよ、そんなに畏まらなくて。まあ、わたくしのような猫神様の資質ある猫には自然と敬意を払いたくなるのはわからなくもないけどね。けど、さっきの自己紹介聞いていたでしょ。わたくしはまだ未熟なのですわ。どこにでもいる猫といっしょなのですわ。だから、みんなと同じ対応をしてかまわなくてよ」
心寧はブンブン頭を振り「どこにでもいるだなんて。ルナちゃんは違う。全然、違う。すっごくキラキラして眩しいくらいだもん。すでに猫神様みたいだもん」
「まあ、本当に正直なお方。それはそうですわよね。資質が違いますもの。けど、わたくしなんてまだまだですわ。心寧ちゃんのほうこそ猫神様に近いのでは」
「えええ、そんなこと。わたし、ダメダメだし」
「わかっていますわ。本気にしないでください。お世辞ですから。まあそれでも誰かのために親身に話を聞く。その姿勢は褒めてあげられますわね。わたくしはそう思いますわ」
身体がポッポポッポと熱くなるのを感じた。そんなこと言ってくれるなんて。なんだか温泉入り過ぎてのぼせちゃったみたい。って温泉なんて入ったことないけど。のぼせるってのも正直なところよくわからない。そんな話を聞いたことがあるだけ。それくらいうれしいってこと。けど、『おせじ』ってなんだろう。よくわからないけど、まあいいや。
「ありがとう」
心寧は思わずルナに抱きついていた。
「あら、どうしたのかしら。やめてください。痛いですわ。それに汚れてしまうではありませんか」
「あっ、ごめんなさい」
謝りつつも心寧はちょっと腹も立った。『汚れる』だなんて。そんなに汚くないのに。
「あら、こちらこそごめんなさい。変なこと口にしてしまいましたわ。あっ、そうそう門柱にいた子猫なんですけどね。その子、黒白猫じゃなかったかしら」
「うん、そう。黒白猫だった。もしかして知っている子」
「いえ、知っているってほどではないのですけどね。その子よく神社にも来ている子じゃないかしらね。けど、鳥居の外からいつも眺めているだけなんですわよ。変ですわよね」
鳥居の外って。なんでだろう。
「今、黒白猫って言ったか。困り顔のだったら僕も見たよ。目が合ったら逃げちゃったけど」
ルナとムサシが話す黒白猫が同じ猫だとしたら、黒白猫は何者なのだろう。
考え込んでいたらチラッとミヤビと目が合った。なに、なにか言いたいことでもあるの。そう思っていたら目を逸らしてしまった。やっぱりミヤビって変だ。まあいいけど。
あっ、チャイムだ二時間目のはじまりだ。やっぱり五分って短い。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小鬼まめつぶ隊
景綱
絵本
リンちゃんはパパとママと離れておばあちゃんのうちに。
リンちゃんはパパとママに会いたくてさみしい思いをしている。
おばあちゃんのうちにある祠には豆鬼様がいた。
豆鬼様は五人でまめつぶ隊。
あずき小鬼、花豆小鬼、青大豆小鬼、そら豆小鬼、ひよこ豆小鬼の五人だ。
リンの願いを聞き入れようとまめつぶ隊はがんばる。
理想の王妃様
青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。
王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。
王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題!
で、そんな二人がどーなったか?
ざまぁ?ありです。
お気楽にお読みください。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした
葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。
でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。
本編完結済みです。時々番外編を追加します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる