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第二章『猫神学園に入学だ』
キラキラオーラのルナと口の悪いミヤビ
しおりを挟むルナに目を向けた瞬間、キラキラする光が目に飛び込んできた。目の錯覚だろうかと心寧は目をぱちくりさせた。
「また同じことを話さないといけないのかしら」
ルナと目が合いドキッとした。なに、なに。あの目力はなに。もしかして、今睨まれたの。えっ、えっ、どうしよう。自分が遅刻したせいで二度目の自己紹介がはじまったんだもの睨まれても文句は言えない。
「まあいいわ。わたくしはルナ。由緒正しき猫神としてわたくしの家系は暮らして来たのですわ。わたくしのご先祖様はお伊勢参りをした帰り御神託を受けて猫神様となったと伝えられているのですわ。そうそう、その昔天皇のおそばで仕えたこともあったとか。だからね、わたくしとあなたたちとは住む世界が違うのですわ。こうして一緒にいられるだけでも幸運だと思いなさい。とは言え、わたくしは養子ですけどね。
まあ、そんなことはどうでもいいことです。生まれたときからそうなる運命だったのでしょう。由緒正しき猫神のよい家柄に引き取られるくらい資質のある猫だと認められた証ってことでしょうからね。おわかりになりましたか」
あっ、また睨まれた。
あとできちんと謝らなきゃ。
ルナは自分とはやっぱり違う。
「まったく、何が由緒正しきだ。なにが天皇のおそばでだ。昔のことなんてわからないじゃないか。それに神社の神主さんの家の猫ってだけだろう」
「な、なにを言うのですか。あなたはわたくしを愚弄するのですか。許せません」
「別にバカにするつもりはないよ。本当のこと言っただけだ」
「ああ、酷い、酷い。酷過ぎますわ。なにも知らないくせによくそんなことを言えるものですわね」
ルナがキィーーーと奇声をあげてギュッと爪を出す。うわわっ、ルナが怒っている。すごい目つきでミヤビを睨みつけている。今にも襲い掛かりそうな雰囲気だ。
心寧は逃げる体勢をとって様子を見守った。
「おっ、やるのか。やるのはいいが、そのきれいな顔にキズをつけちまうかもしれないぞ。いいのか」
どうしよう、どうしよう。本当にケンカになりそうだ。止めなきゃいけないという気持ちもあったが怖くて動けなかった。けど、マネキ先生がルナとミヤビの間に割って入り込んだ。
「ちょっと、ちょっと。ふたりともやめなさい。ミヤビくん、言い過ぎですよ。そんな怒らすようなことばかり言うようではこの猫神学園にはいられなくなりますよ」
マネキ先生の言葉にミヤビは「ごめんなさい」と頭を下げて項垂れてしまった。
「ちょっと、わたくしにも謝るのが礼儀ではありませんか」
ルナはまだ爪をニュッと出したまま目をつり上げている。
「ルナちゃんも落ち着いて。それに話を誇張させるのもどうかと思いますよ」
ルナはミヤビからマネキ先生へと目を向けて睨みを利かせた。だがすぐに下を向いて席に座ってしまった。
なに、なに。どういうこと。
ルナの話は作り話だったの。けど、あのオーラは普通と違う。全部ウソってわけじゃないと思う。
「ルナちゃん。ねぇ、ルナちゃんの家はすごくいい家柄なんでしょ。違うの。違くないでしょ。だって、ルナちゃん、すごく神々しいオーラ纏っているもの」
ルナが顔を上げてこっちを見ると微笑んだ。
「あなたの言う通り。わたくしの家系はすばらしいのですわ。あなたはバカがつくくらい素直でいい子なのですわね。あっ、バカは余計でしたわね。ごめんなさいね」
ルナはひとつ深呼吸をすると再び立ち上がり首周りの毛を手でかきあげた。
いい香りだ。心寧は鼻をヒクヒクさせて匂いを嗅いでしまった。キラキラも舞い飛んでゆっくりと落ちてくる。思わず手を出してキラキラを掴もうとしたが空振りに終わった。
心寧は小首を傾げて消えたキラキラを探す。どうして捕まえられないのだろう。
「おまえ、腹が立たないのか。鈍感な奴だ」
「ミヤビくん、なによ。お腹は減るけど立たないでしょ。変なこと言わないで」
「はい、はい。心寧ちゃんはバカだってことがよくわかったよ」
「なによ、冗談言っただけじゃない。ミヤビくんには腹が立つわよ。酷いことばかりいうんだもの」
「なんだよ、それ」
言い合いしていたらマネキ先生に止められてしまった。
そんな様子にルナが笑っていた。
あっ、またルナからキラキラが舞い飛んで来た。今度こそ捕まえてやる。両手でパシンと掴み取り開いてみると、またしてもキラキラは消えていた。なんでだろう。
「心寧ちゃん、なにをしているのかな。ルナちゃんの話はまだあるみたいだからね。ちゃんと聞かないキャね」
「はい、先生」
心寧は姿勢を正しルナへと目を向けた。
「訂正しますわ。わたくしはミヤビくんの言う通り神社の神主さんの家の猫です。ただその神社で代々猫神様として暮らしているのは事実ですわ。けど、わたくしは養子。それはさっきも話しましたわね。それでも素質はあるのは事実ですわ。きっと由緒正しき家柄なはずですわ。まあ、そうだとしても猫神様としては未熟かもしれませんわね。それは認めてあげますわ。だからこそ猫神様として開花させるためにここに来たのですわ。改めまして、よろしくお願いします」
ルナはお辞儀をするとミヤビを睨みつけて席に座った。
不思議とルナに纏ったオーラがトゲトゲしく映った。なぜだろう。やっぱりミヤビが余計なこと口にしたからだろうか。
んっ、あれあれ。
どうしたのだろう。ミヤビが立ち上がりルナのほうに向く。大丈夫なの。ミヤビとルナの席は替えたほうがいいかも。隣同士はまずい。なにか起きてからじゃ手遅れになってしまう。争い事は嫌だ。止めたほうがいいのかも。
「ミヤビくん、どうした。ケンカはダメだぞ」
「はい、先生。そんなことしません」
じっとミヤビはルナをみつめると「ごめん、言い過ぎた」と謝罪の言葉が飛び出した。
ルナは呆気にとられた顔をしていた。謝ってくるとは思っていなかったのだろう。
マネキ先生の顔がほころんでいる。
「ルナちゃん。ミヤビくんが謝っているぞ」
「えっ、あっ、はい。わたくしもちょっとだけウソをつきました。ごめんなさい」
マネキ先生はミヤビとルナの手を取り握手をさせた。
思わぬ展開。ミヤビって本当はいい子なの。ああ、よくわからなくなってきた。
「これで仲直りだな。しかもひとつ成長した。一歩前進だな。それじゃミヤビくんの自己紹介をお願いしようかな」
「おれ、ミヤビ。ちょっとひねくれ者かもしれない。ついつい、嫌がるようなこと言っちまう。わかっているんだけどさ。どうしてだか口から飛び出しちまう。だから、いっつもひとりぼっちでさ。かあちゃんにも怒られてばかりだし。
けどさ、悪いと思えば反省はするんだ。すぐ忘れちゃってまた嫌なこと口にしちゃうけど。そんなおれでもみんなと友達になりたい。一緒に猫神様目指したい。
褒められるようなすごいことなんにもないし、自己中だけどよろしくな。
あと、先生。さっき『成長した。一歩前進だ』って言葉、うれしかった」
ミヤビはニヤッとして頭を掻きドンと席に座った。
なんだ、思っていたよりもいい子かもしれない。やっぱりきちんと見極めなきゃわからない。ムムタさんの言った通りだ。
そもそも猫神様を目指す猫に悪者はいないはず。
大丈夫。これから楽しくがんばっていけそうだ。
何気なく見た窓の外。学校の門柱の陰に隠れるようにして覗き込む子猫がいた。
んっ、あれ。あの子は確か……。
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