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第二章『猫神学園に入学だ』

ワサビは芸術家?

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「それじゃ、次はワサビくんですね」
「は、はい」

 んっ、あの子、ワサビって名前なんだ。サバ白柄の男の子が立ち上がってお辞儀をした。なんだろう存在感がない。向こう側が透けて……。バカ、バカ。そんなことない。透けたりはしていない。幽霊じゃないんだから。そんなこと考えるだなんてワサビに失礼だ。それにしてもワサビって名前とちょっと合っていないような。
 ワサビだったらもっとピリッとしていて刺激的な感じじゃないと。
 あっ、なに変なこと考えているのだろう。



「あの……。ぼ、ぼく……」

 えっ、なに。声が小さくてよくわからない。

「ワサビくん、もうちょっと大きな声でお願いできるかな」
「は、はい先生」
「ワ、ワサビです。よろしく」

 えっ、終わり。名前しか言っていないじゃない。それとも、なにか話したのだろうか。そうだとしたら相当な早口だ。それとも気づかないうちに自分は居眠りしていたとか。
 ない、ない。居眠りなんてしていない。

「ワサビくん、終わりでいいのかな。なにか言いたいことないのかな」
「あの、ぼ、ぼく……」

 ワサビはおどおどした感じでかばんからなにか取り出すと先生に渡した。

「これは、すごいね」

 なんだろう。すごいってなんだろう。
 マネキ先生は全員が見えるように上に持ち上げた。
 招き猫だ。けどすごくカラフルな招き猫。しかも口にいわしをくわえている。お腹のところには小判ではなく

『一年いわし組』と書かれたプレートを持っている。あれは木彫りなのだろうか。紙で作ったのだろうか。わからないけど、すごい。ワサビが作ったの。

「やるな、おまえ。すごいじゃないか。芸術家になったほうがいいんじゃないのか」

 ウソでしょ。ミヤビがめている。それくらい完成度が高いってことよね。
 んっ、あれ。褒めているって思ったけどもしかしたら違うのかも。ミヤビの言葉の裏に『おまえは猫神様を目指さないほうがいい』ってあるような。考え過ぎだろうか。自分ってひねくれた考えしているのかも。ダメだ。もっと素直にならなきゃ。なんだかミヤビの影響を受けちゃっているのかも。

 ああ、もう。そんなこと考えちゃダメでしょ。
 きちんとミヤビのことを見極めなきゃ。ミヤビだけじゃない。いろんな人のことをこれから見極めていかなきゃいけない。そうじゃないと猫神様になったときに判断を誤っちゃう。

「ミヤビくん、あ、ありがとう。そうか、ぼく、芸術家のほうがいいのかな。どうしようかな」
「迷わなくてもいいんじゃないの。今からでも遅くないぞ。芸術家目指せよ」
「うん、それもいいかも」

 突然、ガタンとの音ともにコマチが立ち上がった。

「ちょっと、ワサビくん。そんなにあっさり考え変えちゃうような気持ちで猫神様になろうと思ったの。残念だわ」
「コマチちゃん、ち、違うよ。ぼ、ぼく。真剣に」
「それなら、そんなに簡単に考え変えちゃダメでしょ」
「うん、そうだね。けど、モノづくりも大好きだし……」
「そんなんじゃ猫神様になんてなれないわよ。ココちゃんもそうよ。いろんなものになりたいだなんて猫神様になることがどんなに大変なのかわかっていないんだわ。片手間でなれるようなものじゃないわ」

 コマチはココに鋭い視線を送っていた。うわっ、コマチの顔怖い。

「まあ、まあコマチちゃん。そのへんにしておこうか。ワサビくんもココちゃんも猫神様になるためにがんばれるよね」

 ワサビとココがマネキ先生の言葉に頷いた。コマチは納得いっていないみたいだけど、なにも言わずに着席した。

「それじゃ、この招き猫は教室に飾っておこう」

 本当にすごい。あの招き猫をワサビが作っただなんて。思わぬところに才能が眠っているのかわからない。ワサビはある意味刺激的な存在なのかもしれない。
 あんなすごいもの作れるんだから。
 心寧はまじまじとワサビを見やると項垂れた。自分にはそんなすごい才能はない。いや、あるのだろうか。とにかくがんばらなきゃ。

「さてと、自己紹介の続きだね。次はえっと。そうそうルナちゃんだね。お願いします」

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