9 / 76
第二章『猫神学園に入学だ』
はじめての登校(1)
しおりを挟む
「乙葉ちゃん、わたしがそばにいるから泣かないで」
乙葉の膝にポンと手を乗せたり顔を足に擦りつけたりして再び乙葉の顔を見る。
「子猫ちゃん、慰めてくれているの。ありがとうね」
通じた。気持ちが通じた。そうか言葉がわからなくても思いは伝わるものなのか。
乙葉は涙を拭って頬を緩ませると頭を撫でてくれた。
笑った。やった、笑った。
「乙葉ちゃん、もう悲しくないの。大丈夫なの」
「心配しなくて大丈夫よ。ちょっとお母さんとケンカしちゃっただけだから」
お母さんとケンカ。そうなのか。
「お母さんにひどいこと言っちゃった。帰ってきたら謝んなきゃね」
ひどいことってなんて言っちゃったのだろう。なんだか後悔しているみたい。それなら、きっと大丈夫。謝れば仲直りできるはず。
お母さんか。今頃どうしているのだろう。なんだかお母さんのミルクが飲みたくなってきた。
乙葉は小さな溜め息を漏らすと「学校行ってくるね」ともう一度頭を撫でてくれた。
あっ、そうだ。自分も行かなきゃ。
えっと、えっと。今何時。
窓から家の中を覗き込む。
園音様からもムムタからも時間というものを教わっていた。学校には時間割というものもあると教わっていた。猫神様になる勉強をするはじまりの時間というものがあるらしい。はじまりの時間を守らないとマイナス評価をされてしまうらしい。マイナスが増えると追い出されちゃうらしい。つまり猫神様になれなくなってしまうってことだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
何時まで行けばいいんだっけ。
こういうときに限ってムムタがいない。いたら訊けるのに。
そうだ、確か一時間目は八時四十分からだ。
今は……。えっと、えっと。短い針が一、二、三、四、五、六、七、八。八のところにある。長い針は……、一、二、三。三のところだ。三ってことは……。八時……。ああ、もう何分なの。落ち着いて。いやいや、落ち着いてなんていられない。とにかく急がなきゃ。初日から遅刻しちゃう。
急がなきゃいけないのについ時間のことを考えてしまう。
三のところに長い針があるから。そうだ、四十分は八のところに長い針があるんだった。あれ、短い針だっけ。ああ、どっち、どっち、どっちなの。ここはやっぱり落ち着かないとダメ。心寧はガシガシと首筋を掻きまくって一息ついた。少しは落ち着けた。落ち着いたら眠くなってきた。
バカ、バカ、バカ。寝ちゃダメでしょ。猫神学園に行くんでしょ。
大丈夫、きっと大丈夫。まだ間に合う。八より三のほうが小さい数だから大丈夫。本当にそうだっけ。八は二本だけど三は三本あるから三のほうが大きいんじゃないの。
待って、待って。違う、違う。八のほうが大きいの。ムムタが数の数え方教えてくれたでしょ。
ほら、『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十』って。あとに数えるほうが大きいって。
あっ、そんなことより猫神学園に行かなきゃ。
急げ、急げ、急げ。
走れ、走れ、走れ。
超特急で、いざ猫神学園へ。
んっ、今視線を感じた。誰だろう。乙葉が戻って来たわけじゃなさそうだ。
じゃ、誰。
「ムムタさん」
返事がない。違うみたいだ。気のせいだったのかな。
あああっ、急ぐんだった。
ロケット弾丸スピードで急げ。
うわわわっ。
ゴロゴロゴロン。
転んじゃった。急ぎ過ぎるのもよくないみたい。じゃ普通に急げ。
普通に急げってどういうこと。ああ、もう。そんなことどうだっていい。とにかく猫神学園に行かなきゃ。
乙葉の膝にポンと手を乗せたり顔を足に擦りつけたりして再び乙葉の顔を見る。
「子猫ちゃん、慰めてくれているの。ありがとうね」
通じた。気持ちが通じた。そうか言葉がわからなくても思いは伝わるものなのか。
乙葉は涙を拭って頬を緩ませると頭を撫でてくれた。
笑った。やった、笑った。
「乙葉ちゃん、もう悲しくないの。大丈夫なの」
「心配しなくて大丈夫よ。ちょっとお母さんとケンカしちゃっただけだから」
お母さんとケンカ。そうなのか。
「お母さんにひどいこと言っちゃった。帰ってきたら謝んなきゃね」
ひどいことってなんて言っちゃったのだろう。なんだか後悔しているみたい。それなら、きっと大丈夫。謝れば仲直りできるはず。
お母さんか。今頃どうしているのだろう。なんだかお母さんのミルクが飲みたくなってきた。
乙葉は小さな溜め息を漏らすと「学校行ってくるね」ともう一度頭を撫でてくれた。
あっ、そうだ。自分も行かなきゃ。
えっと、えっと。今何時。
窓から家の中を覗き込む。
園音様からもムムタからも時間というものを教わっていた。学校には時間割というものもあると教わっていた。猫神様になる勉強をするはじまりの時間というものがあるらしい。はじまりの時間を守らないとマイナス評価をされてしまうらしい。マイナスが増えると追い出されちゃうらしい。つまり猫神様になれなくなってしまうってことだ。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
何時まで行けばいいんだっけ。
こういうときに限ってムムタがいない。いたら訊けるのに。
そうだ、確か一時間目は八時四十分からだ。
今は……。えっと、えっと。短い針が一、二、三、四、五、六、七、八。八のところにある。長い針は……、一、二、三。三のところだ。三ってことは……。八時……。ああ、もう何分なの。落ち着いて。いやいや、落ち着いてなんていられない。とにかく急がなきゃ。初日から遅刻しちゃう。
急がなきゃいけないのについ時間のことを考えてしまう。
三のところに長い針があるから。そうだ、四十分は八のところに長い針があるんだった。あれ、短い針だっけ。ああ、どっち、どっち、どっちなの。ここはやっぱり落ち着かないとダメ。心寧はガシガシと首筋を掻きまくって一息ついた。少しは落ち着けた。落ち着いたら眠くなってきた。
バカ、バカ、バカ。寝ちゃダメでしょ。猫神学園に行くんでしょ。
大丈夫、きっと大丈夫。まだ間に合う。八より三のほうが小さい数だから大丈夫。本当にそうだっけ。八は二本だけど三は三本あるから三のほうが大きいんじゃないの。
待って、待って。違う、違う。八のほうが大きいの。ムムタが数の数え方教えてくれたでしょ。
ほら、『一、二、三、四、五、六、七、八、九、十』って。あとに数えるほうが大きいって。
あっ、そんなことより猫神学園に行かなきゃ。
急げ、急げ、急げ。
走れ、走れ、走れ。
超特急で、いざ猫神学園へ。
んっ、今視線を感じた。誰だろう。乙葉が戻って来たわけじゃなさそうだ。
じゃ、誰。
「ムムタさん」
返事がない。違うみたいだ。気のせいだったのかな。
あああっ、急ぐんだった。
ロケット弾丸スピードで急げ。
うわわわっ。
ゴロゴロゴロン。
転んじゃった。急ぎ過ぎるのもよくないみたい。じゃ普通に急げ。
普通に急げってどういうこと。ああ、もう。そんなことどうだっていい。とにかく猫神学園に行かなきゃ。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
子猫マムの冒険
杉 孝子
児童書・童話
ある小さな町に住む元気な子猫、マムは、家族や友達と幸せに暮らしていました。
しかしある日、偶然見つけた不思議な地図がマムの冒険心をかきたてます。地図には「星の谷」と呼ばれる場所が描かれており、そこには願いをかなえる「星のしずく」があると言われていました。
マムは友達のフクロウのグリムと一緒に、星の谷を目指す旅に出ることを決意します。
チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!
芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️
ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。
嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる!
転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。
新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか??
更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる