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加奈からの手紙
しおりを挟む家に帰り、すぐに手紙を開く。
気のせいだろうが、加奈が微笑んだように思えて少しだけ口角を上げる。俺のこと、心配して本気で叱ってくる加奈が思い出された。懐かしさとともに、心が地に落ちていく。
母だけでなく、加奈がいない世界になってしまうなんて。
大きく息を吐き出して、手紙に目を落とす。
『新島結弦様
この手紙が結弦さんの手に届いているとしたら、きっと私はこの世にいないのでしょう。魔主には勝てなかったってことですね。残念です。
万が一のことがあったらと書き残しておきます。
私は、飯塚加奈。
知っているとは思いますが、子供の姿に入り込んだ大人の飯塚加奈です。
実は、あの任務にあたるすこし前、猫地蔵に託されたものがあります。もしかしたら、結弦さんも何か託されたかもしれませんが、きっと、念には念をということだと思います。
この手紙をいつ手渡されるかわかりませんが、この手紙を読んだら、私の指定する場所に行ってください。
私が教えた不動産屋は覚えていますよね。その前に銀杏の木があってその裏側に人がひとりだけ通れる道があるんです。結弦さんにしか見えない道です。そこへ行ってください。その先にある小さな祠に、猫地蔵に託されたものがあります。あと、結弦さんが借りたアパートの裏にも銀杏の木があります。稲山様に紹介してもらったアパートです。そこにも裏に道があって、同じように祠があります。
もうひとつ、結弦さんの会社の裏にも道があります。そこには銀杏の木はないけれど、苔が生えているところがあります。淡く光っているので、すぐにわかると思います。
三つの祠にあるものを手にして、金吾龍神社の東京分祠へ行って欲しいのです。
行けば、わかるはずです。
そこには古代の神様がいるとのこと。北海道の小樽に御本社はあるみたいですが、とても強い神様だとか。なんでも、フゴッペ岬という神域に鎮座し、その起源は、縄文時代の自然信仰にまで遡るものだとか。
猫地蔵の話によると、アラハバキという神様だそうです。会うことができたら、魔主のことを話して。それだけで、わかってくれるはずだと言っていました。
あと場所は、渋谷区代々木。小田急線の南新宿駅が一番近いそうです。しかも、そこはマンションの一室で、事前に予約が必要です。
気をつけて、頑張ってください。本当だったら、一緒に頑張りたかったです。
結弦さんが、この手紙を読んでくれていることを祈ります。
読み終えたあとは、燃やしてください。
再び、結弦さんと出会える未来があると信じています。
飯塚加奈』
俺は、読み終えて涙で頬が濡れていることに気がついた。こんなんじゃダメだ。加奈のためにも頑張らなくてはと涙を拭い、庭へ出て手紙を丸めて燃やした。
アラハバキ神か。
なんとも怖そうな名前だ。大丈夫なのだろうか。猫地蔵が言っているのなら、きっと力を貸してくれるのだろう。
マンションの一室にいる古代の神様。そんな神社もあるのか。少し胡散臭く思えるけど、ここは信じるしかないだろう。これといって策はないのだから。スマホで『金吾龍神社 東京』と検索して電話番号と場所を確認して、予約をした。
次の日曜日、十一時に行くことにした。その間に、三つの祠に行くことにしよう。
再び、金吾龍神社のサイトを立ち上げて、どんな神社か調べていく。
御祭神は、主祭神が大元尊神というのか。神のはじめの神である根源神らしい。しかも、配祀神には、国祖である国常立尊、山を司る神である大山祇神、海を司る神である綿津見神が祀られている。
なんて凄い神社なんだろう。それなのに、マンションの一室とは。よくわからないが、何かしらの理由があるのかもしれない。
あれ、そういえばアラハバキ神の名前はどこだ。加奈の手紙に書いてあったけど、間違いなのか。そう思っていたら、奥宮に祀られているとあった。龍神なのか。
漢字表記された文字をみつめ、ひとり頷いた。
『荒波々幾大神』
約五千年前に祀られた。龍神信仰の原初の神。謎多き神とある。
調べれば、調べるほど、凄さで震えがくる。
本当に、俺の言葉を信用してくれるのだろうか。その前に、俺みたいな人間の前に現れてくれるのか。不安がどんどん積み上がっていく。
そうか、アラハバキ神に信用してもらうために三つの祠で何かを取っていくのか。きっと、そうだ。大丈夫。きっと、大丈夫。猫地蔵のことだから、うまくいくように段取りしているはず。
本当にそう言い切れるのだろうか。
魔主の封印作戦では、失敗している。
いやいや、忘れろ。信じる者は救われると言うじゃないか。
アラハバキ神が聞き入れてくれることを祈ろう。
*****
*(アラハバキは、『荒脛巾』とも表記される)
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