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第二節 女子高生VS超絶美少女AI

Ep.8 AIの魔の手

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 アヤコさん達の学校へ進むため、理亜と共に自転車を漕いで進んでいる。ナノカの方はまたも掃除当番とのことで遅れるみたいだ。
 どんどん先行く理亜に対して疑問も一杯。

「理亜……謎は解けてるのか? 結局、二日間何もしてなかったけど……」
「そりゃあ、証拠がないからね」
「証拠さえ見つかればって訳か」

 怪しさが加速していく状態だ。永遠に証拠が見つからないのでは、とツッコミを入れたくもなる。ただ変にダメだと決め付ければこう言われる。「じゃあ、千円賭けるか?」と。その後にあの手でこの手で調べ上げ、僕を圧倒しようとできるのも理亜なのだ。恐ろしいことに。
 だから、これ以上聞く訳にもいかない。
 ただただ、彼女の口から手掛かりが出るのを待つしかない。きっと大変なことになってから、言い出すとかはないはずだ。
 いや、彼女なら修羅場が見たかったとかもある。真実に気付いていても、わざと口にしない可能性も少々あるような。なんて、同じ部活の仲間に疑いを掛けている自分が少し惨めになったため、思考を止めておく。
 さてさて、毎度の如くパソコンのある部屋へ直行だ。
 誹謗中傷の件を除けば、今日も楽しくサークルが行われる、はず、だった。入ろうとするまではそう思っていた。

「おい! 勝手に人のスマートフォンを見るんじゃねえ!」

 三葉さんの怒鳴り声、だ。あまりに理想とかけ離れている状況に最初は声だと思わず、地響きか何かが起きたのかと錯覚してしまった程。何が起きているのかとすぐさま扉を開けていく。
 そこでは古戸くんと三葉さんが言い合いをしていた。

「ちょっと、別にほとんど見てないし」
「見てる量とかの話じゃない! 触っただけで問題だ! 何で勝手に動かそうとしてんだよ!」
「だって、こんなところに落ちてたら……」
「そのまま放置しとけば、いいんだよ……ああ……! こうやってアンタみたいなお人好しが増えていくから……増えていくから、どんどん傷付いていく。お前が人を入れてこなけりゃ、こんなことには……!」
「誹謗中傷に関しては前からあっただろ? それを助けを求めて何が悪いんだよ」
「その分、助けを求めた分、どうにかしなきゃなんねぇってアヤコが思うようになるだろ……お前があんなことをしなきゃ、アヤコは……まだ平常でいられたんじゃないのか? 夢が嫌になりそうだとか言わなかったんじゃねえのか!」
「そ、そんなおれは助けようとして」
「知るかよ……! そんなお節介がいらねぇんだよ」

 話がどんどん変わっていく中で分かることが一つ。アイツらとは僕達のことであろうか。三葉さんは慌てふためいている古戸くんを置いて、外に出てしまった。どうやら今日はサークルに参加しないらしい。
 彼女が僕に気付き、何だか驚いたような顔をするも。挨拶もせずにそのまま走っていく。その時、僕の頬に冷たいものが当たったのは気のせいだろうか。
 ボヤッとしている僕に理亜が声を掛けてくる。前にもなく真剣な顔で、だ。

「どうしたんだ?」
「いや、今三葉さん、泣いてなかった?」
「私には分からなかったがな。あれだけ散々言ってて……な」

 あれだけ、か。
 本当に今まで見ていたものは真実だったのか。ただ虚飾で彩られた夢に向かって進む物語ではなかったのか。
 応援したくなるものではなかったのか。僕が消してはいけないとの夢は何処へ消えてしまったのだろう。
 苦しくなっていく中、古戸くんが出てきた。

「あっ……ごめん。何か、凄いものを見せちゃったようだね……」
「うん……」

 否定したかった気持ちでたくさんだった。もっと言える人。隣の理亜が口を開けていたとしたら「あっ、全然気にしてないぞ。むしろもっとやってくれ」とか不謹慎なことまで言えていたと思う。しかし、自分は言ってしまった。気にしていると顔と反応で表現していたのだ。
 彼も三葉さんのことが悪い人で終わらないよう、擁護していた。散々罵られたのにも関わらず、だ。

「でも、本当は三葉さん悪い人じゃないんだ……。悪い人じゃ、ないんだよ……確かに言い方とかきついけどさ……本当、みんなのことを想ってくれてるんだよ」
「そうだね」

 そこは知っている。彼女はだから前回の事件でも仲間を疑わなかった。夢を馬鹿にしている人は仲間にいないと言い切った。
 あれは幻想だったのか。
 今では分からなくなってきそうだ。

「本当、今回だって……今回だって、誹謗中傷のことでアヤコさんをずっと考えてる……どうにかしなきゃいけないって切羽詰まってるんだ……だから……だからさ、どうにかしないとって……本当に……だから、なんだよ……だから! 本当、悪くないんだよ! 悪いのはそんな彼女のプライバシーも知らず、スマホを触ったおれ自身なんだ」

 だからって、あそこまで怒ることはないだろう。そう言ってやりたかった気持ちもあった。今こうして古戸くんが苦しんでしまっている。言葉の波に埋もれて、消えかかっている。

「本当に触っただけなんだな?」

 理亜が確認を取っていた。勝手にアプリを起動していれば、それは怒り狂うべきことなのかもしれないが。
 彼は首を縦に振った。

「土曜日に集まったでしょ……その八木岡くんと偶然バッタリ出逢ってさ。開いてた、このパソコン室でワイワイやってたんだよ。で、彼が一通り夢の相談が終わったところで……別れて。その後に床にスマホが落ちてるのに気付いて、さ……拾い上げたのは確かだけどさ……でもさ」

 聞いていて辛い声を出している。もっと落ち着いて聞かせてもらった方がいい。一旦僕が落ち着くように命令した。

「古戸くん……分かった。分かったから。大丈夫ゆっくり話して」
「うん……でも、本当に……AIが誹謗中傷の犯人なのかなぁ」
「はぁ?」
「美少女のAIが本当にこのサークルをぶっ壊そうとしてるのかなぁ……何で、こんなふざけたことがあり得るんだよ……もう分かんねぇよ……」

 彼は一歩下がった後、荷物をパソコン室から取っていく。僕と理亜が何を言っているのか、分かっておらずポカンとしている間に外へ出ていった。

「古戸くん」

 声を掛けたが、彼の勢いは止められない。責められたことにより、ギリギリで背負えていた苦難の荷物が彼の心を押し潰したのか。

「悪い。もうすぐアヤコさんや桃助がやってくるから、彼等に鍵を返してくれって……ごめん。今はもう何も考えたくないんだっ!」
「古戸くん! 待って……って、もういない……」
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