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メインストーリー
あいつは牧師
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俺は重たい足取りで、目的地に向かう。どうしたらいい。だって、女体変幻ができないのに…男を興奮させて、絞りとらなきゃならないんだろ?絶望的じゃん。
ぱらり、と書類を捲る。イヴァンという名の横に、顔写真と経歴が載ってる。黒髪の好青年がカソックをきて、ふんわりと微笑んでいる写真が目に入る。はん、腑抜けた顔だ。魔界じゃこんな笑顔…いや、他の人間だってこんな顔しねぇよ。
「はーぁ、どうするかな。」
男は環境に恵まれてて、親子関係も友人関係も良好。ある日自分の人生の指標になるものはないかと、数々の宗派を辿る。そしてたまたま本物の神様を信仰してる宗教にたどりついた。教会の洗礼を受けて、今は小さな村の牧師をしているらしい。
教会本部自体は…免罪符交付で信者からの信仰心を失くしたし……中枢神官どもも汚職まみれなのに……なんでそんなとこに入会したんだこの坊ちゃんは……。
村の外へ行く道を進むと、少し古臭い蔦の絡んだ教会にたどり着く。日はすっかり落ちてあたりは暗くなっていた。教会のドアの手すりを握り、手を離す。手が震えていた。
ハードルたけぇよ!だって、初めてなんだぞ男を襲うの!
男の人間に化け、教会の戸の前に居座る。「ベッドにそのまま転送もできるよ」という社長の提案を断ったことをオレは今更ながら後悔した。すぐベッドに潜って、拒否られちゃいましたーつって帰ってくりゃよかったんだよ…。
びゅぅ、と風が吹き荒ぶ。夜はすっかり冷え込んで、座り込んだ石畳は俺から熱をじわじわ奪っていった。
ーー
「だ…か…。大丈夫か」
「ん、んぅ?」
肩を揺すられ目を開くとあの黒い髪の人がこちらを覗いていた。和かな笑みはそのままだったが……写真では黒いだけだと思った瞳は、近くで見ると青い色がさしている。黒髪の男が持っていた燭台の柔らかな光が、彼の瞳に入ると朝焼けの空にそっくりになった。
「なぜ、ここに…」
「ん、綺麗な目」
近づいてきた男にそういうと、彼は一度目を見開いてパチクリとした。くくっと喉から笑いが漏れる。オレの一声で、目の前の難攻不落な不能男が表情を変えたってだけで優越感っていうの?愉快だった。
「…っ? 寝ぼけてないで答えて欲しい。あなたは、行く宛がないのか?」
「寒い。ね、あんたの部屋に連れてってよ」
「……。立てるか?」
差し出された手を握り、石畳にあぐらを組んでいた脚を動かそうとする。が、痺れてうまく動かない。
「ダメ、しびれてる。ね、あんただっこして連れてってよ。」
ねぇ、と再度甘えるような声を出して男に擦り寄る。
「悪魔も足が痺れるのか」
「へ」
ぎくりと体が跳ね、自分の頭に両手を当てる。ツノは生えてない。尻尾も生えてない。なのに、どうしてこいつはオレが悪魔の類だってわかったんだ。寝ぼけていた頭が急に冴え渡る。
男がオレに手を伸ばす。さっきまで、普通に握ってた手が怖くなった。『死神が消された』って、社長の言葉を思い出してしまったから。
「っごめん!オレ何も悪いことしない、消さないで」
思わず目を閉じる。降伏して、そんでもしまだ絡んでくるようなら殴る…いや、悪意持った行動をとったら消されるんだっけ?どうする、脚はまだ動かないのに。そうこうしてるうちに、牧師はオレの手を握った。
「…わたしは、あなたに危害を与えない。」
牧師の手は凸凹としていて、しかし暖かかった。冷たく赤くなったオレの指先を牧師は両手で包んだ。
「あなたは凍えていて、心まで乏しく貧しい気持ちになっているだけだ。暖をとって、安らいだら、話を聞かせてくれるか?」
オレと牧師を照らしていた燭台の火が、夜の風に吹かれて消えてしまった。オレはゆっくり頷くと、牧師の手を握り返した。
ぱらり、と書類を捲る。イヴァンという名の横に、顔写真と経歴が載ってる。黒髪の好青年がカソックをきて、ふんわりと微笑んでいる写真が目に入る。はん、腑抜けた顔だ。魔界じゃこんな笑顔…いや、他の人間だってこんな顔しねぇよ。
「はーぁ、どうするかな。」
男は環境に恵まれてて、親子関係も友人関係も良好。ある日自分の人生の指標になるものはないかと、数々の宗派を辿る。そしてたまたま本物の神様を信仰してる宗教にたどりついた。教会の洗礼を受けて、今は小さな村の牧師をしているらしい。
教会本部自体は…免罪符交付で信者からの信仰心を失くしたし……中枢神官どもも汚職まみれなのに……なんでそんなとこに入会したんだこの坊ちゃんは……。
村の外へ行く道を進むと、少し古臭い蔦の絡んだ教会にたどり着く。日はすっかり落ちてあたりは暗くなっていた。教会のドアの手すりを握り、手を離す。手が震えていた。
ハードルたけぇよ!だって、初めてなんだぞ男を襲うの!
男の人間に化け、教会の戸の前に居座る。「ベッドにそのまま転送もできるよ」という社長の提案を断ったことをオレは今更ながら後悔した。すぐベッドに潜って、拒否られちゃいましたーつって帰ってくりゃよかったんだよ…。
びゅぅ、と風が吹き荒ぶ。夜はすっかり冷え込んで、座り込んだ石畳は俺から熱をじわじわ奪っていった。
ーー
「だ…か…。大丈夫か」
「ん、んぅ?」
肩を揺すられ目を開くとあの黒い髪の人がこちらを覗いていた。和かな笑みはそのままだったが……写真では黒いだけだと思った瞳は、近くで見ると青い色がさしている。黒髪の男が持っていた燭台の柔らかな光が、彼の瞳に入ると朝焼けの空にそっくりになった。
「なぜ、ここに…」
「ん、綺麗な目」
近づいてきた男にそういうと、彼は一度目を見開いてパチクリとした。くくっと喉から笑いが漏れる。オレの一声で、目の前の難攻不落な不能男が表情を変えたってだけで優越感っていうの?愉快だった。
「…っ? 寝ぼけてないで答えて欲しい。あなたは、行く宛がないのか?」
「寒い。ね、あんたの部屋に連れてってよ」
「……。立てるか?」
差し出された手を握り、石畳にあぐらを組んでいた脚を動かそうとする。が、痺れてうまく動かない。
「ダメ、しびれてる。ね、あんただっこして連れてってよ。」
ねぇ、と再度甘えるような声を出して男に擦り寄る。
「悪魔も足が痺れるのか」
「へ」
ぎくりと体が跳ね、自分の頭に両手を当てる。ツノは生えてない。尻尾も生えてない。なのに、どうしてこいつはオレが悪魔の類だってわかったんだ。寝ぼけていた頭が急に冴え渡る。
男がオレに手を伸ばす。さっきまで、普通に握ってた手が怖くなった。『死神が消された』って、社長の言葉を思い出してしまったから。
「っごめん!オレ何も悪いことしない、消さないで」
思わず目を閉じる。降伏して、そんでもしまだ絡んでくるようなら殴る…いや、悪意持った行動をとったら消されるんだっけ?どうする、脚はまだ動かないのに。そうこうしてるうちに、牧師はオレの手を握った。
「…わたしは、あなたに危害を与えない。」
牧師の手は凸凹としていて、しかし暖かかった。冷たく赤くなったオレの指先を牧師は両手で包んだ。
「あなたは凍えていて、心まで乏しく貧しい気持ちになっているだけだ。暖をとって、安らいだら、話を聞かせてくれるか?」
オレと牧師を照らしていた燭台の火が、夜の風に吹かれて消えてしまった。オレはゆっくり頷くと、牧師の手を握り返した。
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