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第七話
しおりを挟む治癒師を目指す生徒たちは防御結界で守られた救護テントの中で負傷者の手当てを行っていた。グループで対応しているようだったがどのグループが対応するのかはランダムだ。ライナスが救護テントに行った時、モニカがいるグループとは別のグループに割り振られた。
それを少し残念に思うのはどうしてだろうか?
治療を受けながらモニカの方をちらりと見ると、真剣な顔でライナスもよく話す同級生の治療にあたっていた。ふと彼女のとなりにいた同じグループらしき男子生徒が声をかけるのが見え、彼女に二言三言声をかけると真剣だった表情がぱっと明るい笑顔を見せた。
「終わりましたよ」
声をかけられ振り返ると、自分の治療が終わったところだった。礼を言って立ち上がると、おざなりな返事と共に治療をしてくれた生徒はノートに雑然と何かを書き留めていた。立ち去る際に再び視線を向けたモニカはもう真剣な顔をしていて、目の前の生徒と同じようにノートに何かを書き込んでいる。
傷はきれいに治っていたが、石を無理やり飲み込んだようなそんな気分だった。
合同実習が終わってすぐには声をかけられなかったが、それでもその日のうちにライナスはモニカに再び声をかけていた。なんとなくそうしたくて彼女の姿を探していたからだ。彼女は学食のテラス席で友人と何か真剣に話していた。ノートが広げられているから、今日の合同実習のことだろうか?
あの後も何度か治療を受けたが結局ライナスがモニカのグループにあたることはなかった。三度目の治療の時、ライナスの治療にあたっていた女子生徒が彼の視線の先にモニカがいることに気づき、少し悪戯っぽい顔をしながら「モニカは真面目だしいい子ですよね」と告げた時はさすがにライナスも気まずくなった。
今、こうしてモニカの友人に意味深な視線を向けられて、ライナスは同じ気持ちになっている。
「それじゃあ、もう行くね」と手早く広げていたノートや教材を片づけてモニカの友人は困惑するモニカを置いて去って行った。ぎこちない空気が二人を包み、それでもこのまま立っているわけにはいかないとライナスはひと言断りを入れてさっきまでモニカの友人が座っていたモニカの向かいの席に腰を下ろした。
それでも何て会話を切り出したらいいかわからない――ライナスは目の前に広げられているモニカのノートをじっと見つめていた。きちんと定規で線が引かれた表に魔法騎士コースの生徒の名前――ライナスが知っている名前もある――と、ケガなどの具合、それからどんな治癒魔法が使ったかが書かれている。モニカのそういう真面目なところを褒めればいいのに、いつものライナスならそうするのに、どうしてか今日はそれもできなかった。
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