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第五話
しおりを挟む「久しぶりだな」
こんなところでライナスとばったり会うだけでも驚きなのにまさか声をかけられるなんて思ってもみなかったモニカは、驚きに丸くしていた目をますます丸くした。どう答えていいかわからずにいると、ライナスは突然声をかけてしまったことに後悔したのかばつの悪そうな顔をして「二年になってから運動場に来ていないだろう?」と彼にしては珍しく口ごもりながら言った。
「その、悪い意味じゃなく……君も忙しいだろうし、自主練はあくまで自主練だからいいんだが……少し気になって……」
きっと放課後の運動場に来なくなったことを責めているように聞こえないか気にしてくれているのだろう。温かくなる胸に頬もほんのり熱くなるのを感じながら、モニカは微笑んだ。
「進路の関係で、治癒師のコースに必要な授業をがんばることにしたの。今受けている授業も落第はしないようにするつもりだけど……ちょっとギリギリだから、自主訓練には行けなくって……」
「そうか」
「あの――去年は、ごめんなさい」
「去年?」
「いつもライナスくんに声をかけて、迷惑だったでしょう? これからは、」
「そんなことない!」
突然大きな声で遮られて、モニカはぽかんとライナスを見上げた。
「あ、いや……迷惑だなんて思ってない。俺こそ、いつも君を追い返すようにしか対応できなくて……」
「そんな! ライナスくんの言っていたことは正しいよ。最初から女の子に声をかけるべきだったのに……」
どうしてライナスに声をかけたのかを聞かれると答えられないので、モニカはそれだけ言ってそれ以上は何も触れなかった。
「ライナスくん、用事があったんでしょう? 引き留めてごめんなさい」
「いや、時間があるから馬の世話をしに行こうと思ってただけだ。俺の方こそ引き留めてしまったな」
「わたしのことは気にしないで」
モニカが笑ってそう言うと、ライナスはなんだかおかしな顔をした。しかし一瞬だったためモニカは首を少しだけ傾げ、「それじゃあ」と持っていた本を抱え直した。
「またね」
すれ違う瞬間に、「待ってくれ」と呼び止められる。
「どうしたの?」
「その……名前を教えてくれないか? 君は俺の名前を知ってるのに、俺は君の名前も知らないから」
「あっ……そっか。勝手に呼んでごめんなさい。わたしは――モニカ。モニカ・ティアニーです」
「そうか。モニカ――ありがとう。それじゃあ、また」
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