3 / 9
第三話
しおりを挟むモニカは心が折れそうだった。
ゲームでの行動と同じように、モニカはやや後悔しながらも懸命に授業を受け、ライナスとも接点を持とうと放課後、彼が自主訓練をしている運動場へと向かった。魔法騎士を目指している生徒の多くは放課後や早朝に運動場で剣術や馬術などの授業に向けての自主練はもちろん、体力づくりの走りこみなどをしている。ゲームでは主人公もそれに参加しようと運動場に赴き、一人で参加するのに不安を覚えてたまたま近くを通りかかったライナスに声をかけるのだ。
でも実際に同じ行動をしてみて、ゲームの主人公は勇気あるなとモニカは実感した。
ライナスは声をかけると立ち止まってくれたが、モニカには女子と一緒に訓練をした方がいいと言って去って行ってしまった。当然である。男子と女子ではそもそも体力に差があるし、モニカは女子でも体力的には普通の方だ。ライナスと一緒に自主訓練なんてそもそも無理がありすぎたのだ。
それでも授業を死にそうになりながらがんばっているんだから……という気持ちもあって、モニカはあきらめず、一年生の間はたびたびライナスに声をかけた。くじけそうになりながらも、何度も、何度も……もちろんライナスに断られた後は彼に言われた通り他の女子生徒と一緒に訓練をして帰ったが、今まで一度もライナスと一緒に行動をしたことはない。
「でも絶対に迷惑だと思われているし、そろそろ嫌われてきた気がする……」
一年間同じ行動をくり返してきて、モニカは内心そう思っていた。というか、自分だったら迷惑だ。ライナスはなんだかんだやさしいからいつもちゃんと立ち止まってくれるだけで、普通ならいい加減無視されているだろう。
そう、ライナスはやさしい……それも、モニカの心を折る要因になっていた。
「あきらめちゃうの? ライナスくんと一緒にいたくてがんばってきたのに?」
ティナの方が泣きそうで、モニカはちょっとだけ微笑んだ。
最初は、ゲームの推しだったからだ。それは間違いない。でも実際にモニカとして彼と接して、彼を見つめて、彼はゲームと同じように無愛想で、ゲーム以上に面倒見がよくやさしくて、そして何よりゲームでは知らなかった現実の彼は誰よりも努力家で……いつも放課後誰よりも遅くまでボロボロになりながら自主訓練をしている彼の姿を知って、いつの間にかモニカとして本気で彼を好きになっていた。
「でももう、二年生だから」
一年生が終わり、二年生になる前の長期休暇の間にモニカはいろいろと考え――そして、前世はあくまで大昔の思い出として心の奥にしまうことにした。ライナスのことをあきらめるのではなく、前世のゲームの推しであることを引きずったまま好きでいることは不誠実だと思った。それに――
「それに、治癒師になりたいなって思ってて……二年生の終わりに、進路選択があるでしょう? 今から治癒師にしぼって、勉強をがんばりたいなって」
「たしかにモニカはたくさん授業を受けてるし、もう少し減らした方がいいとは思ってたけど……」
ティナは納得いかない顔をしていた。
「ライナスくんのこと、あきらめるわけじゃないよ」
モニカは言った。
「あきらめられないし……でも、治癒師の夢もあきらめたくないの」
攻略のために選ぼうとしていた進路だが、実際に授業を受けたり治癒師の仕事を知ったりする中でこういう仕事をしたいと思うようになったのは本当だ。特に一年生の終わりに行った課外授業で治癒師の仕事を体験してからその気持ちは強くなっていった。
モニカのまだまだな治癒魔法を使って簡単なケガや不調を治したのだが、温かな笑顔とお礼の言葉を受けてやりがいを感じたのだ。
治癒師になるためのコースに進むには成績はぎりぎりで、魔法騎士のコースに必要な授業を捨てれば成績があがるのはわかっていた。実際に、教師にもそうするようにすすめられている。
「接点はなくなっちゃうかもしれないけど、見てるだけでも十分だし……」
「モニカ……」
胸の痛みには気づかないフリをして、モニカは静かにそう言った。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
婚約破棄はいいですが、あなた学院に届け出てる仕事と違いませんか?
来住野つかさ
恋愛
侯爵令嬢オリヴィア・マルティネスの現在の状況を端的に表すならば、絶体絶命と言える。何故なら今は王立学院卒業式の記念パーティの真っ最中。華々しいこの催しの中で、婚約者のシェルドン第三王子殿下に婚約破棄と断罪を言い渡されているからだ。
パン屋で働く苦学生・平民のミナを隣において、シェルドン殿下と側近候補達に断罪される段になって、オリヴィアは先手を打つ。「ミナさん、あなた学院に提出している『就業許可申請書』に書いた勤務内容に偽りがありますわよね?」――
よくある婚約破棄ものです。R15は保険です。あからさまな表現はないはずです。
※この作品は『カクヨム』『小説家になろう』にも掲載しています。
距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?
hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。
待ってましたッ! 喜んで!
なんなら物理的な距離でも良いですよ?
乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。
あれ? どうしてこうなった?
頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。
×××
取扱説明事項〜▲▲▲
作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+
皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。
9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ(*゚ー゚*)ノ
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。
お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。
ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの?
……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。
彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ?
婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。
お幸せに、婚約者様。
私も私で、幸せになりますので。
白い結婚はそちらが言い出したことですわ
来住野つかさ
恋愛
サリーは怒っていた。今日は幼馴染で喧嘩ばかりのスコットとの結婚式だったが、あろうことかバーティでスコットの友人たちが「白い結婚にするって言ってたよな?」「奥さんのこと色気ないとかさ」と騒ぎながら話している。スコットがその気なら喧嘩買うわよ! 白い結婚上等よ! 許せん! これから舌戦だ!!
魅了アイテムを使ったヒロインの末路
クラッベ
恋愛
乙女ゲームの世界に主人公として転生したのはいいものの、何故か問題を起こさない悪役令嬢にヤキモキする日々を送っているヒロイン。
何をやっても振り向いてくれない攻略対象達に、ついにヒロインは課金アイテムである「魅惑のコロン」に手を出して…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる