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「才能があって周りから期待されてたんだっけ? 大事な人材、潰しちゃったね」
わざと煽る様に言えば、一瞬、アルファの顔が歪む。でも、すぐに張り付けたような笑みに戻る。
けれど、分かりやすい。さっきと全然違う。余裕や、嫌味ったらしさが感じられない。
「そ、んなの、まだ分からないだろう? 試してみれば――」
「試さなくたって分かるよ」
自分のことは、自分が一番分かる――と、言いたいところだが、実際、僕自身に子供が出来なくなることを知ったのは、リュストさんに中で出されても、発情期が来てしまったことがきっかけなのだが。
とはいえ、これだけリュストさんと頻繁に生でしていて、子供が出来ないのはもはやオメガ特有の生殖能力は失われたと考える他ない。リュストさん自身、男が子供を産めるなんて、考えてもいないようだから。
あれだけ、もう子供が作れないなんて、僕の価値はどうなるんだろうとショックを受けたのに。
子供を産めなくなってしまったことが、今、リュストさんの元からいなくならなくてもいい理由になっていることに、希望を見出している。
不思議なものだ。あれだけ未来は暗いと思って、ずっとベッドの上でただ時間を浪費していたのに。
絶望的な状況が、僕の武器になるなんて。
「子供がいないなら、僕がお前のところに行く理由はない、よな?」
ないって、言ってくれ。
虚勢を張りながら、僕は切実にそう願っていた。僕にはもう、これしかない。
オメガの生殖能力は、異常と言っても過言ではないほど。あの、かつて見捨てた、男娼をさせられている少年も、年齢から考えて、五十人は子供を産むことが出来るだろう。毎年産んで、双子や三つ子を産むような体質であれば、百を超えてもおかしくはない。
オメガとは、そういう生き物だ。
もちろん、元の世界で、そんな風に子供をぽんぽん産ませるのは違法である。本人が望んでそれだけ産むのは別だが。
それだけの可能性があって、しかもそのオメガを何人もこちらに呼んできて、僕一人に固執する理由はない、はず。
損得勘定をしていたのか、しばらく笑顔のまま固まっていたアルファが、口を、開く。
「――そうだね。そんなにリュストと一緒にいたいのなら、見逃してあげても――」
あくまでこちらに原因がある、という口調のアルファを笑ったのは、僕ではなく――ずっと、隣で僕とアルファの会話の成り行きを見守っていたリュストさんだった。
「――愛されてきたから愛し方が分かる? はは、ふざけんなよ」
乾いた笑い。心底軽蔑したような声音。
「結局、お前はまた、こいつを捨てるんだ」
ぎゅ、と、僕はリュストさんに抱き寄せられた。
わざと煽る様に言えば、一瞬、アルファの顔が歪む。でも、すぐに張り付けたような笑みに戻る。
けれど、分かりやすい。さっきと全然違う。余裕や、嫌味ったらしさが感じられない。
「そ、んなの、まだ分からないだろう? 試してみれば――」
「試さなくたって分かるよ」
自分のことは、自分が一番分かる――と、言いたいところだが、実際、僕自身に子供が出来なくなることを知ったのは、リュストさんに中で出されても、発情期が来てしまったことがきっかけなのだが。
とはいえ、これだけリュストさんと頻繁に生でしていて、子供が出来ないのはもはやオメガ特有の生殖能力は失われたと考える他ない。リュストさん自身、男が子供を産めるなんて、考えてもいないようだから。
あれだけ、もう子供が作れないなんて、僕の価値はどうなるんだろうとショックを受けたのに。
子供を産めなくなってしまったことが、今、リュストさんの元からいなくならなくてもいい理由になっていることに、希望を見出している。
不思議なものだ。あれだけ未来は暗いと思って、ずっとベッドの上でただ時間を浪費していたのに。
絶望的な状況が、僕の武器になるなんて。
「子供がいないなら、僕がお前のところに行く理由はない、よな?」
ないって、言ってくれ。
虚勢を張りながら、僕は切実にそう願っていた。僕にはもう、これしかない。
オメガの生殖能力は、異常と言っても過言ではないほど。あの、かつて見捨てた、男娼をさせられている少年も、年齢から考えて、五十人は子供を産むことが出来るだろう。毎年産んで、双子や三つ子を産むような体質であれば、百を超えてもおかしくはない。
オメガとは、そういう生き物だ。
もちろん、元の世界で、そんな風に子供をぽんぽん産ませるのは違法である。本人が望んでそれだけ産むのは別だが。
それだけの可能性があって、しかもそのオメガを何人もこちらに呼んできて、僕一人に固執する理由はない、はず。
損得勘定をしていたのか、しばらく笑顔のまま固まっていたアルファが、口を、開く。
「――そうだね。そんなにリュストと一緒にいたいのなら、見逃してあげても――」
あくまでこちらに原因がある、という口調のアルファを笑ったのは、僕ではなく――ずっと、隣で僕とアルファの会話の成り行きを見守っていたリュストさんだった。
「――愛されてきたから愛し方が分かる? はは、ふざけんなよ」
乾いた笑い。心底軽蔑したような声音。
「結局、お前はまた、こいつを捨てるんだ」
ぎゅ、と、僕はリュストさんに抱き寄せられた。
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