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 僕がどれだけ辛くて、悔しくて、みじめで――さみしかったか、知らないくせに。
 分かったような口をきかないでくれ。

「仕方ないだろう、あのときは、君をこっちに呼ぶって決めてなかったんだから。というか、ランダムでオメガを何十人か引っ張ってきたからね。まさか君が選ばれるとは思っていなかったんだよ。本当に」

 先ほど、リュストさんにも向けたような、わがままな子供をなだめるような声音。見下されているようで気分が悪い。

「君たちの世界には、バースっていう面白いものがあるだろう? 子供をより産める『個体』が必要でね。わざわざ異世界にまで探しに行ったが、あくまで仕事。向こうに残るつもりなんてなかったからね。……自分のものにしたい、という欲求を押さえられなかった、とは言い訳になるけれど、でも、手放した方がいいだろう?」

 俺はこちらに戻るんだから。
 男の表情からは、善意しか感じない。悪意がない分、質が悪い。この男は、本気で僕を解放したのだと思い込んでいる。

 アルファに番を解消させられたオメガが、どうなるかなんて、知らないし、知ろうともしなかったんだろう。
 アルファとオメガの番が、恋人や夫婦の関係と大差がないと認識しているのかもしれない。そして、自分は優秀で間違えることのない人間だから、その認識に間違いはないと、疑いもしない。

 ――反吐が出る。

「……いいわけ、ないだろ」

 僕の目の前から消えてしまうのだとしても、全部話せなかったのだとしても、それでも、捨てないでほしかった。どちらにしても、不幸になることには違いがない。
 けれど、番がいる、というのは、どうしようもなく、心の支えになるのだ。僕らのようなオメガは、死にたくても、辛くても、全て投げ出して消えたくても、番がいるという事実にすがって、心を保つ生き物なのだ。

 あの娼館街から逃げ出した同郷のオメガのように。あの絶望しきった後でさえ、きっと、番に希望を見出したに違いない。もしかしたら、今はまた、逃げ出す計画をたてているかもしれない。

「アルファに捨てられたオメガが、どうなるか知らないんだろ。アルファと違ってオメガは新しく別の番を持てないし、発情期の周期だってぐちゃぐちゃになるし、それに――」

 子供だって、と言おうとして、ふと、口が止まる。
 このアルファは、より子供を産める『個体』が必要だって言わなかったか? だから、オメガをわざわざ異世界から呼び寄せたのだと。

 もし――もし。僕が子供の産めないオメガだと知ったら……?
 僕はここからいなくならなくても、いいんじゃないのか?
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