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それにしても、ここがバレるのも時間の問題だろう。
一見すれば、放置した洗濯ものの山ではあるけれど、リュストさん自体は片付けや掃除が出来ないタイプじゃない。それに、クローゼットの中身をごそっと出しているから、今の季節のものじゃない衣類も混ざっている。
違和感に気がつかれたら一巻の終わりなのである。
「ここじゃないのかなあ……」
ベッドの下を探している女は、起き上がって、ぽつりと呟く。この部屋自体、隠れられる場所は少ない。
「――……こっちかなあ」
クローゼットの扉が開く音がする。僕が衣類をほぼ全て出してしまっているから、確認はすぐ済むはずなのに、扉が閉まる音がしない。
ここからは見えないが、気配的に、ストーカー女はクローゼットの前から動いていないように見えた。
――……気づかれた?
クローゼットが閉まる音がしないまま、女の足音が聞こえてくる。――そして、それはこちらに近付いてきた。
やばい、と思いながら、僕は無意識にリュストさんのシャツを握りしめていた。
服なんか、盾の代わりにならない。だったら、衣類を手に巻きつけて包丁の刃の部分を握れるようにしたほうがいいだろうか。
こないでくれ、気が付かないでくれと願いながらも、僕はバレたときの対処法を考える。
いや、もう――早く、リュストさん、帰ってきてくれ……!
僕は必死な思いで祈る。
その祈りが届いたのか――ガチャっと、鍵が開く音が玄関の方から聞こえてきた。
帰ってきた?
玄関で、なにやらがちゃがちゃとやっている音が聞こえてくる。音の重さからして、玄関にいつも置いている薬の壺を整理しているのかもしれない。リュストさんが帰ってきた後、たまに聞こえる音だ。
その音にまぎれて、小さく、キィ、と、クローゼットの扉が閉まる音がした。
……クローゼットの扉が閉まる音?
窓から逃げる、という手ではなく、クローゼットに隠れる、という方を取ったのか。
リュストさんがこっちに来て大丈夫なのか? と思う反面で、今のタイミングでも、怖くて出ることが出来ない。
壺を整理しているのであろう音が止むと、こちらに向かって歩く足音が聞こえてくる。いつもの、リュストさんの足音だ。
扉が開いて――すぐに、僕の巣が崩される。
「またやってんのか、お前は」
あっさりと僕を見つけるリュストさん。リュストさんが巣を崩したことにより、風通しが良くなる。
「――……なんかお前、甘い匂いするな。こんな匂いしてたか?」
不思議そうにリュストさんが、「洗剤、変えてないのに」と僕が巣材にしていたシャツをかいでいた。
もしかして、リュストさん、僕のフェロモンが分かるようになってる……?
発情期時のオメガから甘い匂いがする、だなんて、それはフェロモンの匂いに決まっている。
強いオメガやアルファ――特にオメガの発情期の期間に、共に生活しているとバース性が極まれに変化する、という話を聞いたことがある。この世界にバース性はないはずなのに、同じような現象が起きている、というのか?
それは、つまり、リュストさんがアルファに近くなっているっていう――。
そんなことを、考えてしまっていたからか、僕はクローゼットの扉が再び、ゆっくりと静かに開いていることに、気が付くのが遅れてしまった。
――リュストさん越しに、女と目があう。包丁を、構えた、女と。
僕は、力の限り、リュストさんを引っ張って、庇うように前に出て、それから――。
一見すれば、放置した洗濯ものの山ではあるけれど、リュストさん自体は片付けや掃除が出来ないタイプじゃない。それに、クローゼットの中身をごそっと出しているから、今の季節のものじゃない衣類も混ざっている。
違和感に気がつかれたら一巻の終わりなのである。
「ここじゃないのかなあ……」
ベッドの下を探している女は、起き上がって、ぽつりと呟く。この部屋自体、隠れられる場所は少ない。
「――……こっちかなあ」
クローゼットの扉が開く音がする。僕が衣類をほぼ全て出してしまっているから、確認はすぐ済むはずなのに、扉が閉まる音がしない。
ここからは見えないが、気配的に、ストーカー女はクローゼットの前から動いていないように見えた。
――……気づかれた?
クローゼットが閉まる音がしないまま、女の足音が聞こえてくる。――そして、それはこちらに近付いてきた。
やばい、と思いながら、僕は無意識にリュストさんのシャツを握りしめていた。
服なんか、盾の代わりにならない。だったら、衣類を手に巻きつけて包丁の刃の部分を握れるようにしたほうがいいだろうか。
こないでくれ、気が付かないでくれと願いながらも、僕はバレたときの対処法を考える。
いや、もう――早く、リュストさん、帰ってきてくれ……!
僕は必死な思いで祈る。
その祈りが届いたのか――ガチャっと、鍵が開く音が玄関の方から聞こえてきた。
帰ってきた?
玄関で、なにやらがちゃがちゃとやっている音が聞こえてくる。音の重さからして、玄関にいつも置いている薬の壺を整理しているのかもしれない。リュストさんが帰ってきた後、たまに聞こえる音だ。
その音にまぎれて、小さく、キィ、と、クローゼットの扉が閉まる音がした。
……クローゼットの扉が閉まる音?
窓から逃げる、という手ではなく、クローゼットに隠れる、という方を取ったのか。
リュストさんがこっちに来て大丈夫なのか? と思う反面で、今のタイミングでも、怖くて出ることが出来ない。
壺を整理しているのであろう音が止むと、こちらに向かって歩く足音が聞こえてくる。いつもの、リュストさんの足音だ。
扉が開いて――すぐに、僕の巣が崩される。
「またやってんのか、お前は」
あっさりと僕を見つけるリュストさん。リュストさんが巣を崩したことにより、風通しが良くなる。
「――……なんかお前、甘い匂いするな。こんな匂いしてたか?」
不思議そうにリュストさんが、「洗剤、変えてないのに」と僕が巣材にしていたシャツをかいでいた。
もしかして、リュストさん、僕のフェロモンが分かるようになってる……?
発情期時のオメガから甘い匂いがする、だなんて、それはフェロモンの匂いに決まっている。
強いオメガやアルファ――特にオメガの発情期の期間に、共に生活しているとバース性が極まれに変化する、という話を聞いたことがある。この世界にバース性はないはずなのに、同じような現象が起きている、というのか?
それは、つまり、リュストさんがアルファに近くなっているっていう――。
そんなことを、考えてしまっていたからか、僕はクローゼットの扉が再び、ゆっくりと静かに開いていることに、気が付くのが遅れてしまった。
――リュストさん越しに、女と目があう。包丁を、構えた、女と。
僕は、力の限り、リュストさんを引っ張って、庇うように前に出て、それから――。
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