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07 残り十五万八千五十四円(6)

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 興奮してるのか、血が足りなくなってきたのか、妙に頭がぼーっとしてきた。多分、両方だと思うが。性的な刺激も、出血も、仕事だけして、不健康な生活をしてきた社畜には、急にされると重すぎる。
 僕がおとなしくなったのに気が付いたのか、男が、ひらひらと目の前で手を振りながら「大丈夫?」と問うてきた。

「――……最悪だ」

 頭はぼーっとしているし、久々の射精で腰が酷く重い。血が足りないのか、それとも口の中に血の味が広がっているから、若干の気持ち悪さすら感じている。
 それなのに――もっと、この男が欲しくてたまらない。最後までしたい、という気持ちだけが、僕の意識を保たせていた。

 僕自身、酷く淡白なオメガ性だった。ヒートはあるけど、軽いものばかりで、学生時代も弱い抑制剤をヒートの初日に飲んでおけばなんとかなった。社会人になって、少ししてオメガ性として不能になってからは、ヒート自体、一年に一度あるかないか、の頻度になってしまっていた。徹夜続きが被れば、それで体調が悪いのか、ヒートの結果なのか分からないくらいに。

 元より性欲が薄い方だったので、今、こんなにも『この男が欲しい』という感情が消せないことに、なによりも困惑していた。
 バースって、やべえな。

 僕は、顔のすぐ横にあった、男の手にすりよる。性的な興奮があるはずなのに、なぜだか、これだけでも、少し、心が満たされる気がした。

 ――アルファ側は番を何人も作れるんだっけ。

 そんなことを一瞬、考えてしまった。いかんいかん、流石にそれは駄目だ。
 この男が僕の希望になったら――僕はきっと、なんでも出来てしまう。それこそ、今日辞めてきた会社の様に、馬車馬の様に働かされて死んだって、きっと死に際に後悔はしないんだろう。
 生きることが何よりも素晴らしい、ということは、まあ、理解できる。でも、死ぬよりも辛い目にあいながら生きることは、果たして幸せなんだろうか。

 まあ、僕がこんなに考えたところで、男は僕を番にしないだろうけど。
 こんなにも、亡くした番が大切で、死ぬぎりぎりまで番意外の血を飲まなず――それこそ、僕と出会わなければ死んでいたはずだ。

「――……気持ち悪い」

 僕はぽつりと呟く。
 ぐるぐるといろんなことを考えていたら、妙に頭が痛くなってきた。こんな相手と肌を重ねるのが気持ち悪いのではなく、単純に、吐きそうだった。

 ……そう言えば、今日、朝コンビニで買った栄養補給のバー一本食べたっきり、水分補給すら出来てない気がする。

 常に不摂生な生活を送ってきた僕だ。今更こんな食生活、珍しくもないが、そんな生活で、こんなにも激しく興奮してしまうのは――どうなんだろう。

 今更、頭だけは理性が戻ってきた。流石にヤバいんじゃ……? と思ったときには、多分、もう、遅くて。
 目の前が黒くなり始めて、男の焦る声が、水の膜を通したかのように、小さくぼやけていく。
 いつまで意識が保っていたか、もう、定かではない。
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