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一章 新学期は運命と一緒に
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雪解けが進み、
町中は一気に春へと向かい始める――。
と、
思っていたけれど、今季の雪はどうもしつこいようで、
寝雪はいまだにしぶとく残り、陽気も春らしい感じはしていない。
――4月。
薄暗い部屋で私は目を覚ます。
気分は――、あまりよくない。
血圧が低い体質も相まって朝はいつもスロースタート。
今日は待ちに待った入学式、いつも以上に準備は念入りにしたい。
でも、緊張してうまく眠れていなかったのかな、身体は変にだるかった。
現在の時刻は6時――。
今後はこの辺りが起床時間となりそう。
だけど、今日の日程は特別。
入学式を終えたら教材説明やクラスのレク等が行われ、
終了予定時刻はお昼過ぎと案内に書いてあった。
授業は無いうえに、お弁当も作らなくて良い、
今の体調にはとても助かる内容となっていた。
そろそろ重い体にエンジンをかけよう、なんだかんだで準備は必要だから。
ベットから起き上がりカーテンを開ける、東の方角に本気では無い太陽が見えた。
陽の昇る速度だけは季節相応。
空を見上げると雲も薄く、今日の天気は良さそうだった。
とは言え……、
――寒い。
北海道の4月は春に程遠い気温、起きたばかりの部屋は冷え切っている。
私はパジャマのまま一階の居間へ向かった。
――あぁ、あったかぁい。
扉を開けると温風が包み込む。
タイマー予約をしていた居間は常夏、身体が温まったら準備開始。
パジャマを脱ぎ家着へと着替える、
歯を磨いて、朝ご飯を食べてと、私はいつものルーティーンをこなしていった。
食器を洗いもう一度歯磨きへ、
洗面所で鏡に映った私の頭は……。
「これ……、入った方が早いかも」
昨日もお風呂に入ったんだけど、髪の毛の爆発具合がブローでは無理そう。
まぁ初日だし、ちゃんと整えて行こう。
私はぬるいお風呂を沸かして手短に身体を清めた。
――結局。
入っても入らなくてもブローには時間がかかる。
横着して切っていない髪はお尻くらいまで達していた。
切ろう切ろうとは思っているんだけど、なんとなく後回しにしてしまう。
おかげで、使うシャンプーの量と時間の消費は激しい。
乾いたのを確認すると、
後ろ手に大きく髪をなびかせ根元にリボンをまとわせる。
この髪型が私のスタンダード、長めのポニーテールだ。
今の時刻は、……7時30分。
思った以上に時間を取られた。
式の開始が9時だから、そこまで急ぐことはないけどね。
学校までは15分くらいで着いちゃうから余裕はある、今日の予定を再確認しよう。
入学式の内容はこれといって特別な事はない、
クラスの割り当ては身分証明用ARiSSに送られてきてる。
小学校からこういった管理は端末経由、
母の時代は校門前で張り紙を見て自分のクラスを確認したらしい。
面倒だけど、そっちの方がわくわくして楽しそうとも思った。
「さて……」
家着を脱いでワイシャツに手を通す、肌にあたる感じが硬くてまさに新品。
私の通う蘭北の制服はブレザースタイルで、奇抜な感じはしない、ごく普通。
上着が紺色、スカートは灰色がベースのチェック柄。
白いワイシャツがアクセントになっていて、襟には赤いラインが縦に入ってる。
ネクタイは簡単に脱着出来る仕組みで、学年ごとに色が異なっていた。
登校スタイルに変身した自分の姿を鏡に映す。
――まあ、普通だよね。
至極当然の反応。
変わった制服じゃない限り驚きも無い、制服で学校を選んだ訳では無かったし。
だけど、私には一般的な女の子とは違う特徴がある。
学校へ向かう最中に嫌でも痛感する大きな違いが……。
――いつもの事。
ため息を吐きつつ手荷物を確認する、初日から忘れ物はできないからね。
中学に続き高校も一人の入学式、私の両親は多忙でまず家に居ない。
小さい頃は寂しかったけど、今となっては自由にできる時間が気楽で良い。
合格報告もARiSS経由だったし、連絡はどこでも取れるから気にはしていない。
「いってきます」
静かな玄関で私の声が小さく響いた。
家を出ると私は中学の時とは逆方向へ進みだす。
早朝より雲が増えた空は、合間から日差しが差し込んでいた。
「入学式なのに、ちょっと残念な天気なったね」
ぼやきながら、見慣れない通学路で学校へ向かう。
日陰が多く雪が残っていて歩きづらい、春だというのに雰囲気も寒々しい。
近所とは言え普段通らない場所は見覚えもなく、変な新鮮味があった。
方向的に表れ始めるのは蘭北の制服を着た女子たち。
その密度が濃くなればなるほど、私は内心で身構える、
ある反応が起こることを察して。
まもなく、前方を歩いていた集団をかわして進んだ。
その時に聞こえた言葉――。
「うわ……、おっきい」
そのつぶやきは辺りに伝染し、至る所から視線を感じることとなる。
毎度の事で慣れてはいるけれど、さすがに閉口してしまう。
言葉だけを聞けば胸とかお尻かなと思うでしょ? そうじゃない。
私のはターゲットエリアが違う、それでいて普通よりだいぶ大きいんだよ、
――身長が。
一般的な女の子は高くても165とかそこらへんだと思う。
低い子は150以下ってのもざら。
それに比べて私、弓木雪菜の身長は――。
――173cm。
そこらの男子と同じくらいの身長。
スポーツとかしていない限り、女子としては大きい部類に入ってしまう。
周りから見ても、頭一つ以上は抜けてる存在だった。
学校に近づけば近づくほど女子の比率は跳ね上がり、
それに比例して聞こえる声も増えていく、目立つよね、この空間だと特に……。
多方向から視線を感じながら私は何とか新しい学校の入り口にたどり着いた。
――室蘭市立蘭北女子高等学校。
大きな代償を払ってこの学校に来ることができた。
失ったものへの後悔は消えたことが無い。
だけど、それでも私はここへ来たかった。
自分の進む方向を見つける為に――。
『新一年生はこちらへ』
校門に大きく書かれた矢印、添えられたキャラクターも可愛らしい。
なんだろう、目に映る物すべての物が古くない。
言っている事がおかしいかもしれないけど、
開校15年って学校としては若い校舎なのかな、見た目も綺麗でかっこいい。
まぁ、60周年の母校とは年季が違うよね。
生徒通用門と書かれた大きなゲートを抜け、
新入生用と書かれた端末に支給されたARiSSをかざす。
『ようこそ弓木雪菜さん、あなたの靴箱は……』
持っていた端末が承認され、画面にナビゲーションが表示される。
矢印に従って入り組んだ棚の中を進むと自分の靴箱を見つけた。
――ここから、スタート。
靴を履き替え周りを見渡すと、視界いっぱいに広がる靴箱ゾーン。
人数が多いだけあって中学の時とは規模が違う。
ここだけでも体育館くらいの大きさはあるんじゃないかな。
それと、案内に集中していた分まわりの状況に気づいていなかった。
この混雑状況は私の視界だと頭の海にしか見えない。
「ん?」
突然、手に持っていた端末が振動を始めた。
画面には文字と進む方向が示されている。
『メインホールへご案内しますのでお進みください』
とても親切だけど少し過剰な気が……、だけど初登校だしここは従って行こう。
周りにも同じ案内が来ているのか、意図せず作られた集団は同時に移動を開始した。
広く長い通路に生まれた大きな人の波、それでも指示される程の混雑には感じない。
通路によって限られていた視線の先がゆっくりと開けていく、
私を含む一行はひたすらに矢印の示す場所へ進んでいった。
そして、
親切すぎるナビの意味を知ることになる。
――なんだ、これ……。
ひらけた場所へと誘導された私達は現れた光景に驚きを隠せなかった。
――本当に学校?
天井を感じないほど高い吹き抜けに巨大な円形ホール、
まるで大きな街のスクランブル交差点に立っている気分。
それか巨大なショッピングモールの中に居るみたい。
放射状に作られた大小の入り口は学校の中心がここだと言ってる感じ。
同じ気分を味わっているのか、周りには立ち止まってる子が結構いた。
地面には各方面への矢印があり、入り口には電光掲示板でエリアの詳細が流れてる。
歩いてきた場所には生徒用履替場・登下校口と表示されていた。
他の入り口にもまだ知りえない情報が所狭しと映し出されている、
ここまで情報が多いと何が何だか……、丁寧な端末が要る訳だよね。
統合学校だから大きいのは分かっていたけど、実際に見ると衝撃的。
蘭北の生徒数は中高を合わせて約2000人。
敷地を最大限活用するために作られた校舎は、屋上が全天候型ドームグラウンド、
地下にはまるで迷宮の様な部活棟が広がっている、……らしい。
パンフレットにはそう書いてあった。
元は中高一貫と言うのもあって高校の制服以外に中学の子も大勢見える。
資料を読んだ時はちょっと大げさだなぁと思ってた。
でも、こうして実物を見て分かったのは、この学校は広大過ぎるということ。
尋常じゃないくらいたくさん詰め込みすぎだよ。
あまりの大きさに面を食らって呆けてしまった。
見るもの全てが目新しい、観光客の様にキョロキョロ辺りを見渡していると、
手の中で端末が振動した。
『入学式会場 新入生到着率80%』
うわ煽ってる、これは何気に煽ってるよ。
メッセージが消え、再び画面へ方向が示されると、
さっきまでは緑の矢印だったのが今度は赤色で大きくなっている。
早く行けと言わんばかりにアニメーションも追加されて。
ちょっと急ごう、学校の中は後でゆっくり見ればいいんだから。
私は端末の示す方向へ身体を向ける。
その時、視線の下を白い光の様なものが横切った。
――ん……?
甘くてやわらかい香りがその後に続く。
香水なのかな、すごくいい匂い。
特徴的なのに刺激が薄くて後を引く感じ。
私は気になって通り過ぎた方へ振り向いた。
――見え……、
視界に捉えた瞬間、心臓が激しく脈を打つ。
思わず息を飲んだその光景、……いや姿に、
私の瞳は瞬きを忘れてしまう――。
町中は一気に春へと向かい始める――。
と、
思っていたけれど、今季の雪はどうもしつこいようで、
寝雪はいまだにしぶとく残り、陽気も春らしい感じはしていない。
――4月。
薄暗い部屋で私は目を覚ます。
気分は――、あまりよくない。
血圧が低い体質も相まって朝はいつもスロースタート。
今日は待ちに待った入学式、いつも以上に準備は念入りにしたい。
でも、緊張してうまく眠れていなかったのかな、身体は変にだるかった。
現在の時刻は6時――。
今後はこの辺りが起床時間となりそう。
だけど、今日の日程は特別。
入学式を終えたら教材説明やクラスのレク等が行われ、
終了予定時刻はお昼過ぎと案内に書いてあった。
授業は無いうえに、お弁当も作らなくて良い、
今の体調にはとても助かる内容となっていた。
そろそろ重い体にエンジンをかけよう、なんだかんだで準備は必要だから。
ベットから起き上がりカーテンを開ける、東の方角に本気では無い太陽が見えた。
陽の昇る速度だけは季節相応。
空を見上げると雲も薄く、今日の天気は良さそうだった。
とは言え……、
――寒い。
北海道の4月は春に程遠い気温、起きたばかりの部屋は冷え切っている。
私はパジャマのまま一階の居間へ向かった。
――あぁ、あったかぁい。
扉を開けると温風が包み込む。
タイマー予約をしていた居間は常夏、身体が温まったら準備開始。
パジャマを脱ぎ家着へと着替える、
歯を磨いて、朝ご飯を食べてと、私はいつものルーティーンをこなしていった。
食器を洗いもう一度歯磨きへ、
洗面所で鏡に映った私の頭は……。
「これ……、入った方が早いかも」
昨日もお風呂に入ったんだけど、髪の毛の爆発具合がブローでは無理そう。
まぁ初日だし、ちゃんと整えて行こう。
私はぬるいお風呂を沸かして手短に身体を清めた。
――結局。
入っても入らなくてもブローには時間がかかる。
横着して切っていない髪はお尻くらいまで達していた。
切ろう切ろうとは思っているんだけど、なんとなく後回しにしてしまう。
おかげで、使うシャンプーの量と時間の消費は激しい。
乾いたのを確認すると、
後ろ手に大きく髪をなびかせ根元にリボンをまとわせる。
この髪型が私のスタンダード、長めのポニーテールだ。
今の時刻は、……7時30分。
思った以上に時間を取られた。
式の開始が9時だから、そこまで急ぐことはないけどね。
学校までは15分くらいで着いちゃうから余裕はある、今日の予定を再確認しよう。
入学式の内容はこれといって特別な事はない、
クラスの割り当ては身分証明用ARiSSに送られてきてる。
小学校からこういった管理は端末経由、
母の時代は校門前で張り紙を見て自分のクラスを確認したらしい。
面倒だけど、そっちの方がわくわくして楽しそうとも思った。
「さて……」
家着を脱いでワイシャツに手を通す、肌にあたる感じが硬くてまさに新品。
私の通う蘭北の制服はブレザースタイルで、奇抜な感じはしない、ごく普通。
上着が紺色、スカートは灰色がベースのチェック柄。
白いワイシャツがアクセントになっていて、襟には赤いラインが縦に入ってる。
ネクタイは簡単に脱着出来る仕組みで、学年ごとに色が異なっていた。
登校スタイルに変身した自分の姿を鏡に映す。
――まあ、普通だよね。
至極当然の反応。
変わった制服じゃない限り驚きも無い、制服で学校を選んだ訳では無かったし。
だけど、私には一般的な女の子とは違う特徴がある。
学校へ向かう最中に嫌でも痛感する大きな違いが……。
――いつもの事。
ため息を吐きつつ手荷物を確認する、初日から忘れ物はできないからね。
中学に続き高校も一人の入学式、私の両親は多忙でまず家に居ない。
小さい頃は寂しかったけど、今となっては自由にできる時間が気楽で良い。
合格報告もARiSS経由だったし、連絡はどこでも取れるから気にはしていない。
「いってきます」
静かな玄関で私の声が小さく響いた。
家を出ると私は中学の時とは逆方向へ進みだす。
早朝より雲が増えた空は、合間から日差しが差し込んでいた。
「入学式なのに、ちょっと残念な天気なったね」
ぼやきながら、見慣れない通学路で学校へ向かう。
日陰が多く雪が残っていて歩きづらい、春だというのに雰囲気も寒々しい。
近所とは言え普段通らない場所は見覚えもなく、変な新鮮味があった。
方向的に表れ始めるのは蘭北の制服を着た女子たち。
その密度が濃くなればなるほど、私は内心で身構える、
ある反応が起こることを察して。
まもなく、前方を歩いていた集団をかわして進んだ。
その時に聞こえた言葉――。
「うわ……、おっきい」
そのつぶやきは辺りに伝染し、至る所から視線を感じることとなる。
毎度の事で慣れてはいるけれど、さすがに閉口してしまう。
言葉だけを聞けば胸とかお尻かなと思うでしょ? そうじゃない。
私のはターゲットエリアが違う、それでいて普通よりだいぶ大きいんだよ、
――身長が。
一般的な女の子は高くても165とかそこらへんだと思う。
低い子は150以下ってのもざら。
それに比べて私、弓木雪菜の身長は――。
――173cm。
そこらの男子と同じくらいの身長。
スポーツとかしていない限り、女子としては大きい部類に入ってしまう。
周りから見ても、頭一つ以上は抜けてる存在だった。
学校に近づけば近づくほど女子の比率は跳ね上がり、
それに比例して聞こえる声も増えていく、目立つよね、この空間だと特に……。
多方向から視線を感じながら私は何とか新しい学校の入り口にたどり着いた。
――室蘭市立蘭北女子高等学校。
大きな代償を払ってこの学校に来ることができた。
失ったものへの後悔は消えたことが無い。
だけど、それでも私はここへ来たかった。
自分の進む方向を見つける為に――。
『新一年生はこちらへ』
校門に大きく書かれた矢印、添えられたキャラクターも可愛らしい。
なんだろう、目に映る物すべての物が古くない。
言っている事がおかしいかもしれないけど、
開校15年って学校としては若い校舎なのかな、見た目も綺麗でかっこいい。
まぁ、60周年の母校とは年季が違うよね。
生徒通用門と書かれた大きなゲートを抜け、
新入生用と書かれた端末に支給されたARiSSをかざす。
『ようこそ弓木雪菜さん、あなたの靴箱は……』
持っていた端末が承認され、画面にナビゲーションが表示される。
矢印に従って入り組んだ棚の中を進むと自分の靴箱を見つけた。
――ここから、スタート。
靴を履き替え周りを見渡すと、視界いっぱいに広がる靴箱ゾーン。
人数が多いだけあって中学の時とは規模が違う。
ここだけでも体育館くらいの大きさはあるんじゃないかな。
それと、案内に集中していた分まわりの状況に気づいていなかった。
この混雑状況は私の視界だと頭の海にしか見えない。
「ん?」
突然、手に持っていた端末が振動を始めた。
画面には文字と進む方向が示されている。
『メインホールへご案内しますのでお進みください』
とても親切だけど少し過剰な気が……、だけど初登校だしここは従って行こう。
周りにも同じ案内が来ているのか、意図せず作られた集団は同時に移動を開始した。
広く長い通路に生まれた大きな人の波、それでも指示される程の混雑には感じない。
通路によって限られていた視線の先がゆっくりと開けていく、
私を含む一行はひたすらに矢印の示す場所へ進んでいった。
そして、
親切すぎるナビの意味を知ることになる。
――なんだ、これ……。
ひらけた場所へと誘導された私達は現れた光景に驚きを隠せなかった。
――本当に学校?
天井を感じないほど高い吹き抜けに巨大な円形ホール、
まるで大きな街のスクランブル交差点に立っている気分。
それか巨大なショッピングモールの中に居るみたい。
放射状に作られた大小の入り口は学校の中心がここだと言ってる感じ。
同じ気分を味わっているのか、周りには立ち止まってる子が結構いた。
地面には各方面への矢印があり、入り口には電光掲示板でエリアの詳細が流れてる。
歩いてきた場所には生徒用履替場・登下校口と表示されていた。
他の入り口にもまだ知りえない情報が所狭しと映し出されている、
ここまで情報が多いと何が何だか……、丁寧な端末が要る訳だよね。
統合学校だから大きいのは分かっていたけど、実際に見ると衝撃的。
蘭北の生徒数は中高を合わせて約2000人。
敷地を最大限活用するために作られた校舎は、屋上が全天候型ドームグラウンド、
地下にはまるで迷宮の様な部活棟が広がっている、……らしい。
パンフレットにはそう書いてあった。
元は中高一貫と言うのもあって高校の制服以外に中学の子も大勢見える。
資料を読んだ時はちょっと大げさだなぁと思ってた。
でも、こうして実物を見て分かったのは、この学校は広大過ぎるということ。
尋常じゃないくらいたくさん詰め込みすぎだよ。
あまりの大きさに面を食らって呆けてしまった。
見るもの全てが目新しい、観光客の様にキョロキョロ辺りを見渡していると、
手の中で端末が振動した。
『入学式会場 新入生到着率80%』
うわ煽ってる、これは何気に煽ってるよ。
メッセージが消え、再び画面へ方向が示されると、
さっきまでは緑の矢印だったのが今度は赤色で大きくなっている。
早く行けと言わんばかりにアニメーションも追加されて。
ちょっと急ごう、学校の中は後でゆっくり見ればいいんだから。
私は端末の示す方向へ身体を向ける。
その時、視線の下を白い光の様なものが横切った。
――ん……?
甘くてやわらかい香りがその後に続く。
香水なのかな、すごくいい匂い。
特徴的なのに刺激が薄くて後を引く感じ。
私は気になって通り過ぎた方へ振り向いた。
――見え……、
視界に捉えた瞬間、心臓が激しく脈を打つ。
思わず息を飲んだその光景、……いや姿に、
私の瞳は瞬きを忘れてしまう――。
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