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魔界の扉が開いた 1
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開け放たれた窓から夜空を見上げると、ふくふくと丸くなってきた月が浮かんでいる。
私は空を仰いだまま、溜息をついた。
「もうすぐで満月だなぁ」
以前は心待ちにしていたのに、いつのまにか月を見る度に気が重くなってしまう。ここを旅立つ日を思うと胸が苦しくなるのだ。
とはいえやはり人間界には帰りたい。そして院長の手伝いをしたい気持ちも変わらない。
「私……どうしたいんだろう?」
窓枠に腕をついて考えを巡らせていると、視界に紫色のもふもふのルシファーが転がり入り込んできた。
「どうしたの、ルシファー?」
「ギギッ! ピャーッ!」
ルシファーはその場でピョンピョンと飛び跳ねて訴えかけてくるけれど、何を言っているのか全くわからないし予想もつかない。
「人間の言葉で話してくれないとわからないよ」
「キィ……」
私なら魔物語を理解できると期待していたのか、ルシファーはがくりと肩を落とした。毎度このやり取りをしているのに、どうして通じると思っているのだろうか。
ルシファーはその場でポフンと跳ねると、人型の姿になった。
「負傷した人間が森で見つかったので、ハロルド様が様子を見に行っています。おそらく何らかの理由で魔界に迷い込んできたのでしょう」
「えっ、どうして?! 満月にならないと、あちらの世界とは繋がらないんでしょう?」
「通常ならそうなのですが……もしかすると、何者かが生贄を使って扉を開いたのかもしれません」
「生贄って……」
嫌な予感がして、言葉を失った。そんな私の代わりに、ルシファーが言葉を続ける。
「ええ、人間を生贄にしてこの世界の理を歪め――通常なら満月の日にしか開かない扉を開いたのかもしれません」
「……っ」
ルシファーが言うには、人間はこの世で魔族の次に魔力量が多い生き物らしい。だから過去にも魔界の扉を開くために人間を生贄にした者が現れたそうだが、ここ百年ほどはそのようなことはなかったのだとか。
「経緯は後で探るとして……今はとにかく、その人間を助けないといけないわね」
「なぜですか?」
「えっ?」
まさかルシファーに「なぜ」と聞き返されるとは思いも寄らなかった。傷を負った人間がいたら、助けるものだろうに。
しかしルシファーは不思議そうに首をかしげている。本当に、助ける理由がわからないようだ。
「だって、魔界に迷い込んでいるんでしょう? 怪我をしているかもしれないから助けるべきでしょう?」
「そんなことで倒れるほど弱いのがいけないのです」
理由を説明しても、きっぱりと言われてしまった。
弱いのがいけないなんて、弱肉強食の魔族らしい考えだと思う。
「人間はそうじゃないの! だから助けなきゃいけないんだよ!」
部屋を出ようとする私の前に、ルシファーが立ち塞がった。
「では、ご命令ください。主であるヘザー様のご命令とあらば、人間たちを助けるよう動きます」
「人間を……弱い存在を助けるのは嫌ではないの?」
「ヘザー様のご命令なら喜んで。なんせ、魔王様に次ぐ力をお持ちなのですから」
善意ではなく、それが使命ならするということらしい。
「ルシファーって……魔族らしくないと思ってたけど、やっぱり魔族なんだね」
「そうですよ。私は魔族の中で最も強い悪魔で魔王様の右腕――そしてヘザー様が生まれて間もない頃にあなたに忠誠を誓った護衛なのですから」
「私に忠誠を誓った護衛だなんて、初耳なんだけど?」
たしかにここに来てからずっと私のそばにいたけれど、護衛というより執事のように振舞っていたではないか。
ルシファーは顎に手を添えると、コテンと首を傾げた。
「おや、初めて会った時にそうお話しましたが……そういえば、毛玉に擬態している時に話したのかもしれませんね」
「重要な話をする時は人型になってよね」
「魔王様に禁じられているので、それは無理な話かと」
今は人型になっているくせに、しれっと否定してくる。
ルシファーは悪魔らしく意地悪な笑みを浮かべると、もったいぶった動きで私の前で跪く。
「さあ、次期魔王のヘザー様。私にご命令を」
「次期魔王になるつもりはないけど……魔界に迷い込んできた人間を助けたいから、手伝いなさい」
「御意。ヘザー様の最初の命令を受けることができて光栄です」
私に命令を求めた悪魔は、憎たらしいほど満足そうな笑みを浮かべていた。
***
ルシファーと一緒に魔王城の外に出ると、ちょうど魔王とフローレアさんも出てくるところだった。二人ともいつになく表情が硬く、どことなく緊張感が漂っている。
「あ、ハロルド様たちが戻ってきた!」
城門の向こう側から魔導ランプの灯りが見えて目を凝らすと、漆黒の毛並みを持つ魔馬に乗ったハロルド様がスライムたちと一緒にこちらに向かってくる姿が見えた。ハロルド様は壮年くらいの男性を抱えており、スライムたちも別の負傷した男性を持ち上げて運んでいる。
「ハロルド様、怪我人の治療をするから、そこに寝かせて」
「うん」
ハロルド様は私の言葉に頷くと、自分のマントを敷物代わりにして、抱えていた男性を寝かせた。
男性の怪我は深く、斬りつけられた痕から血が滲んでいる。
(命からがら逃げてきたって感じね……)
私は呪文を唱えて治癒した。痛みに顔を歪めていた男性の表情が、ふっと和らぐ。
彼の目がスッと動いて私の姿を捕らえた。
「ありがとうございます。あなたは聖女様……ですか?」
「いえ、元聖女です」
「元……聖女?」
「クビにされた後この魔王城に連れてこられたんです」
「こ、ここが魔王城なんですか?!」
負傷していた男性はびくりと飛び上がり、その場で震え始めた。動き回れるようになったのだから、怪我は完全に癒えたようだ。
「ここは魔王城ですが、安全は保障しますので安心してください。いったい、何があったんですか?」
そう問いかけると、男性の顔が曇った。
「突然……、大勢の騎士たちがやってきて街を襲ったんです。自分は無我夢中で逃げて……気づくとここにいました」
「騎士に襲われる? 山賊の間違いでは?」
私の問いに、男性はゆるゆると力なく首を横に振る。
「いえ、確かに騎士でした。剣の扱いに慣れていましたし――山賊にしてはみな身綺麗でした」
この世には騎士道に反して平民を相手に窃盗を働く騎士たちもいる。たいていは落ちぶれた貴族家の下っ端で、生活のためや憂さ晴らしでそのようなことをしている。
「どこの騎士なの?」
「それが……服にも剣にも家紋がなかったのでわかりません」
「騎士なのに家紋がなかっただなんて……」
身綺麗で家紋を施されていない服を着た騎士たち。
生贄によって開かれた魔界への扉。
迷い込んできた人間――。
(嫌な予感がする……)
わざわざ大勢の騎士を雇って武具と服を与えられる財力を持つ黒幕となれば、その正体は自ずと高位貴族か――王族に絞られるだろう。
何の罪もない人々を犠牲にしてまで、何をしようとしているのだろうか。
(これ以上犠牲者をだしてはいけない……)
脳裏を過るのは、孤児院で見かけた子どもたち。彼らの中には貴族のせいで親を失った子だっていた。
私は治癒しかできないから人間相手では戦力にならないけれど――それでも傷ついている人を助けることはできるはず。
「ハロルド様、街へ行って街の人たちを助けよう」
「そうだね。このまま放っておくわけにはいかないね」
ハロルド様がいてくれるしルシファーも助けてくれるから心強いけど――相手の人数が多ければ多勢に無勢。いくら二人が強くても限界があるだろう。
となれば、戦力を借りるしかない。
「ねぇ、魔王。魔馬と戦力を貸して。被害に遭った街の人たちを助けたいの」
「危険だからダメだ。生贄を使って魔界との扉を開けるような人間は絶対に危ないやつに決まっている。そんなやつがいるところになんて行かせるものか!」
魔王は首をぶんぶんと横に振ると、私をぎゅっと抱きしめた。
すると見かねたルシファーが助け舟を出してくれる。
「魔王様、ヘザー様を放してください」
「できぬ! せっかく会えた大切な娘とまた別れるものか……!」
私を抱きしめる腕が震えている。私が攫われてから再開するまでの間、魔王はいつもこんなにも不安そうにしていたのだろうかと、ふと考えてしまった。
「……っ」
どうすればいいのかわからず固まっていると、フローレアさんが魔王の腕に手を置いた。
「――あなた、ヘザーが困っているわよ。ヘザーに好かれるように頑張ると張り切っていたのに、このままだと好感度が上がらないわ」
「フローレア……! そのことはヘザーには内緒にするよう言ったではないか!」
慌てた魔王の力が緩んだ瞬間に、私は魔王の腕から抜け出した。
「私に好かれるように……?」
「そうなの。この人ったら、『パパのかっこいいところを見たらヘザーが会いに来てくれるかもしれない』と言って、一日中ヘザーのことばかり考えているのよ?」
フローレアさんは私の手と魔王の手を取ると近づけ、握手させた。魔王の大きな掌が、私の手を包む。
「ヘザーの意思を尊重しましょう。それに、せっかくだから私たちも一緒に行くのはどうかしら? 全てが上手く片づいたら、ついでに初めての家族旅行でもしましょう?」
そんな暢気な……と思った私の隣で、魔王は血のように赤い目を輝かせた。
「さすがフローレア、名案だな! よし、さくっと終わらせて人間界を観光するぞ!」
魔王は先ほどまでのしおらしさが嘘だったかのように、意気揚々として手下たちに号令をかける。
「人間界へ行って、魔界の扉を開けた者たちを叩きのめすぞ!」
悪魔と魔物たちがその声に応え、彼らの声が暗闇に轟く。
おどろおどろしい魔族の集団が、扉をくぐって人間界へと渡った。
私は空を仰いだまま、溜息をついた。
「もうすぐで満月だなぁ」
以前は心待ちにしていたのに、いつのまにか月を見る度に気が重くなってしまう。ここを旅立つ日を思うと胸が苦しくなるのだ。
とはいえやはり人間界には帰りたい。そして院長の手伝いをしたい気持ちも変わらない。
「私……どうしたいんだろう?」
窓枠に腕をついて考えを巡らせていると、視界に紫色のもふもふのルシファーが転がり入り込んできた。
「どうしたの、ルシファー?」
「ギギッ! ピャーッ!」
ルシファーはその場でピョンピョンと飛び跳ねて訴えかけてくるけれど、何を言っているのか全くわからないし予想もつかない。
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「キィ……」
私なら魔物語を理解できると期待していたのか、ルシファーはがくりと肩を落とした。毎度このやり取りをしているのに、どうして通じると思っているのだろうか。
ルシファーはその場でポフンと跳ねると、人型の姿になった。
「負傷した人間が森で見つかったので、ハロルド様が様子を見に行っています。おそらく何らかの理由で魔界に迷い込んできたのでしょう」
「えっ、どうして?! 満月にならないと、あちらの世界とは繋がらないんでしょう?」
「通常ならそうなのですが……もしかすると、何者かが生贄を使って扉を開いたのかもしれません」
「生贄って……」
嫌な予感がして、言葉を失った。そんな私の代わりに、ルシファーが言葉を続ける。
「ええ、人間を生贄にしてこの世界の理を歪め――通常なら満月の日にしか開かない扉を開いたのかもしれません」
「……っ」
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「経緯は後で探るとして……今はとにかく、その人間を助けないといけないわね」
「なぜですか?」
「えっ?」
まさかルシファーに「なぜ」と聞き返されるとは思いも寄らなかった。傷を負った人間がいたら、助けるものだろうに。
しかしルシファーは不思議そうに首をかしげている。本当に、助ける理由がわからないようだ。
「だって、魔界に迷い込んでいるんでしょう? 怪我をしているかもしれないから助けるべきでしょう?」
「そんなことで倒れるほど弱いのがいけないのです」
理由を説明しても、きっぱりと言われてしまった。
弱いのがいけないなんて、弱肉強食の魔族らしい考えだと思う。
「人間はそうじゃないの! だから助けなきゃいけないんだよ!」
部屋を出ようとする私の前に、ルシファーが立ち塞がった。
「では、ご命令ください。主であるヘザー様のご命令とあらば、人間たちを助けるよう動きます」
「人間を……弱い存在を助けるのは嫌ではないの?」
「ヘザー様のご命令なら喜んで。なんせ、魔王様に次ぐ力をお持ちなのですから」
善意ではなく、それが使命ならするということらしい。
「ルシファーって……魔族らしくないと思ってたけど、やっぱり魔族なんだね」
「そうですよ。私は魔族の中で最も強い悪魔で魔王様の右腕――そしてヘザー様が生まれて間もない頃にあなたに忠誠を誓った護衛なのですから」
「私に忠誠を誓った護衛だなんて、初耳なんだけど?」
たしかにここに来てからずっと私のそばにいたけれど、護衛というより執事のように振舞っていたではないか。
ルシファーは顎に手を添えると、コテンと首を傾げた。
「おや、初めて会った時にそうお話しましたが……そういえば、毛玉に擬態している時に話したのかもしれませんね」
「重要な話をする時は人型になってよね」
「魔王様に禁じられているので、それは無理な話かと」
今は人型になっているくせに、しれっと否定してくる。
ルシファーは悪魔らしく意地悪な笑みを浮かべると、もったいぶった動きで私の前で跪く。
「さあ、次期魔王のヘザー様。私にご命令を」
「次期魔王になるつもりはないけど……魔界に迷い込んできた人間を助けたいから、手伝いなさい」
「御意。ヘザー様の最初の命令を受けることができて光栄です」
私に命令を求めた悪魔は、憎たらしいほど満足そうな笑みを浮かべていた。
***
ルシファーと一緒に魔王城の外に出ると、ちょうど魔王とフローレアさんも出てくるところだった。二人ともいつになく表情が硬く、どことなく緊張感が漂っている。
「あ、ハロルド様たちが戻ってきた!」
城門の向こう側から魔導ランプの灯りが見えて目を凝らすと、漆黒の毛並みを持つ魔馬に乗ったハロルド様がスライムたちと一緒にこちらに向かってくる姿が見えた。ハロルド様は壮年くらいの男性を抱えており、スライムたちも別の負傷した男性を持ち上げて運んでいる。
「ハロルド様、怪我人の治療をするから、そこに寝かせて」
「うん」
ハロルド様は私の言葉に頷くと、自分のマントを敷物代わりにして、抱えていた男性を寝かせた。
男性の怪我は深く、斬りつけられた痕から血が滲んでいる。
(命からがら逃げてきたって感じね……)
私は呪文を唱えて治癒した。痛みに顔を歪めていた男性の表情が、ふっと和らぐ。
彼の目がスッと動いて私の姿を捕らえた。
「ありがとうございます。あなたは聖女様……ですか?」
「いえ、元聖女です」
「元……聖女?」
「クビにされた後この魔王城に連れてこられたんです」
「こ、ここが魔王城なんですか?!」
負傷していた男性はびくりと飛び上がり、その場で震え始めた。動き回れるようになったのだから、怪我は完全に癒えたようだ。
「ここは魔王城ですが、安全は保障しますので安心してください。いったい、何があったんですか?」
そう問いかけると、男性の顔が曇った。
「突然……、大勢の騎士たちがやってきて街を襲ったんです。自分は無我夢中で逃げて……気づくとここにいました」
「騎士に襲われる? 山賊の間違いでは?」
私の問いに、男性はゆるゆると力なく首を横に振る。
「いえ、確かに騎士でした。剣の扱いに慣れていましたし――山賊にしてはみな身綺麗でした」
この世には騎士道に反して平民を相手に窃盗を働く騎士たちもいる。たいていは落ちぶれた貴族家の下っ端で、生活のためや憂さ晴らしでそのようなことをしている。
「どこの騎士なの?」
「それが……服にも剣にも家紋がなかったのでわかりません」
「騎士なのに家紋がなかっただなんて……」
身綺麗で家紋を施されていない服を着た騎士たち。
生贄によって開かれた魔界への扉。
迷い込んできた人間――。
(嫌な予感がする……)
わざわざ大勢の騎士を雇って武具と服を与えられる財力を持つ黒幕となれば、その正体は自ずと高位貴族か――王族に絞られるだろう。
何の罪もない人々を犠牲にしてまで、何をしようとしているのだろうか。
(これ以上犠牲者をだしてはいけない……)
脳裏を過るのは、孤児院で見かけた子どもたち。彼らの中には貴族のせいで親を失った子だっていた。
私は治癒しかできないから人間相手では戦力にならないけれど――それでも傷ついている人を助けることはできるはず。
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となれば、戦力を借りるしかない。
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「危険だからダメだ。生贄を使って魔界との扉を開けるような人間は絶対に危ないやつに決まっている。そんなやつがいるところになんて行かせるものか!」
魔王は首をぶんぶんと横に振ると、私をぎゅっと抱きしめた。
すると見かねたルシファーが助け舟を出してくれる。
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「できぬ! せっかく会えた大切な娘とまた別れるものか……!」
私を抱きしめる腕が震えている。私が攫われてから再開するまでの間、魔王はいつもこんなにも不安そうにしていたのだろうかと、ふと考えてしまった。
「……っ」
どうすればいいのかわからず固まっていると、フローレアさんが魔王の腕に手を置いた。
「――あなた、ヘザーが困っているわよ。ヘザーに好かれるように頑張ると張り切っていたのに、このままだと好感度が上がらないわ」
「フローレア……! そのことはヘザーには内緒にするよう言ったではないか!」
慌てた魔王の力が緩んだ瞬間に、私は魔王の腕から抜け出した。
「私に好かれるように……?」
「そうなの。この人ったら、『パパのかっこいいところを見たらヘザーが会いに来てくれるかもしれない』と言って、一日中ヘザーのことばかり考えているのよ?」
フローレアさんは私の手と魔王の手を取ると近づけ、握手させた。魔王の大きな掌が、私の手を包む。
「ヘザーの意思を尊重しましょう。それに、せっかくだから私たちも一緒に行くのはどうかしら? 全てが上手く片づいたら、ついでに初めての家族旅行でもしましょう?」
そんな暢気な……と思った私の隣で、魔王は血のように赤い目を輝かせた。
「さすがフローレア、名案だな! よし、さくっと終わらせて人間界を観光するぞ!」
魔王は先ほどまでのしおらしさが嘘だったかのように、意気揚々として手下たちに号令をかける。
「人間界へ行って、魔界の扉を開けた者たちを叩きのめすぞ!」
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