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第零章 天女の始まり
46 終章
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「徳ーーーーーー!!!!」
越前国、敦賀城の門をくぐった途端、徳は父親に抱き着かれ前が見えなくなった。
「え!?…っえ!?ち、父上様…?」
「徳が消えたと聞いて、俺は死ぬほど心配したぞ…っ!」
ぎゅっと強く抱きしめられ、どれほど心配をかけたか気持ちが伝わってくる。徳も同じように吉継の背に手を伸ばした。すると、吉継の抱きしめる腕の力が強くなる。
「ただいま帰りました。父上様。」
「…お帰り徳。心配かけるな。」
「ごめんなさい…。」
心配をかけてしまったことに申し訳なく思いつつも、不謹慎だが、今までこのような経験がなかったためか、少しうれしく、照れくさく徳は感じた。――が、
「ち、父上様…、くるしい…。」
「……。」
「止めてあげてくださいな、吉継様。姫様が潰れてしまいますよ。」
「!?松さん!」
徳は松を確認すると、松に向かって駆け出し、松にも抱き着いた。
「これこれ、徳様、はしたないですよ。」
「ふふ!この感じ!松さんだー。」
松は徳へ注意するが松もまんざらじゃなさそうだ。徳は二人に再会してやっと自身があるべき場所に帰って来たような気がした。
「あ、そうだ。父上様、連れてきた人?妖が居てね…。」
「あぁ、なんか門前に二つほど新しい妖力を感じるな。」
「!?」
父は意外とすごい人なのかもしれない、と紹介する前に二人を察知していた父へ尊敬の念を抱いていると、二人が門から顔を出した。
「あれ?…太郎君じゃないか。」
「うるさい!その呼び方はするなって言っただろ!」
「じゃあ、坊君か?」
「だから、それもやめろっ!」
「え…。知り合い…?」
「あぁ、昔徳の母親に片思いしてた天狗だよ。」
「だから、それも違うっていってるだろぉ!」
「…。」
(…話が見えない…。)
太郎坊と二郎坊を客間へ案内し、そこで共に今回あった出来事を説明した。徳の覚醒の話や、陰陽師の件、どれも事前に千代が吉継へ知らせを送っていたようだが、吉継は一言も聞き逃さず聞いていた。
「――それで、吉継様、徳様の母上殿というのは…。」
「そうですよ!父上様!なんで教えてくれなかったんですか…!」
千代と徳が問うも吉継は真剣な面持ちで黙っている。話そうか話さまいか悩んでいるようだ。部屋の隅で松は静かに成り行きを見ているが、松は吉継の葛藤を理解しているように見える。
「悪かったな、徳。…だが、力が覚醒していない以上、お前には伝えたくなかったんだ…。」
「どうしてですか?もしかしたら、もっと早く覚醒できたかもしれないのに…。」
「…お前を守るためなんだよ…。覚醒した後、使える力がただのチャクラだったら、お前の母親が妖だと現段階では伝えるつもりはなかった。」
「…え、なんでですか…?」
「…人間と妖の間に子が授かるというのは、本来ありえない事なんだ…。」
「え?」
「……太古の昔、人と妖が共存していたころは人と妖の混血児というのは多く居たみたいなんだが、今の世ではありえない。」
「それは…、お互いがお互いを憎んでるとか、そういう…。」
「……離れている間に、徳はいろいろなことを学んだんだな…。」
そう言うと吉継は徳の頭を撫でる。
「…いや、そういう理由もあるが、そもそも、子をもうけようとすると、お互いの身体がお互いの力に耐えきれず、命が潰えてしまうんだ…。」
「…え?」
「はぁ…。林恵が大谷の子を授かったこと自体がおかしかったんだよ。それも、産むんだって言って聞かないからあの馬鹿野郎。」
「誰が馬鹿野郎だって?太郎ちゃん?」
「お前!おれの名前は太郎坊だ!」
「はいはい。…で、混血児がいることが世に知られて、徳が理由なく忌避されたり、危険にさらされるのも防ぎたいし、自分が妖との混血児だと知って、この世間の妖への風潮を理解した時、徳がどう動くかはわからないだろう?だからお前に言わなかった。――まだまだ俺の力及ばず、世間じゃ妖の生きづらい世界が続いているからな…。」
「でも、こいつの力は妖力にほんの少しのチャクラが混ざった妖寄りの力だったってわけか…?」
「…。」
吉継は何も答えない。腕を組んで難しい顔で何かを考えている。千代も二郎坊も邪魔をしないようにと静かに会話を見守っていた。
「―――父上様、私、父上様がやっていることを手伝いたい。」
徳はシーンと静まる空気の中、急に自身の思いを伝え出した。
「…?」
「私もこの日本全国で、妖と人とが共存して生きていける世界を作りたいの…!」
「…いや、徳、別にお前まで関わる必要は…――、」
「違うの!今回、陰陽師に命を狙われたでしょ?太郎坊も、二郎ちゃんも、何も悪いことしていないのに、人間に敵視されてた。そういった何も悪くない妖たちが狙われているっていうのが、私嫌なの!」
「…それはわかるが――、」
「それに、太郎坊と約束したし。」
「…?」
「陰陽師に狙われない世の中作るって!父上様がやってること教えてほしい。それで、私にできることがあるなら私も手伝いたいの。お願い、父上様…。」
「…そうは言ってもな…。はぁ。だから妖の血が流れていることを知らせたくなかったんだ…。人間で男の俺がやるのと、混血児で女子の徳がやるとではまた違ってくるし、そもそも徳、お前が人間に敵視されることだって大いにあり得るんだ。」
「大谷、俺も止めたんだぜ?だけど、こいつ言うこと聞かないのなんのって…。」
「吉継様、止めたというよりかは、こ奴は徳様に刀を向けました。」
「何ぃ!?」
静かに話を聞いていた千代が芯のある声で吉継にチクったことで、先ほどまで穏やかに会話していた吉継の表情が般若のようになる。
「お前、まだそんなことやってるのか!?どうせ不幸になるのは見過ごせないとか言って喧嘩吹っかけたんだろう!?」
「なっ!当たり前だろ!俺はお前のことだって認めてないんだぞ!林恵だってこいつ産んで死んだんだろ!?もう俺は人間と関わって死んでいく妖なんて見たかねぇんだよ!!」
なぜ吉継は見てもないのに、太郎坊がどのような行動を起こしたか知っているのかと驚いたが、その次の太郎坊の発言の方が徳は気になった。
「そう言えば、母上様って…。」
「はぁ…。太郎坊、それは違うぞ。」
「は?」
「林恵は徳を産んだ後もそれは元気に過ごしていたさ。」
「はぁ!?だって、そんな事…。じゃぁ、なんで今…。」
「迎えが来てしまったからなぁ…。」
「は?迎え?」
「そう。だから、林恵は元気だよ。ただ、今は会えないだけ。…徳、母親を恨まないでくれ。林恵だってお前に会いたがってるんだ…。」
「いえ、…恨むなんて…。」
徳からしたら、今まで両親がいないのが当たり前に育ったのだ。父親の存在があるだけでも嬉しいのだ。それに、母親のことを知れたのは徳にとってはとても喜ばしい。
「母上様は、何の妖なんですか…?」
「あぁ、それを伝えるのを忘れていたな。
――天女だよ。天界をつかさどる最高位の妖。天女の林恵。それがお前の母親だ。」
◇◇◇◇◇
相も変わらず晴天が続いている炎天下の中、痛んだ小袖に使い古した笠をかぶった格好でのんびりと歩いている男二人。ボロな服を着ていたとて、青年の美しさには少しも痛手はないようだ――
「はぁ、帰るのが気が重い…。」
「また母上殿が侍女を全員変えていたりして。」
「笑えん。」
「…それにしても、良かったんですかー?姫さん帰しちゃって。」
「またそれか?いい加減聞き飽きたぞ。」
「だってさー、あんなに女の子に構うのって珍しいじゃん。あの子以外じゃ姫さんぐらいじゃない?しかも、姫さんなんか、出会ったその日から主様様子おかしかったよ?」
「…二人とも何のしがらみもなく、純粋に俺を見て話をしてくれるからな。それに、大谷の姫は見返りを求めて近づいてきたり、自分を偽ってよく見せようとし過ぎる女子と違うだろう?そういうやつしか今まで周りに居なかったから見てて面白いし、一緒に居て楽だ。」
「あー、胸倉掴んだり、本人目の前にしてこいつとか言ってたよね。あれはちょっとおれも面白かったな。」
「まぁ…、あれはさすがに女子として少しどうかと思うが…。…子犬のように好奇心旺盛でいつも一生懸命で、その上警戒心がなさ過ぎて…なんか、放っておけんだけだ。」
「…ふーん。…早くまた会いたいね。」
「…そうだな。…お前は千代殿に会いたいだけだろう。」
「まぁ、それもあるけどね。…ほら、見えてきましたよ。上田城。」
見えてきた城を目前に青年の足がピタリと止まった。
「はぁ…。少し時間をつぶしてからにしよう。」
「いやいや、どんだけ時間かけて帰るのさ!」
「城に着いても父上様と兄上に挨拶したらすぐに摂津に戻る。…そもそも、秀吉様もそんなほいほい人質を帰すなんておかしいだろう。」
「いや、だってもはや主様って人質じゃなくて一家臣として見られてるじゃん。」
「そうなんだが…、はぁ…。」
「あの子のところ寄ってから帰る?」
「…そうだな、そこで少し時間を潰して帰ろう。」
「きっとあの子めちゃくちゃ喜ぶよ。この前俺だけ寄ってったらなんで主様いないんだって怒ってたもん。」
「そんなことはないだろう。」
「いや、まじだって。」
男二人はお互いの顔を見ることなく、正面を見据えたままダラダラと会話を続ける。その歩みも普段の何倍以上にも遅く、大いに気持ちが反映されていた。
しばらく城下の市を歩いていると目的の店に着いたのか、男一人が笠を外し、暖簾をくぐって店の中へ声をかけた。
「こんにちわー。あ、鈴ー。今って席空いてる?」
「あれ?お久しぶりです佐助さん!今日も御一人…――、」
「いや、今日は主も一緒。」
「まぁ!珍しい!お久しぶりです!」
青年を目にすると嬉しそうに駆け寄る焦茶色の髪色に少し色素の薄い瞳を持つ少女。
「あぁ、久しいな、鈴。元気だったか?」
その青年が微笑み、声をかけると、少女は大輪の花を咲かせたように可愛らしく微笑んだ。
「はい!ずっとお待ちしておりましたよ!――真田幸村様。」
全ての出会いは偶然か、必然か。徳の知らない所で物語は既に始まっている。
越前国、敦賀城の門をくぐった途端、徳は父親に抱き着かれ前が見えなくなった。
「え!?…っえ!?ち、父上様…?」
「徳が消えたと聞いて、俺は死ぬほど心配したぞ…っ!」
ぎゅっと強く抱きしめられ、どれほど心配をかけたか気持ちが伝わってくる。徳も同じように吉継の背に手を伸ばした。すると、吉継の抱きしめる腕の力が強くなる。
「ただいま帰りました。父上様。」
「…お帰り徳。心配かけるな。」
「ごめんなさい…。」
心配をかけてしまったことに申し訳なく思いつつも、不謹慎だが、今までこのような経験がなかったためか、少しうれしく、照れくさく徳は感じた。――が、
「ち、父上様…、くるしい…。」
「……。」
「止めてあげてくださいな、吉継様。姫様が潰れてしまいますよ。」
「!?松さん!」
徳は松を確認すると、松に向かって駆け出し、松にも抱き着いた。
「これこれ、徳様、はしたないですよ。」
「ふふ!この感じ!松さんだー。」
松は徳へ注意するが松もまんざらじゃなさそうだ。徳は二人に再会してやっと自身があるべき場所に帰って来たような気がした。
「あ、そうだ。父上様、連れてきた人?妖が居てね…。」
「あぁ、なんか門前に二つほど新しい妖力を感じるな。」
「!?」
父は意外とすごい人なのかもしれない、と紹介する前に二人を察知していた父へ尊敬の念を抱いていると、二人が門から顔を出した。
「あれ?…太郎君じゃないか。」
「うるさい!その呼び方はするなって言っただろ!」
「じゃあ、坊君か?」
「だから、それもやめろっ!」
「え…。知り合い…?」
「あぁ、昔徳の母親に片思いしてた天狗だよ。」
「だから、それも違うっていってるだろぉ!」
「…。」
(…話が見えない…。)
太郎坊と二郎坊を客間へ案内し、そこで共に今回あった出来事を説明した。徳の覚醒の話や、陰陽師の件、どれも事前に千代が吉継へ知らせを送っていたようだが、吉継は一言も聞き逃さず聞いていた。
「――それで、吉継様、徳様の母上殿というのは…。」
「そうですよ!父上様!なんで教えてくれなかったんですか…!」
千代と徳が問うも吉継は真剣な面持ちで黙っている。話そうか話さまいか悩んでいるようだ。部屋の隅で松は静かに成り行きを見ているが、松は吉継の葛藤を理解しているように見える。
「悪かったな、徳。…だが、力が覚醒していない以上、お前には伝えたくなかったんだ…。」
「どうしてですか?もしかしたら、もっと早く覚醒できたかもしれないのに…。」
「…お前を守るためなんだよ…。覚醒した後、使える力がただのチャクラだったら、お前の母親が妖だと現段階では伝えるつもりはなかった。」
「…え、なんでですか…?」
「…人間と妖の間に子が授かるというのは、本来ありえない事なんだ…。」
「え?」
「……太古の昔、人と妖が共存していたころは人と妖の混血児というのは多く居たみたいなんだが、今の世ではありえない。」
「それは…、お互いがお互いを憎んでるとか、そういう…。」
「……離れている間に、徳はいろいろなことを学んだんだな…。」
そう言うと吉継は徳の頭を撫でる。
「…いや、そういう理由もあるが、そもそも、子をもうけようとすると、お互いの身体がお互いの力に耐えきれず、命が潰えてしまうんだ…。」
「…え?」
「はぁ…。林恵が大谷の子を授かったこと自体がおかしかったんだよ。それも、産むんだって言って聞かないからあの馬鹿野郎。」
「誰が馬鹿野郎だって?太郎ちゃん?」
「お前!おれの名前は太郎坊だ!」
「はいはい。…で、混血児がいることが世に知られて、徳が理由なく忌避されたり、危険にさらされるのも防ぎたいし、自分が妖との混血児だと知って、この世間の妖への風潮を理解した時、徳がどう動くかはわからないだろう?だからお前に言わなかった。――まだまだ俺の力及ばず、世間じゃ妖の生きづらい世界が続いているからな…。」
「でも、こいつの力は妖力にほんの少しのチャクラが混ざった妖寄りの力だったってわけか…?」
「…。」
吉継は何も答えない。腕を組んで難しい顔で何かを考えている。千代も二郎坊も邪魔をしないようにと静かに会話を見守っていた。
「―――父上様、私、父上様がやっていることを手伝いたい。」
徳はシーンと静まる空気の中、急に自身の思いを伝え出した。
「…?」
「私もこの日本全国で、妖と人とが共存して生きていける世界を作りたいの…!」
「…いや、徳、別にお前まで関わる必要は…――、」
「違うの!今回、陰陽師に命を狙われたでしょ?太郎坊も、二郎ちゃんも、何も悪いことしていないのに、人間に敵視されてた。そういった何も悪くない妖たちが狙われているっていうのが、私嫌なの!」
「…それはわかるが――、」
「それに、太郎坊と約束したし。」
「…?」
「陰陽師に狙われない世の中作るって!父上様がやってること教えてほしい。それで、私にできることがあるなら私も手伝いたいの。お願い、父上様…。」
「…そうは言ってもな…。はぁ。だから妖の血が流れていることを知らせたくなかったんだ…。人間で男の俺がやるのと、混血児で女子の徳がやるとではまた違ってくるし、そもそも徳、お前が人間に敵視されることだって大いにあり得るんだ。」
「大谷、俺も止めたんだぜ?だけど、こいつ言うこと聞かないのなんのって…。」
「吉継様、止めたというよりかは、こ奴は徳様に刀を向けました。」
「何ぃ!?」
静かに話を聞いていた千代が芯のある声で吉継にチクったことで、先ほどまで穏やかに会話していた吉継の表情が般若のようになる。
「お前、まだそんなことやってるのか!?どうせ不幸になるのは見過ごせないとか言って喧嘩吹っかけたんだろう!?」
「なっ!当たり前だろ!俺はお前のことだって認めてないんだぞ!林恵だってこいつ産んで死んだんだろ!?もう俺は人間と関わって死んでいく妖なんて見たかねぇんだよ!!」
なぜ吉継は見てもないのに、太郎坊がどのような行動を起こしたか知っているのかと驚いたが、その次の太郎坊の発言の方が徳は気になった。
「そう言えば、母上様って…。」
「はぁ…。太郎坊、それは違うぞ。」
「は?」
「林恵は徳を産んだ後もそれは元気に過ごしていたさ。」
「はぁ!?だって、そんな事…。じゃぁ、なんで今…。」
「迎えが来てしまったからなぁ…。」
「は?迎え?」
「そう。だから、林恵は元気だよ。ただ、今は会えないだけ。…徳、母親を恨まないでくれ。林恵だってお前に会いたがってるんだ…。」
「いえ、…恨むなんて…。」
徳からしたら、今まで両親がいないのが当たり前に育ったのだ。父親の存在があるだけでも嬉しいのだ。それに、母親のことを知れたのは徳にとってはとても喜ばしい。
「母上様は、何の妖なんですか…?」
「あぁ、それを伝えるのを忘れていたな。
――天女だよ。天界をつかさどる最高位の妖。天女の林恵。それがお前の母親だ。」
◇◇◇◇◇
相も変わらず晴天が続いている炎天下の中、痛んだ小袖に使い古した笠をかぶった格好でのんびりと歩いている男二人。ボロな服を着ていたとて、青年の美しさには少しも痛手はないようだ――
「はぁ、帰るのが気が重い…。」
「また母上殿が侍女を全員変えていたりして。」
「笑えん。」
「…それにしても、良かったんですかー?姫さん帰しちゃって。」
「またそれか?いい加減聞き飽きたぞ。」
「だってさー、あんなに女の子に構うのって珍しいじゃん。あの子以外じゃ姫さんぐらいじゃない?しかも、姫さんなんか、出会ったその日から主様様子おかしかったよ?」
「…二人とも何のしがらみもなく、純粋に俺を見て話をしてくれるからな。それに、大谷の姫は見返りを求めて近づいてきたり、自分を偽ってよく見せようとし過ぎる女子と違うだろう?そういうやつしか今まで周りに居なかったから見てて面白いし、一緒に居て楽だ。」
「あー、胸倉掴んだり、本人目の前にしてこいつとか言ってたよね。あれはちょっとおれも面白かったな。」
「まぁ…、あれはさすがに女子として少しどうかと思うが…。…子犬のように好奇心旺盛でいつも一生懸命で、その上警戒心がなさ過ぎて…なんか、放っておけんだけだ。」
「…ふーん。…早くまた会いたいね。」
「…そうだな。…お前は千代殿に会いたいだけだろう。」
「まぁ、それもあるけどね。…ほら、見えてきましたよ。上田城。」
見えてきた城を目前に青年の足がピタリと止まった。
「はぁ…。少し時間をつぶしてからにしよう。」
「いやいや、どんだけ時間かけて帰るのさ!」
「城に着いても父上様と兄上に挨拶したらすぐに摂津に戻る。…そもそも、秀吉様もそんなほいほい人質を帰すなんておかしいだろう。」
「いや、だってもはや主様って人質じゃなくて一家臣として見られてるじゃん。」
「そうなんだが…、はぁ…。」
「あの子のところ寄ってから帰る?」
「…そうだな、そこで少し時間を潰して帰ろう。」
「きっとあの子めちゃくちゃ喜ぶよ。この前俺だけ寄ってったらなんで主様いないんだって怒ってたもん。」
「そんなことはないだろう。」
「いや、まじだって。」
男二人はお互いの顔を見ることなく、正面を見据えたままダラダラと会話を続ける。その歩みも普段の何倍以上にも遅く、大いに気持ちが反映されていた。
しばらく城下の市を歩いていると目的の店に着いたのか、男一人が笠を外し、暖簾をくぐって店の中へ声をかけた。
「こんにちわー。あ、鈴ー。今って席空いてる?」
「あれ?お久しぶりです佐助さん!今日も御一人…――、」
「いや、今日は主も一緒。」
「まぁ!珍しい!お久しぶりです!」
青年を目にすると嬉しそうに駆け寄る焦茶色の髪色に少し色素の薄い瞳を持つ少女。
「あぁ、久しいな、鈴。元気だったか?」
その青年が微笑み、声をかけると、少女は大輪の花を咲かせたように可愛らしく微笑んだ。
「はい!ずっとお待ちしておりましたよ!――真田幸村様。」
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