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七不思議編
長いよ話が…………
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カヤトとネムたちは現在、エレベータに乗り込み上の階へと向かっていた。
「ネム、お前はこの後どうするんだ?」
ダンジョンをクリアしてしまった以上、ネムが俺についてくる意味はもうないため気になって聞いた。
そうすると、ネムは肩ひじをつきながら小首を傾げる。
「そうですねぇ~、カヤトさんと一緒にダンジョンを進んだおかげで私も欲しいものが手に入りましたし。うん~、いったん家に帰りますかね」
俺の気づかないうちにネムは自分の欲しい物を手に入れていたようである。
チャッカリしてやがる。見た目は可愛らしい猫耳少女だが、こいつも一応は魔術師ということか。
「そうか、残念だ」
「そうですかニャ?お世辞でもうれしいですニャン。それに、カヤトさんとはまたどこかで会いそうなので、大丈夫だと思いますよ」
ネムが笑いながらそんなことを言ってくる。
確かに俺もネムとはまたどこかで会いそうだと思う。
「ところでカヤトさん、私たちは今どこに向かっているんですか?」
「俺の仲間を助けてくれた医者的な奴のいるところだよ」
あいつが医者なのかは不明だが、人を治療できるということはそれなりの医学知識は持ち合わせているのだろう。
個人的には、研究者といったほうがシックリくるがな。
「医者的な人がいるところですかニャ?」
「そうだ、しかも、裸の女医だ」
カヤトがそういうとネムはカヤトから一歩下がり距離を空ける。
「おい、どうして一歩さがったんだネム?事実だからなさっきの話は」
ネムは半目になる。
「怪しいですニャ」
「そんな目をするなよ、事実を言っているだけだおれは」
さらに一歩下がり、カヤトから距離を取るネム。
「本当かニャ~?怪しいニャン、近づかないでほしいニャン!!」
ネムに一歩近づくカヤト。一歩下がるネム。
ドン!
ネムがエレベータの端の壁に当たる音。
「違うんだって!!」
「にゃ!?近づかないでほしいニャン!!キャ!誰か助けてニャン!!襲われるニャン!?」
「いや、襲わないから!!」
「嘘だニャン!!その手つきなんかいやらしいにゃん」
カヤトはネムを落ち着かせようとして、ネムの肩を掴んでいた。割と強めに。
「違うんだって、これはお前が抵抗するから仕方なく」
そういって、ネムの肩から手を放すカヤト。
「……」
ネム、無言でカヤトを睨みつける。
これはダメだな......とりあえずはこのまま放置しておくか。どちらにせよ、着けばわかる話だ。
カヤトはその後、目的の階につくまで居心地の悪い時間を過ごしたという。
ネムはカヤトのことを見つめていた。内心では、ほくそ笑み面白がっていた。
ピンポン!
どうやら、やっと地下病院のある階に着いたようだ。
いまだにネムはこちらを睨みながら警戒をしている。
「ネム、着いたぞ」
「わかりましたニャン」
そういって、エレベータの扉が閉まらないように開閉ボタンを押している俺の横を足早に通り過ぎるネム。
どんだけ、警戒しているんだか......。
そんなことを思いつつ、俺もエレベーターから降りる。
「何処に地下病院があるんですかニャン?」
エレベーターを降り、自動販売機などが置いてある広間に出たネムが質問をしてくる。
「こっちだよ」
俺は、自動販売機の横にある狭い通路を進む。
「……」
警戒しているのかなかなかこちらに来ないネム。
「置いていくぞ」
「しかたありませんにゃん」
ネムは渋々といった顔で俺の入った狭い通路を通ってくる。
その狭い通路を進んだ先には、無骨な鉄の扉があった。
カヤトはその無骨な扉の取っ手に手をかけ、扉を開ける。
扉を開けた瞬間、病院独特の消毒臭い香りが漂ってきた。
「失礼しますニャン……」
恐る恐る病室に入っていくネム。そんなネムの後ろ姿を見ながら、カヤトはリュックからダンジョンで拾った宝石を取り出していた。
ライフ・クリスタルは現状、ネムの頭の上に浮いている。
「すいません~!!誰かいますか?」
ネムが呼びかけると、奥の部屋から白衣を着た女性が登場する。
その女性はネムを見ると 目を細めながら声をかける。
「おや、いらっしゃい。可愛らしいお客さんだね~」
「こんにちはですニャン」
「あら、しっかり挨拶ができて偉いわね。君は一体、誰なのかな~?」
「俺の連れだよ」
カヤトが割り込む。
「なんだい、カヤト君の連れだったのかい?でもおかしいね~君はダンジョンに行くときは一人だったはずだよね~?」
ごもっともですね。
「それはだな……」
アムネシアを奥の小部屋に連れていき、事情を説明する。
「なるほどね~君もなかなか隅に置けないね~」
ニヤニヤといやらしいニヤケ顔するアムネシア。
「違うわ!?」
カヤトは否定する。
「怒るところがまた......」
「ハァ~、もうどうでもいいや」
何を言っても上げ足を取られてしまいそうなため否定することをあきらめたカヤト。
「なんだ、詰まらないな……それよりも、しっかりとライフ・クリスタルは回収してきてくれたのかい?」
「あ?ああ......ほら、ネムの頭の上に浮いているだろう?」
「なんだい、あれだったのかい。大きすぎて別の鉱物だと思ってしまったよ。しかし、凄いねあの大きさは!ダンジョンの心臓と呼ばれるだけはあるね。僕もあの大きさのライフ・クリスタルを見たのは初めてだよ。研究が捗りそうだ!!」
一方そのころネムはカヤトと女医さんが奥の小部屋に入って行ってしまい暇になってしまったため、誰も寝ていないベットに腰掛けていた。
少しうとうとし始めてきた時、小部屋の扉があく。
「やあ、すまないね。ネムちゃん、少し話し込み過ぎてしまったよ」
「いえ、別に大丈夫ですけど……あ!」
「ん?どうかしたのかい?」
ネムは目の前の女医の着ている白衣の隙間から見てしまった。いや、何も見えなかった。本来であれば身に着けているであろう下着が!!
この時、ネムはカヤトさんが言っていたことは本当だったんですね。と思ったのであった。
「いえ、その。下着履いていないんですね」
「なんだい、そのことかい。下着なんてめんどくさいから履いていないよ!!」
「そうなんですかニャン」
「そうだよ!!」
ドヤ顔するアムネシア。
いや、別にドヤるほどのことではないと思うのだが。
「それよりもアムネシア、約束を果たしてもらおうか?」
「ああ、そうだったね。君のお仲間を治療するという約束だったものね。それじゃ、ネムちゃん、そのライフ・クリスタル貸してくれるかな?」
「あ、はい。わかりました」
ネムは風の魔法で浮かせていたライフ・クリスタルをアムネシアの方へと持っていく。
「ありがとう、ネムちゃん」
「それで、どうするんだ?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよカヤト君」
そういって、どこから取り出したのか。右手にハンマーのようなものを持ち、ライフ・クリスタルを殴りつけるアムネシア。
カン~~~~!!
甲高い音が鳴り響き、ライフ・クリスタルが一部かける。
その欠けたライフ・クリスタルを手に持ち何か呪文を唱えるアムネシア。
「??????????????」
俺には、何を言っているのかは分からない。
「準備は出来たよ?カヤト君、あとはこれを西城君の心臓に刺せばいいだけさ」
サラッと、物騒なことを言うアムネシア。
「これを刺すのか?」
「そうだよ」
「死んじまわないか?」
「大丈夫だから早く刺してあげなよ」
「わかった」
俺は西城が寝ているベットの横に立ち、西城の心臓があるであろう胸骨部を狙ってライフ・クリスタルの欠片を振り下ろす。
グチュリ
人の肉に何かが刺さる嫌な音がするとともに、ライフ・クリスタルの欠片が西城の体に飲み込まれていく。
「カヤト、ありがとな」
真夏の夕焼けが西城とカヤトの背中を照らしていた。
西城は、今回、自分が寝ている間に何があったのかをカヤトから聞き、そのことに対して礼を言う。
「たいしたことじゃないさ、お前に死なれたら困るからな......」
友達として......という言葉は恥ずかしかったため言うのを止めたカヤト。
「カヤト、これからどうする?」
「俺はとりあえず家に帰るかな。今回は何も言わず一週間も家を空けてしまったから、姉も心配してるだろうしな」
「そっか、それじゃ、僕も家に帰ることにするよ」
「おう、そうしたほうがいいだろうな。お前の親御さんも心配しているだろうし」
「うう~ん?どうだろう?うちの親は両親とも基本的に僕に無関心だからな~多分、大丈夫じゃないかな」
西城家は両親も美男美女である。
父親はいかにも仕事できますよ感を出しており。実際、大企業の重役ポジションについているらしい。
母親は大人気の大物女優という。まさしく、このイケメン西城君は生まれるべくして生まれたといったふうだ。しかし、西城と両親はあまりかかわりがないらしい。そのため、西城が俺の内によく泊まりに来るのも分かる気がする。
「そんなことよりカヤト、アムネシアさんから聞いた話だがどうする?」
「どうするもこうするもないだろう、本当ならば行動するしかないだろう」
西城と花子が目覚め、状況を説明し終えた時までさかのぼる。
アムネシアがふとこんなことを言ってきた。
「そういえば、カヤト君は妖怪とかを倒すことを専門としていたよね?」
「そうだが、それがどうしたんだ?」
「いや、たいしたことではないんだけれど。君、百鬼夜行って知っているかい?」
「ああ、一応、知っているがそれがどうしたんだ?」
「いや、最近。地上では妖怪たちの活動が活発になっているらしいからね。そろそろ、百鬼夜行の時期だからそれが理由かと思ってね」
「そうか、分かった」
「そうかい、それじゃ、さっさと帰ってくれ。これからいろいろ研究をしないといけないんだ」
「わかったよ、それじゃな」
そして、冒頭へと戻る。
そもそも、百鬼夜行とは何かということを説明しなければならないだろう。
百鬼夜行とは、古来より日本の説話などに登場する深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れである。
その群れを見たものは、数々の不幸に襲われると言われており。かつて京都を横断した百鬼夜行は陰陽師により退治されたという。
この、百鬼夜行が活動していたのが約100年前であり。伝承に書かれている100年の周期で訪れる鬼の軍勢という伝承どうりだとするとそろそろということになる。
もっと調べなければ。
だがとりあえず家に帰って今日は寝ようと思う、疲れたからな。そんなことを思いながら俺は近くの家の屋根を伝って走り帰る。西城は普通に歩いて帰るらしい。
「ふぅ~、これから起こることを考えるとだるくるな」
家の前に立ち、カヤトはブラコンの姉がどのような反応をしてくるか予想をして気分を落としていた。
「ハァ~、入るか」
カヤトは決意をし、玄関を開ける。
「ただいまー」
ダ!ダッ!ダッ!!
「カヤトちゃん~~!!お帰りなさい。心配したよ、どうしたのこんなに遅く帰ってきて。お姉ちゃんもう少しで警察に捜査願いだしちゃうところだったよ」
リビングから姉がすごい勢いで走って俺に抱き着いてきた。
ウザいんだよ!!と言って突き放してもいいのだが、さすがに本気で俺を心配してくれている姉にそのようなことをできるはずもなく。差し当たりのない返答をしてしまう。
「姉貴、すまなかった。ちょっと、仕事が長引いてな」
「それなら、せめて連絡ちょうだいよカヤトちゃん。心配しちゃうでしょ」
そういって、姉は涙をぬぐう。その姿を見たらきっと普通の男の人なら「守りたい」とか思ってしまうだろう。
「本当にすまなかった」
「今度からは、しっかりと連絡するのよ。カヤトちゃん」
「わかったよ」
キュル~~ル~~
可愛らしいお腹の音がカヤトの腹からなる。
「あら?お腹がすいたの、カヤトちゃん?晩御飯作っておいたから食べましょう」
「お、食べる食べる」
俺と姉は玄関から場所を移し、リビングへ行く。
「今日は、カヤトちゃんの大好きなビーフシチューよ」
俺の目の前に、綺麗に盛られたビーフシチューが準備される。
そのビーフシチューはニンジンやジャガイモ、牛肉がふんだんに使われている。飾りとしてパセリが添えれれていて見た目もいい。
それでは実食をしよう。
「うぉ、美味い......」
ただ、その一言しか出なかった。
野菜のうまみと牛肉から出た油が適度に混ざり合い豊潤な甘みを出している。また、牛肉もブロック状であるにもかかわらず舌の上でとろけるようだ。まさに、究極の味と食感である。
姉さん、俺は、今、初めてあなたを尊敬したよ!!
「おいしいかしら?」
「美味い!うまいよ姉貴!!お代わりをくれ!!」
「あらあら、姉さんは、とっても嬉しいわ。そんなに焦らなくてもたくさん作ってあるわよ。それと、はい、スープもどうぞ」
そういって、姉貴はもう一つの鍋から黄色い液体をすくう。
深めの皿にすくわれたその液体は、コーンスープである。白い湯気を上げながら俺にすくわれるのを待っている。
「あ、そうだわ。これかけなくちゃね」
俺のコーンスープに白い液体。もとい、ミルクがかけられる。
姉貴あなたは一体どこまで料理を進化させるんだ!?
俺はもう我慢できなくなっていた。姉貴がミルクをかけ終えた瞬間、スプーンを右手に持ちコーンスープを飲んでいた。
美味い......
ミルクをかけられたことによりコーンスープがよりクリーミーになっている。
そして、このスープのなめらかな舌触り。しっかりとコーンが液状になるまでミキサーにかけたからこそだろう。どこぞのチェーン店で提供されるコーンスープとは大違いだ。コーンのミキサー不足によるざらざら感が一切ない。まさに、スープ!?これがスープだ!!と言わんばかりにスープである!!
「あらあら、いつも以上に食べるのね」
「......」
そんな姉貴の言葉など露知らず、俺は無我夢中で夕食を食べ続けた。
夕食を食べ終え、俺は現在、自室にいる。
姉貴に片づけは俺がやるよといったが、「疲れているでしょう?早く、お風呂に入って休みなさい」と言われてしまった。疲れている感じを出した覚えはないのだが、さすが姉貴。どうやら、俺が疲れていたのがわかっていたようだ。
「まったく......姉貴には勝てないな」
一人、部屋でそう呟くカヤト。
ミンミンと夜にも関わらずセミがうるさい。
窓を開けているせいでもあるだろうが、閉めようとは思わない。なぜなら、窓から入る夜風が涼しいからだ。
ベットで横になり、夜風をあびながら目を閉じていたらいつの間にか眠っていた。
言うまでもなく、姉貴がいつの間にか俺の隣で寝ていた。
「ふふ、可愛いわね......」
朝日が上がり、元気な小鳥たちのさえずりを聞きながら俺は現在走っている。
なぜ、走っているかって?日課の早朝ランニングだ(ゲームで徹夜した日は除くがな)。
「おはようさん」
「おはようございます!」
同じく朝ランをしている若い女性があいさつをしてきたので、挨拶を返す。
朝ランをしている人は割といる。この朝の挨拶も、日課となった今では朝ランの楽しみの一つだ。
「ハァー、ハァー」
家の前に付き、目標の5kmを達成したためランニングを終える。
ランニングでかいた汗を流すためにシャワーを浴び、朝食を作る。
今日は、フレンチトーストだ。姉貴の分も作り、冷蔵庫に入れておく。
もろもろ、やることを終えた俺は西城に電話をかける。
Prrrrrr♪Prrrrrr♪
「はい、もしもし。西城ですが、どなた様でしょうか?」
「カヤトだよ、わかるだろう。通話相手の名前が出るんだから」
「ごめんごめん、つい」
「そんなことより、西城。百鬼夜行について調べに行くから、準備をしろ」
「そういうと思って、もう準備はしてあるよカヤト!」
「そうか、それじゃ、出雲公園に集合な」
「わかった」
プ~プ~
カヤトは西城との電話を終えると出雲公園に向かう。人の家の屋根上を走って。
「着いた......西城はまだついていないのか。まあ、当たり前か。いま、午前6時だしな」
それから、数十分後......
「カヤトお待たせ!!待った?」
「いや別に待ってないが」
「そう、よかった。はい、これ」
西城はタブレットを渡してきた。
「なんだ?どうした」
おおよそ想像はつくが。
「昨日、家に帰ってから暇だったからtwwwwtoでこのあたりので話題になっていることを調べて見たんだ。そうしたら、最近は心霊現象にあったっていう投稿が多く見受けられたよ」
そういいながら、その投稿をタブレットを使って見せてくる西城。
────────────────────────────────────────────
怪奇現象w@kaikigensyou
とある友人の話なのですが。
先日、Y公園に大学のサークル仲間数人と肝試しに行ったらしいのですが。
「ガチで出たんだ!!暗かったからよく見えなかったけど、公園の祠のある場所に白い影が7体も!!」なんて言っていましたwww
笑えますよね。幽霊なんかいるわけないのに......
────────────────────────────────────────────
このツイートに対して、「私もその公園で幽霊を見ました!」「俺も!」などといった意見がついてた。
リツイート数もかなりの数になっている。
「何でこんなもので呟きたがるのかね~?俺にはわからん。ただ、どうやら、Y公園で心霊現象が多発していることは事実のようだな」
「ここを調べに行ってみないかカヤト?」
「もちろんだ、Y公園に行くぞ」
カヤトと西城は、公園を後にし、Y公園に向かう。
Y公園についた俺と西城は、心霊現象の目撃が多かった七人寺と呼ばれる寺に向かう。
七人寺はY公園内の木々がたくさん生えている場所にあり、寺の本堂までは100段はある石の階段を上っていかなければならず、なかなかにつらい。しかも、本堂につくまでの階段道は街灯が一切なく、夜になるととても暗いため、とても不気味だ。そのため、この場所はよく若者たちが肝試しに来る。
「カヤト~疲れたよ~」
西城はカヤトに対して両膝に手をつきながら疲れたという意思表示を行う。
そんな西城の姿を見てカヤトは、こいつ何を言っているんだ?といった態度をとる。
「お前、普段から部活で体を使っているだろう?なんでそんなに疲れてるんだよ?」
「仕方がないじゃないか、部活じゃこんな長い階段を登ったりしないんだもん!」
いやいや、それにしたって疲れすぎだろう。
「カヤトこそなんで平気そうなんだよ」
「そりゃ~普段から鍛えているからだよ西城君」
カヤトは西城に向かってドヤ顔をする。
しかし、実際は呪力強化によって身体機能を強制的に高めることにより、筋肉に対する酸素の供給量を増加させているだけである。
「疲れた~疲れた......」
「いいから行くぞ」
カヤトは西城の横に立ち肩を貸す。ついでに、呪力を西城の体に流し込み強制的に疲労を回復させる。
「カヤト、今なんかしたか?」
「いいや、何もしていないが」
嘘である。カヤトは西城にはバレないように隠密の魔術をかけて呪力を流していた。
「ハァ~やっと登りきったぞ~!!」
西城は100段以上ある階段を登り切り、一種の達成感で満ち溢れていた。
なお、カヤトは粛々と階段を登りきり。登り切った先にあった鳥居門をサッサとくぐっていた。
「お、確かにここは幽霊とかが出やすそうだな。霊力が渦巻いている」
鳥居門を潜った先は、一般的な寺と何ら変わらなかった。
ただ一つだけ違うところがある。それは、御神体が存在しないこと。これでは、この場所に集まった霊力や自然的な力を制御することができていない。
なるほどな、合点がいった。
この場所に入った瞬間から霊力が満ちているとは思ったが、それもそうだろう。制御されていないのだから、集まるだけ集まって消化されていない。
こんな状況なら、心霊現象が多発してもおかしくないだろう。なぜなら、霊力溜まりは幽霊や妖怪にとっていい餌場なのだから。
もっと簡単に言うならば、車のアクセルをガムテープで固定して制御する人がいない状態で走らせているようなものである。
そりゃ、出ますわ。
「西城!こっちだ」
「え?ああ、ごめんごめんカヤト。で、どうしたんだい?」
「ここの霊力が御神体がいなくて上がる一方だから、仮で御神体を作って制御するぞ。呪具をつくるのはお前のほうが得意だろう」
「なるほどね~そりゃ~心霊現象発生しますわ~~わかった、御神体を作るから少し待っててくれカヤト、材料を取ってくる」
西城は神院内にある、御神木を丁寧に斬り、一つの小さな仏像を作る。
「あいかわらず、上手いな」
「そんなことはないよ、これをこうしてっと!これで大丈夫」
西城は御神木で作った仏像を境内におく。
「これでどのぐらいの効果があるんだ?」
「そうだね、だいたい半年ぐらいかな。あくまで簡易的な御神体だからね」
「半年か......半年もあればまぁ、大丈夫かな」
カヤトは半年の間に西城に本格的な仏像を造らせようと決意した。
「にしても不思議だねカヤト」
西城がふとそんなことを言い出す。
「どうしてだ西城?」
「いや、この寺などの配置がまるで何かの模様を表してるみたいなんだよ」
「ほう、それはどんな?」
「さすがにそこまでは分からないよ。でも、おそらく上空から見たらわかるんじゃないかな。ほら、ここの石畳の敷き方とかもそれっぽいし」
「なるほどな~それじゃあ確認してみるか」
「どうやって確認するのカヤト」
「それは、これだよ......スマホのアプリのgoolfe mapを使ってだよ」
カヤトは胸ポケットからスマホを取り出しアプリを起動する。
「……」
「ほぅ~」
西城の言った通りだったようだ。
「これは、魔法陣だね。しかも、西洋と日本の魔法陣の二つが使われてる。うん~~どんな儀式で、どんなか結果になるかわ分からないけど。危なそうだね」
西城は、カヤトのスマホに表示されたこの寺の上空写真を見て言う。
「わからないのかよ」
そんなことを思っていると、不気味に地面が輝きだした。
「なあ、西城。これ、ヤバくないか?」
「カヤト......ヤバいね!」
「逃げろ~~!!」
「言われなくても!!」
西城とカヤトは魔法陣が輝いている範囲から急いで抜け出した。
魔法は輝きを強め、多重、複雑、幾何学的に重なり合い、辺り覆っていく。
魔法陣の輝きが薄まり、そこには傘地蔵のような服装をした7人の人?のようなものたちがが立っていた。
「西城!?結界を張れ!!」
「わかった!!」
カヤトは傘地蔵のような服装をした者を見た瞬間、西城に結界を張るように言うが寸前のところで逃げられる。
ニヤリ......と傘地蔵のような服装をした者たちは笑うと、その場から消えた。
「逃げられたな」
「どうするカヤト」
どうしたものか、あいつらがどのような悪さをするかわからない以上、野放しにはできない。
しかし、あいつらがどのような妖怪かもわからない。
どうしたものか......。
「とにかくいったん家に帰ろう」
カヤトはズボンのポケット手を突っ込み、寺を後にする。
カヤトの後ろについていく西城。
「ネム、お前はこの後どうするんだ?」
ダンジョンをクリアしてしまった以上、ネムが俺についてくる意味はもうないため気になって聞いた。
そうすると、ネムは肩ひじをつきながら小首を傾げる。
「そうですねぇ~、カヤトさんと一緒にダンジョンを進んだおかげで私も欲しいものが手に入りましたし。うん~、いったん家に帰りますかね」
俺の気づかないうちにネムは自分の欲しい物を手に入れていたようである。
チャッカリしてやがる。見た目は可愛らしい猫耳少女だが、こいつも一応は魔術師ということか。
「そうか、残念だ」
「そうですかニャ?お世辞でもうれしいですニャン。それに、カヤトさんとはまたどこかで会いそうなので、大丈夫だと思いますよ」
ネムが笑いながらそんなことを言ってくる。
確かに俺もネムとはまたどこかで会いそうだと思う。
「ところでカヤトさん、私たちは今どこに向かっているんですか?」
「俺の仲間を助けてくれた医者的な奴のいるところだよ」
あいつが医者なのかは不明だが、人を治療できるということはそれなりの医学知識は持ち合わせているのだろう。
個人的には、研究者といったほうがシックリくるがな。
「医者的な人がいるところですかニャ?」
「そうだ、しかも、裸の女医だ」
カヤトがそういうとネムはカヤトから一歩下がり距離を空ける。
「おい、どうして一歩さがったんだネム?事実だからなさっきの話は」
ネムは半目になる。
「怪しいですニャ」
「そんな目をするなよ、事実を言っているだけだおれは」
さらに一歩下がり、カヤトから距離を取るネム。
「本当かニャ~?怪しいニャン、近づかないでほしいニャン!!」
ネムに一歩近づくカヤト。一歩下がるネム。
ドン!
ネムがエレベータの端の壁に当たる音。
「違うんだって!!」
「にゃ!?近づかないでほしいニャン!!キャ!誰か助けてニャン!!襲われるニャン!?」
「いや、襲わないから!!」
「嘘だニャン!!その手つきなんかいやらしいにゃん」
カヤトはネムを落ち着かせようとして、ネムの肩を掴んでいた。割と強めに。
「違うんだって、これはお前が抵抗するから仕方なく」
そういって、ネムの肩から手を放すカヤト。
「……」
ネム、無言でカヤトを睨みつける。
これはダメだな......とりあえずはこのまま放置しておくか。どちらにせよ、着けばわかる話だ。
カヤトはその後、目的の階につくまで居心地の悪い時間を過ごしたという。
ネムはカヤトのことを見つめていた。内心では、ほくそ笑み面白がっていた。
ピンポン!
どうやら、やっと地下病院のある階に着いたようだ。
いまだにネムはこちらを睨みながら警戒をしている。
「ネム、着いたぞ」
「わかりましたニャン」
そういって、エレベータの扉が閉まらないように開閉ボタンを押している俺の横を足早に通り過ぎるネム。
どんだけ、警戒しているんだか......。
そんなことを思いつつ、俺もエレベーターから降りる。
「何処に地下病院があるんですかニャン?」
エレベーターを降り、自動販売機などが置いてある広間に出たネムが質問をしてくる。
「こっちだよ」
俺は、自動販売機の横にある狭い通路を進む。
「……」
警戒しているのかなかなかこちらに来ないネム。
「置いていくぞ」
「しかたありませんにゃん」
ネムは渋々といった顔で俺の入った狭い通路を通ってくる。
その狭い通路を進んだ先には、無骨な鉄の扉があった。
カヤトはその無骨な扉の取っ手に手をかけ、扉を開ける。
扉を開けた瞬間、病院独特の消毒臭い香りが漂ってきた。
「失礼しますニャン……」
恐る恐る病室に入っていくネム。そんなネムの後ろ姿を見ながら、カヤトはリュックからダンジョンで拾った宝石を取り出していた。
ライフ・クリスタルは現状、ネムの頭の上に浮いている。
「すいません~!!誰かいますか?」
ネムが呼びかけると、奥の部屋から白衣を着た女性が登場する。
その女性はネムを見ると 目を細めながら声をかける。
「おや、いらっしゃい。可愛らしいお客さんだね~」
「こんにちはですニャン」
「あら、しっかり挨拶ができて偉いわね。君は一体、誰なのかな~?」
「俺の連れだよ」
カヤトが割り込む。
「なんだい、カヤト君の連れだったのかい?でもおかしいね~君はダンジョンに行くときは一人だったはずだよね~?」
ごもっともですね。
「それはだな……」
アムネシアを奥の小部屋に連れていき、事情を説明する。
「なるほどね~君もなかなか隅に置けないね~」
ニヤニヤといやらしいニヤケ顔するアムネシア。
「違うわ!?」
カヤトは否定する。
「怒るところがまた......」
「ハァ~、もうどうでもいいや」
何を言っても上げ足を取られてしまいそうなため否定することをあきらめたカヤト。
「なんだ、詰まらないな……それよりも、しっかりとライフ・クリスタルは回収してきてくれたのかい?」
「あ?ああ......ほら、ネムの頭の上に浮いているだろう?」
「なんだい、あれだったのかい。大きすぎて別の鉱物だと思ってしまったよ。しかし、凄いねあの大きさは!ダンジョンの心臓と呼ばれるだけはあるね。僕もあの大きさのライフ・クリスタルを見たのは初めてだよ。研究が捗りそうだ!!」
一方そのころネムはカヤトと女医さんが奥の小部屋に入って行ってしまい暇になってしまったため、誰も寝ていないベットに腰掛けていた。
少しうとうとし始めてきた時、小部屋の扉があく。
「やあ、すまないね。ネムちゃん、少し話し込み過ぎてしまったよ」
「いえ、別に大丈夫ですけど……あ!」
「ん?どうかしたのかい?」
ネムは目の前の女医の着ている白衣の隙間から見てしまった。いや、何も見えなかった。本来であれば身に着けているであろう下着が!!
この時、ネムはカヤトさんが言っていたことは本当だったんですね。と思ったのであった。
「いえ、その。下着履いていないんですね」
「なんだい、そのことかい。下着なんてめんどくさいから履いていないよ!!」
「そうなんですかニャン」
「そうだよ!!」
ドヤ顔するアムネシア。
いや、別にドヤるほどのことではないと思うのだが。
「それよりもアムネシア、約束を果たしてもらおうか?」
「ああ、そうだったね。君のお仲間を治療するという約束だったものね。それじゃ、ネムちゃん、そのライフ・クリスタル貸してくれるかな?」
「あ、はい。わかりました」
ネムは風の魔法で浮かせていたライフ・クリスタルをアムネシアの方へと持っていく。
「ありがとう、ネムちゃん」
「それで、どうするんだ?」
「そんなに焦らなくても大丈夫だよカヤト君」
そういって、どこから取り出したのか。右手にハンマーのようなものを持ち、ライフ・クリスタルを殴りつけるアムネシア。
カン~~~~!!
甲高い音が鳴り響き、ライフ・クリスタルが一部かける。
その欠けたライフ・クリスタルを手に持ち何か呪文を唱えるアムネシア。
「??????????????」
俺には、何を言っているのかは分からない。
「準備は出来たよ?カヤト君、あとはこれを西城君の心臓に刺せばいいだけさ」
サラッと、物騒なことを言うアムネシア。
「これを刺すのか?」
「そうだよ」
「死んじまわないか?」
「大丈夫だから早く刺してあげなよ」
「わかった」
俺は西城が寝ているベットの横に立ち、西城の心臓があるであろう胸骨部を狙ってライフ・クリスタルの欠片を振り下ろす。
グチュリ
人の肉に何かが刺さる嫌な音がするとともに、ライフ・クリスタルの欠片が西城の体に飲み込まれていく。
「カヤト、ありがとな」
真夏の夕焼けが西城とカヤトの背中を照らしていた。
西城は、今回、自分が寝ている間に何があったのかをカヤトから聞き、そのことに対して礼を言う。
「たいしたことじゃないさ、お前に死なれたら困るからな......」
友達として......という言葉は恥ずかしかったため言うのを止めたカヤト。
「カヤト、これからどうする?」
「俺はとりあえず家に帰るかな。今回は何も言わず一週間も家を空けてしまったから、姉も心配してるだろうしな」
「そっか、それじゃ、僕も家に帰ることにするよ」
「おう、そうしたほうがいいだろうな。お前の親御さんも心配しているだろうし」
「うう~ん?どうだろう?うちの親は両親とも基本的に僕に無関心だからな~多分、大丈夫じゃないかな」
西城家は両親も美男美女である。
父親はいかにも仕事できますよ感を出しており。実際、大企業の重役ポジションについているらしい。
母親は大人気の大物女優という。まさしく、このイケメン西城君は生まれるべくして生まれたといったふうだ。しかし、西城と両親はあまりかかわりがないらしい。そのため、西城が俺の内によく泊まりに来るのも分かる気がする。
「そんなことよりカヤト、アムネシアさんから聞いた話だがどうする?」
「どうするもこうするもないだろう、本当ならば行動するしかないだろう」
西城と花子が目覚め、状況を説明し終えた時までさかのぼる。
アムネシアがふとこんなことを言ってきた。
「そういえば、カヤト君は妖怪とかを倒すことを専門としていたよね?」
「そうだが、それがどうしたんだ?」
「いや、たいしたことではないんだけれど。君、百鬼夜行って知っているかい?」
「ああ、一応、知っているがそれがどうしたんだ?」
「いや、最近。地上では妖怪たちの活動が活発になっているらしいからね。そろそろ、百鬼夜行の時期だからそれが理由かと思ってね」
「そうか、分かった」
「そうかい、それじゃ、さっさと帰ってくれ。これからいろいろ研究をしないといけないんだ」
「わかったよ、それじゃな」
そして、冒頭へと戻る。
そもそも、百鬼夜行とは何かということを説明しなければならないだろう。
百鬼夜行とは、古来より日本の説話などに登場する深夜に徘徊をする鬼や妖怪の群れである。
その群れを見たものは、数々の不幸に襲われると言われており。かつて京都を横断した百鬼夜行は陰陽師により退治されたという。
この、百鬼夜行が活動していたのが約100年前であり。伝承に書かれている100年の周期で訪れる鬼の軍勢という伝承どうりだとするとそろそろということになる。
もっと調べなければ。
だがとりあえず家に帰って今日は寝ようと思う、疲れたからな。そんなことを思いながら俺は近くの家の屋根を伝って走り帰る。西城は普通に歩いて帰るらしい。
「ふぅ~、これから起こることを考えるとだるくるな」
家の前に立ち、カヤトはブラコンの姉がどのような反応をしてくるか予想をして気分を落としていた。
「ハァ~、入るか」
カヤトは決意をし、玄関を開ける。
「ただいまー」
ダ!ダッ!ダッ!!
「カヤトちゃん~~!!お帰りなさい。心配したよ、どうしたのこんなに遅く帰ってきて。お姉ちゃんもう少しで警察に捜査願いだしちゃうところだったよ」
リビングから姉がすごい勢いで走って俺に抱き着いてきた。
ウザいんだよ!!と言って突き放してもいいのだが、さすがに本気で俺を心配してくれている姉にそのようなことをできるはずもなく。差し当たりのない返答をしてしまう。
「姉貴、すまなかった。ちょっと、仕事が長引いてな」
「それなら、せめて連絡ちょうだいよカヤトちゃん。心配しちゃうでしょ」
そういって、姉は涙をぬぐう。その姿を見たらきっと普通の男の人なら「守りたい」とか思ってしまうだろう。
「本当にすまなかった」
「今度からは、しっかりと連絡するのよ。カヤトちゃん」
「わかったよ」
キュル~~ル~~
可愛らしいお腹の音がカヤトの腹からなる。
「あら?お腹がすいたの、カヤトちゃん?晩御飯作っておいたから食べましょう」
「お、食べる食べる」
俺と姉は玄関から場所を移し、リビングへ行く。
「今日は、カヤトちゃんの大好きなビーフシチューよ」
俺の目の前に、綺麗に盛られたビーフシチューが準備される。
そのビーフシチューはニンジンやジャガイモ、牛肉がふんだんに使われている。飾りとしてパセリが添えれれていて見た目もいい。
それでは実食をしよう。
「うぉ、美味い......」
ただ、その一言しか出なかった。
野菜のうまみと牛肉から出た油が適度に混ざり合い豊潤な甘みを出している。また、牛肉もブロック状であるにもかかわらず舌の上でとろけるようだ。まさに、究極の味と食感である。
姉さん、俺は、今、初めてあなたを尊敬したよ!!
「おいしいかしら?」
「美味い!うまいよ姉貴!!お代わりをくれ!!」
「あらあら、姉さんは、とっても嬉しいわ。そんなに焦らなくてもたくさん作ってあるわよ。それと、はい、スープもどうぞ」
そういって、姉貴はもう一つの鍋から黄色い液体をすくう。
深めの皿にすくわれたその液体は、コーンスープである。白い湯気を上げながら俺にすくわれるのを待っている。
「あ、そうだわ。これかけなくちゃね」
俺のコーンスープに白い液体。もとい、ミルクがかけられる。
姉貴あなたは一体どこまで料理を進化させるんだ!?
俺はもう我慢できなくなっていた。姉貴がミルクをかけ終えた瞬間、スプーンを右手に持ちコーンスープを飲んでいた。
美味い......
ミルクをかけられたことによりコーンスープがよりクリーミーになっている。
そして、このスープのなめらかな舌触り。しっかりとコーンが液状になるまでミキサーにかけたからこそだろう。どこぞのチェーン店で提供されるコーンスープとは大違いだ。コーンのミキサー不足によるざらざら感が一切ない。まさに、スープ!?これがスープだ!!と言わんばかりにスープである!!
「あらあら、いつも以上に食べるのね」
「......」
そんな姉貴の言葉など露知らず、俺は無我夢中で夕食を食べ続けた。
夕食を食べ終え、俺は現在、自室にいる。
姉貴に片づけは俺がやるよといったが、「疲れているでしょう?早く、お風呂に入って休みなさい」と言われてしまった。疲れている感じを出した覚えはないのだが、さすが姉貴。どうやら、俺が疲れていたのがわかっていたようだ。
「まったく......姉貴には勝てないな」
一人、部屋でそう呟くカヤト。
ミンミンと夜にも関わらずセミがうるさい。
窓を開けているせいでもあるだろうが、閉めようとは思わない。なぜなら、窓から入る夜風が涼しいからだ。
ベットで横になり、夜風をあびながら目を閉じていたらいつの間にか眠っていた。
言うまでもなく、姉貴がいつの間にか俺の隣で寝ていた。
「ふふ、可愛いわね......」
朝日が上がり、元気な小鳥たちのさえずりを聞きながら俺は現在走っている。
なぜ、走っているかって?日課の早朝ランニングだ(ゲームで徹夜した日は除くがな)。
「おはようさん」
「おはようございます!」
同じく朝ランをしている若い女性があいさつをしてきたので、挨拶を返す。
朝ランをしている人は割といる。この朝の挨拶も、日課となった今では朝ランの楽しみの一つだ。
「ハァー、ハァー」
家の前に付き、目標の5kmを達成したためランニングを終える。
ランニングでかいた汗を流すためにシャワーを浴び、朝食を作る。
今日は、フレンチトーストだ。姉貴の分も作り、冷蔵庫に入れておく。
もろもろ、やることを終えた俺は西城に電話をかける。
Prrrrrr♪Prrrrrr♪
「はい、もしもし。西城ですが、どなた様でしょうか?」
「カヤトだよ、わかるだろう。通話相手の名前が出るんだから」
「ごめんごめん、つい」
「そんなことより、西城。百鬼夜行について調べに行くから、準備をしろ」
「そういうと思って、もう準備はしてあるよカヤト!」
「そうか、それじゃ、出雲公園に集合な」
「わかった」
プ~プ~
カヤトは西城との電話を終えると出雲公園に向かう。人の家の屋根上を走って。
「着いた......西城はまだついていないのか。まあ、当たり前か。いま、午前6時だしな」
それから、数十分後......
「カヤトお待たせ!!待った?」
「いや別に待ってないが」
「そう、よかった。はい、これ」
西城はタブレットを渡してきた。
「なんだ?どうした」
おおよそ想像はつくが。
「昨日、家に帰ってから暇だったからtwwwwtoでこのあたりので話題になっていることを調べて見たんだ。そうしたら、最近は心霊現象にあったっていう投稿が多く見受けられたよ」
そういいながら、その投稿をタブレットを使って見せてくる西城。
────────────────────────────────────────────
怪奇現象w@kaikigensyou
とある友人の話なのですが。
先日、Y公園に大学のサークル仲間数人と肝試しに行ったらしいのですが。
「ガチで出たんだ!!暗かったからよく見えなかったけど、公園の祠のある場所に白い影が7体も!!」なんて言っていましたwww
笑えますよね。幽霊なんかいるわけないのに......
────────────────────────────────────────────
このツイートに対して、「私もその公園で幽霊を見ました!」「俺も!」などといった意見がついてた。
リツイート数もかなりの数になっている。
「何でこんなもので呟きたがるのかね~?俺にはわからん。ただ、どうやら、Y公園で心霊現象が多発していることは事実のようだな」
「ここを調べに行ってみないかカヤト?」
「もちろんだ、Y公園に行くぞ」
カヤトと西城は、公園を後にし、Y公園に向かう。
Y公園についた俺と西城は、心霊現象の目撃が多かった七人寺と呼ばれる寺に向かう。
七人寺はY公園内の木々がたくさん生えている場所にあり、寺の本堂までは100段はある石の階段を上っていかなければならず、なかなかにつらい。しかも、本堂につくまでの階段道は街灯が一切なく、夜になるととても暗いため、とても不気味だ。そのため、この場所はよく若者たちが肝試しに来る。
「カヤト~疲れたよ~」
西城はカヤトに対して両膝に手をつきながら疲れたという意思表示を行う。
そんな西城の姿を見てカヤトは、こいつ何を言っているんだ?といった態度をとる。
「お前、普段から部活で体を使っているだろう?なんでそんなに疲れてるんだよ?」
「仕方がないじゃないか、部活じゃこんな長い階段を登ったりしないんだもん!」
いやいや、それにしたって疲れすぎだろう。
「カヤトこそなんで平気そうなんだよ」
「そりゃ~普段から鍛えているからだよ西城君」
カヤトは西城に向かってドヤ顔をする。
しかし、実際は呪力強化によって身体機能を強制的に高めることにより、筋肉に対する酸素の供給量を増加させているだけである。
「疲れた~疲れた......」
「いいから行くぞ」
カヤトは西城の横に立ち肩を貸す。ついでに、呪力を西城の体に流し込み強制的に疲労を回復させる。
「カヤト、今なんかしたか?」
「いいや、何もしていないが」
嘘である。カヤトは西城にはバレないように隠密の魔術をかけて呪力を流していた。
「ハァ~やっと登りきったぞ~!!」
西城は100段以上ある階段を登り切り、一種の達成感で満ち溢れていた。
なお、カヤトは粛々と階段を登りきり。登り切った先にあった鳥居門をサッサとくぐっていた。
「お、確かにここは幽霊とかが出やすそうだな。霊力が渦巻いている」
鳥居門を潜った先は、一般的な寺と何ら変わらなかった。
ただ一つだけ違うところがある。それは、御神体が存在しないこと。これでは、この場所に集まった霊力や自然的な力を制御することができていない。
なるほどな、合点がいった。
この場所に入った瞬間から霊力が満ちているとは思ったが、それもそうだろう。制御されていないのだから、集まるだけ集まって消化されていない。
こんな状況なら、心霊現象が多発してもおかしくないだろう。なぜなら、霊力溜まりは幽霊や妖怪にとっていい餌場なのだから。
もっと簡単に言うならば、車のアクセルをガムテープで固定して制御する人がいない状態で走らせているようなものである。
そりゃ、出ますわ。
「西城!こっちだ」
「え?ああ、ごめんごめんカヤト。で、どうしたんだい?」
「ここの霊力が御神体がいなくて上がる一方だから、仮で御神体を作って制御するぞ。呪具をつくるのはお前のほうが得意だろう」
「なるほどね~そりゃ~心霊現象発生しますわ~~わかった、御神体を作るから少し待っててくれカヤト、材料を取ってくる」
西城は神院内にある、御神木を丁寧に斬り、一つの小さな仏像を作る。
「あいかわらず、上手いな」
「そんなことはないよ、これをこうしてっと!これで大丈夫」
西城は御神木で作った仏像を境内におく。
「これでどのぐらいの効果があるんだ?」
「そうだね、だいたい半年ぐらいかな。あくまで簡易的な御神体だからね」
「半年か......半年もあればまぁ、大丈夫かな」
カヤトは半年の間に西城に本格的な仏像を造らせようと決意した。
「にしても不思議だねカヤト」
西城がふとそんなことを言い出す。
「どうしてだ西城?」
「いや、この寺などの配置がまるで何かの模様を表してるみたいなんだよ」
「ほう、それはどんな?」
「さすがにそこまでは分からないよ。でも、おそらく上空から見たらわかるんじゃないかな。ほら、ここの石畳の敷き方とかもそれっぽいし」
「なるほどな~それじゃあ確認してみるか」
「どうやって確認するのカヤト」
「それは、これだよ......スマホのアプリのgoolfe mapを使ってだよ」
カヤトは胸ポケットからスマホを取り出しアプリを起動する。
「……」
「ほぅ~」
西城の言った通りだったようだ。
「これは、魔法陣だね。しかも、西洋と日本の魔法陣の二つが使われてる。うん~~どんな儀式で、どんなか結果になるかわ分からないけど。危なそうだね」
西城は、カヤトのスマホに表示されたこの寺の上空写真を見て言う。
「わからないのかよ」
そんなことを思っていると、不気味に地面が輝きだした。
「なあ、西城。これ、ヤバくないか?」
「カヤト......ヤバいね!」
「逃げろ~~!!」
「言われなくても!!」
西城とカヤトは魔法陣が輝いている範囲から急いで抜け出した。
魔法は輝きを強め、多重、複雑、幾何学的に重なり合い、辺り覆っていく。
魔法陣の輝きが薄まり、そこには傘地蔵のような服装をした7人の人?のようなものたちがが立っていた。
「西城!?結界を張れ!!」
「わかった!!」
カヤトは傘地蔵のような服装をした者を見た瞬間、西城に結界を張るように言うが寸前のところで逃げられる。
ニヤリ......と傘地蔵のような服装をした者たちは笑うと、その場から消えた。
「逃げられたな」
「どうするカヤト」
どうしたものか、あいつらがどのような悪さをするかわからない以上、野放しにはできない。
しかし、あいつらがどのような妖怪かもわからない。
どうしたものか......。
「とにかくいったん家に帰ろう」
カヤトはズボンのポケット手を突っ込み、寺を後にする。
カヤトの後ろについていく西城。
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