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第137話「少年はモジモジする」
しおりを挟む六月十一日(土)八時四十二分 真希老獪人間心理専門学校・一年教室
今日も今日とて人心の授業が始まる。
のはいいのだが。
「あれ? 今日人少なくね?」
今現在、教室にいるのは俺と嵐山、あとは麗しのまりあ様だけだった。
三人しかいない。
「後金と木梨は任務に行って、アンナカは伴裂先生のところに行った。」
俺の目の前で座っている嵐山が淡々と答えた。
「じゃあ、今日は三人だけか。」
「そうなるな。」
なるほど……。
「じゃあ、今しかないな!」
「なにがだよ……」
嵐山の机に手をつくと、しかめっ面をされてしまった。
「なにって、まりあ様を誘うんだよ。デ、デデデ、デートに。」
昨日、下田先生から正式に許可が下りた。
あの学長も俺の恋を全力で応援してくれているらしい。
学長の後ろ盾をも獲得した今、全ての風は俺に向いている。
負ける気がしねぇぜ。
「おう、頑張れよ。」
嵐山はすぐに窓に向かってしまった。
おいおいつれねぇな。
「お前も一緒に来てくれよマイフェイバリットフレンド。」
「なんでだよ。」
こっちを見もしやがらねぇ。
「いや…ほら……だって、さ……一人で行く勇気なんてないし……」
「乙女かっ!」
お、やっとこっち向いたな。
「まーまー、そう言うなって! ほら、行くぞ。」
「嫌だ…おい、引っ張んな! 右手! 握力!」
嵐山を無理矢理引っ張り、目指すはまりあ様のところへ。
まりあ様は、嵐山と俺が溜まっていた窓際の席より反対側、廊下側の席に座っていた。
今日も美しい横顔だ。
「? どうしたの、二人とも?」
俺たちが近づくと、まりあ様は読んでいた本に栞を挟んで置き、俺らの方へと向き直ってくれた。
女神ポイント一億点入ったなこれは。
「……あぁ…いやぁそのぉ……。……………………………………」
「おい、モジモジすんな。キモい。」
嵐山にももを蹴られる。
普通にいてぇ。
「?」
天使の如き女神は愛らしくも小首を傾げる。
嵐山に抱いた殺意が吹っ飛んだ。
よし、言うぞ!
「あ、あの~へへへ……。じ、実はですねぇ~……何と言いますか、そのぉ……」
頑張れ! 俺!
まりあ様に穢れ無き瞳で見つめられる。
言え!
言うんだ!
無意識の内に、両手で力強く服の裾を握り潰していた。
「………あの、明日などはお時間が空いていらっしゃったりしていらっしゃったりしていませんかね? あ、まりあ様のお時間がです。」
我ながらなんと気持ち悪い話し方だろう。
普段コミュ障ってわけでもないのに、まりあ様の前だといつもこうなる。
横目で見た嵐山も、もうありえないくらいに引いた顔をしている。
いや、ありえないのは俺か。
「明日?」
「あ、はい! もしよければ、僕と一緒におか、お買い物でもぉ~…なんて、へへへ……」
「うーん……」
まりあ様は顎に手を当て、理知的な気品溢れる姿で何やら考え込む。
……嫌なのかな?
もしそうだったらどうしよう……。
いや、そうかもしれない。
なんかそんな気がしてきたぞ。
ああ、そうなんだ。
きっとそうだ。
「えー。君みたいな冴えない男と買い物なんて行ったら私の女子力まで下がっちゃうじゃない。嫌に決まってるでしょ。隣の楓くんとなら今すぐにでも行っちゃうけど……♡」「お、奇遇だな。俺もまりあとずっと買い物に行きたいと思ってたんだ。よし、じゃあこんな馬鹿はほっといて今から二人でショッピングと洒落こもうぜ。なんなら付き合おうぜ。」「嘘⁉ 本当に⁉」「ああ。実は俺、ずっと前からお前のことが好きだったんだ。」「……うぅっ」「おい、どうした? なんで泣くんだよ?」「…だってぇ……私も、ずっと前から楓君の事が好きでぇ……だから、夢みたいでぇぇ……」「わかった! わかったから落ち着けよ! それに泣くんなら俺の胸の中でだけにしろよ。」「楓くん♡」THE・HAPPYEND。
うわあああああああああああああああああああ‼
「おい、どうした?」
嵐山に肩を揺らされ、我に返る。
ハッ! 今のは…妄想?
「あの、シュウくん。」
「はい。」
まりあ様の小鳥が囀るが如き声で、完全に目が覚める。
そうだ、あれは妄想だ。まりあ様があんな事言うわけないもんな。
「せっかくのお誘いなんだけど、明日って普通に人心(うち)の授業あるよ?」
「あ、それは……」
しまった。
裏で色々とあった事、まりあ様になんて説明しよう……。
「学長の計らいで明日は休校日になった。授業はない。」
困窮していると、嵐山が口を開いた。
「下田先生も、せっかくの休みだし出かけるなら車を出すと言ってくれた。」
きゅっ!
救世主!
なんたるメシア!
こいつ、イケメンだとは思ってたがここまでイケメンだったのか!
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