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第88話「愚者のハンドワーク⑦」
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五月二十九日(日)十四時五十九分 池袋駅・一番線ホーム
逆撫偕楽、科嘸囲雄図、鰯腹拓実。
この三人は、荒神野原率いる部隊の構成員だ。
今現在、池袋駅周辺にいる『パンドラの箱』はこの三人のみなのだが、しかし侮ってはならない。
戦闘に特化した荒神野原の部隊に所属するこの三人は、さらに部隊内でもとある特殊な共通点で結ばれている。
やり口によっては、一人で一部隊を制圧することすら可能な存在なのだ。
そして、その三人の内の二人が、五番線ホームに立っている。
「おぉ。あいつ生きてたぞ。『鍵』も到着したぜ。」
科嘸囲雄図がレンズ越しに口角を上げる。
「別に構わないさ。重要なのは、奴らが資格を有する者か否か。」
逆撫偕楽が帽子の位置を直す。
「もしも資格有する者たちならば、その時は奴らの望み通り、対話でもって接しよう。だが、奴らが資格を有さないのであれば……」
目を見開き、悪意に満ちた笑顔を浮かべた。
「『鍵』以外は皆殺し、『鍵』は半殺しで本部へ持ち帰る。」
『パンドラの箱』の精鋭二人が、神室秀青たちを試すように見据えた。
「気を付けろ……狙撃で、狙われてる。」
ふらつきながら、嵐山楓は徐に言葉を紡いでいく。
「多分、あそこのビルからだ。」
神室秀青が横目で見遣るビル。
そこには、既に狙撃手・鰯腹拓実はいないのだが、二人には与り知らぬことであった。
「じゃあ、お前は俺の影にいろ。」
神室秀青が嵐山楓を庇う様にしゃがみ込んだ。
「お前に風穴一つ空いてないってことは、実弾じゃねぇんだろ? だったら、俺のエーラと俺の“性癖”で受けきれる………はずだ、多分。」
「………。」
やや自信なさげに、頼りなく。
それでも不敵に笑う神室秀青の横顔に、嵐山楓は思わず口を開いてしまった。
「それよりも、こいつらなんなんだ?」
階段前に並び立つ二十を超える男性を、神室秀青が顎で指す。
「目の前でこんな事が起こってるってのに、全然動じる気配がねぇんだけど。」
そこで、ようやく嵐山楓は気付いた。
周囲の人間が、一周回って騒ぎ立てずに、静かに自分たちに注目していることに。
微かに聞こえてくる囁き声たち。
こちらに携帯を向けてくる者たちまでいる。
そりゃあそうだ。
遠くから狙撃され、走る電車に飛び込みかけた。
誰だって目を奪われる光景だ。
しかし、それでも。
階段前に陳列するこの男たちは、一切微動だにしない。
これは、不自然だ。
「……操られてるのかな? 痴漢の“性癖”はあの感じだと、他者干渉系で合ってそうだし。」
「これだけの人数を同時に操るなんて、それこそ大量のエーラが必要になる。さっきは、そんなエーラ量があるようには見えなかった。……いや、能力使用直後だからあのエーラ量だったのか……? だとしても、この一瞬でこれだけの人数を操る能力となると、事前にいくつかの手順を踏まなきゃ成立しないと思う。」
二人同時に、思考を巡らす。
時間がない。
早くしないと、犯人に逃げられてしまう。
二人は自然と、お互いの考えをぶつけ合っていた。
「見た感じ、撮り鉄っぽいし、電車に関連する能力だとしたら、案外簡単な手順で済むのかもしれない。」
撮り鉄。
鉄道好きな写真家のことだ。
「いや、だとしたら下田先生が操られたことに納得いかない。あの人は特に鉄道ファンってわけでもないし……それに、先生が操られていたとしたら、それは一瞬だった。こいつら、現れてから四、五分は経ってるぞ。」
「現れた?」
嵐山楓の言葉に、神室秀青が反応する。
「ああ。急に目の前に出てきやがったんだ。」
「急に……」
それを聞いて、神室秀青は俯いた。
「だとしたら、そもそも……じゃあ、この人たちは撮り鉄じゃ……」
一人、呟き続ける神室秀青。
訳も分からずその姿を見る嵐山楓。
そんな二人の下に、木梨鈴が駆けてきた。
「楓っち! 神室っち! 大丈夫?」
遠くから走る、際どい姿の美少女。
振り返った神室秀青が、何かを思いついたように嵐山楓を見た。
「……丁度いい。嵐山。」
「? なんだ?」
神室秀青が親指で木梨鈴を指さした。
「木梨さんのスカート、唆る感じにめくれるか?」
「……え?」
「は?」
真面目な顔で言う神室秀青に、二人が固まった。
「な、なに言ってるの? 神室っち……」
両手でスカートを押さえ、後ずさる木梨鈴。
「まさかお前、こんな時にまで欲情してんのか?」
軽蔑を込めた目で、嵐山楓は神室秀青を睨んだ。
「いいから。」
神室秀青も、嵐山楓の目を見る。
「できねぇのか?」
狙撃手の時とは違い、その目には何らかの確信が宿っているのを、嵐山楓は見た。
そして、薄く笑う。
「誰に言ってんだ? できるに決まってんだろ。」
嵐山楓は木梨鈴に向かって手を伸ばす。
「ちょっ…嘘でしょ? 楓っち」
「しっかり掴んどけよ、スカート。」
嵐山楓のエーラが僅かに膨れ上がり、そして。
「『風さんのえっち!』“春一番”!」
腕を小さく振り上げた。
それと同時に、木梨鈴の足元から突如風が巻き起こる。
「ま、駄目……きゃあっ!」
股を閉じ、両手で前後のスカートの裾を押さえ込む。
それでも、側面の裾はどうしても風の影響を受けてしまい、何度もまくれ上がっては閉じを繰り返す。
その度に、艶のある白い太ももがギリギリまで露わになり、パンツが見えそうで見えないラインを覗き続ける。
圧倒的に官能的なその光景に、周囲の静かな野次馬たちも、彼女の脚に釘付けとなった。
どころか。
「⁉」
今まで不動を貫いてきた階段前の男たちですら、彼女に反応し、挙句の果てにカメラを構えて彼女を取り囲み始めた。
「え⁉ ちょっ……撮らないでぇ……」
スカートを押さえつつ講義する木梨鈴に、容赦のないフラッシュを浴びせ続ける男たち。
「……どういう、ことだ?」
呆気に取られる嵐山楓の隣で、神室秀青が立ち上がった。
「木梨さん、索敵!」
「えっ⁉ どういう……もうっ!」
慌てて、木梨鈴が周囲を見回す。
そして、二番線ホーム、その先を見て動きを止めた。
「五番線ホーム! そこにいる二人が多分首謀者! しかも一人はカメラ向けてきてる! 楓っち、もうこれ止めてよぉ!」
叫び散らす木梨鈴。
嵐山楓は風を止め、神室秀青が五番線ホームを睨んだ。
「走るぞ!」
逆撫偕楽、科嘸囲雄図、鰯腹拓実。
この三人は、荒神野原率いる部隊の構成員だ。
今現在、池袋駅周辺にいる『パンドラの箱』はこの三人のみなのだが、しかし侮ってはならない。
戦闘に特化した荒神野原の部隊に所属するこの三人は、さらに部隊内でもとある特殊な共通点で結ばれている。
やり口によっては、一人で一部隊を制圧することすら可能な存在なのだ。
そして、その三人の内の二人が、五番線ホームに立っている。
「おぉ。あいつ生きてたぞ。『鍵』も到着したぜ。」
科嘸囲雄図がレンズ越しに口角を上げる。
「別に構わないさ。重要なのは、奴らが資格を有する者か否か。」
逆撫偕楽が帽子の位置を直す。
「もしも資格有する者たちならば、その時は奴らの望み通り、対話でもって接しよう。だが、奴らが資格を有さないのであれば……」
目を見開き、悪意に満ちた笑顔を浮かべた。
「『鍵』以外は皆殺し、『鍵』は半殺しで本部へ持ち帰る。」
『パンドラの箱』の精鋭二人が、神室秀青たちを試すように見据えた。
「気を付けろ……狙撃で、狙われてる。」
ふらつきながら、嵐山楓は徐に言葉を紡いでいく。
「多分、あそこのビルからだ。」
神室秀青が横目で見遣るビル。
そこには、既に狙撃手・鰯腹拓実はいないのだが、二人には与り知らぬことであった。
「じゃあ、お前は俺の影にいろ。」
神室秀青が嵐山楓を庇う様にしゃがみ込んだ。
「お前に風穴一つ空いてないってことは、実弾じゃねぇんだろ? だったら、俺のエーラと俺の“性癖”で受けきれる………はずだ、多分。」
「………。」
やや自信なさげに、頼りなく。
それでも不敵に笑う神室秀青の横顔に、嵐山楓は思わず口を開いてしまった。
「それよりも、こいつらなんなんだ?」
階段前に並び立つ二十を超える男性を、神室秀青が顎で指す。
「目の前でこんな事が起こってるってのに、全然動じる気配がねぇんだけど。」
そこで、ようやく嵐山楓は気付いた。
周囲の人間が、一周回って騒ぎ立てずに、静かに自分たちに注目していることに。
微かに聞こえてくる囁き声たち。
こちらに携帯を向けてくる者たちまでいる。
そりゃあそうだ。
遠くから狙撃され、走る電車に飛び込みかけた。
誰だって目を奪われる光景だ。
しかし、それでも。
階段前に陳列するこの男たちは、一切微動だにしない。
これは、不自然だ。
「……操られてるのかな? 痴漢の“性癖”はあの感じだと、他者干渉系で合ってそうだし。」
「これだけの人数を同時に操るなんて、それこそ大量のエーラが必要になる。さっきは、そんなエーラ量があるようには見えなかった。……いや、能力使用直後だからあのエーラ量だったのか……? だとしても、この一瞬でこれだけの人数を操る能力となると、事前にいくつかの手順を踏まなきゃ成立しないと思う。」
二人同時に、思考を巡らす。
時間がない。
早くしないと、犯人に逃げられてしまう。
二人は自然と、お互いの考えをぶつけ合っていた。
「見た感じ、撮り鉄っぽいし、電車に関連する能力だとしたら、案外簡単な手順で済むのかもしれない。」
撮り鉄。
鉄道好きな写真家のことだ。
「いや、だとしたら下田先生が操られたことに納得いかない。あの人は特に鉄道ファンってわけでもないし……それに、先生が操られていたとしたら、それは一瞬だった。こいつら、現れてから四、五分は経ってるぞ。」
「現れた?」
嵐山楓の言葉に、神室秀青が反応する。
「ああ。急に目の前に出てきやがったんだ。」
「急に……」
それを聞いて、神室秀青は俯いた。
「だとしたら、そもそも……じゃあ、この人たちは撮り鉄じゃ……」
一人、呟き続ける神室秀青。
訳も分からずその姿を見る嵐山楓。
そんな二人の下に、木梨鈴が駆けてきた。
「楓っち! 神室っち! 大丈夫?」
遠くから走る、際どい姿の美少女。
振り返った神室秀青が、何かを思いついたように嵐山楓を見た。
「……丁度いい。嵐山。」
「? なんだ?」
神室秀青が親指で木梨鈴を指さした。
「木梨さんのスカート、唆る感じにめくれるか?」
「……え?」
「は?」
真面目な顔で言う神室秀青に、二人が固まった。
「な、なに言ってるの? 神室っち……」
両手でスカートを押さえ、後ずさる木梨鈴。
「まさかお前、こんな時にまで欲情してんのか?」
軽蔑を込めた目で、嵐山楓は神室秀青を睨んだ。
「いいから。」
神室秀青も、嵐山楓の目を見る。
「できねぇのか?」
狙撃手の時とは違い、その目には何らかの確信が宿っているのを、嵐山楓は見た。
そして、薄く笑う。
「誰に言ってんだ? できるに決まってんだろ。」
嵐山楓は木梨鈴に向かって手を伸ばす。
「ちょっ…嘘でしょ? 楓っち」
「しっかり掴んどけよ、スカート。」
嵐山楓のエーラが僅かに膨れ上がり、そして。
「『風さんのえっち!』“春一番”!」
腕を小さく振り上げた。
それと同時に、木梨鈴の足元から突如風が巻き起こる。
「ま、駄目……きゃあっ!」
股を閉じ、両手で前後のスカートの裾を押さえ込む。
それでも、側面の裾はどうしても風の影響を受けてしまい、何度もまくれ上がっては閉じを繰り返す。
その度に、艶のある白い太ももがギリギリまで露わになり、パンツが見えそうで見えないラインを覗き続ける。
圧倒的に官能的なその光景に、周囲の静かな野次馬たちも、彼女の脚に釘付けとなった。
どころか。
「⁉」
今まで不動を貫いてきた階段前の男たちですら、彼女に反応し、挙句の果てにカメラを構えて彼女を取り囲み始めた。
「え⁉ ちょっ……撮らないでぇ……」
スカートを押さえつつ講義する木梨鈴に、容赦のないフラッシュを浴びせ続ける男たち。
「……どういう、ことだ?」
呆気に取られる嵐山楓の隣で、神室秀青が立ち上がった。
「木梨さん、索敵!」
「えっ⁉ どういう……もうっ!」
慌てて、木梨鈴が周囲を見回す。
そして、二番線ホーム、その先を見て動きを止めた。
「五番線ホーム! そこにいる二人が多分首謀者! しかも一人はカメラ向けてきてる! 楓っち、もうこれ止めてよぉ!」
叫び散らす木梨鈴。
嵐山楓は風を止め、神室秀青が五番線ホームを睨んだ。
「走るぞ!」
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