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第19話「少年は覚悟を問われる」
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「神室くん、君はどうしようもない変態だ。」
タクト君が俺の肩の手を置く。
「だから我々と共に世界を終わらせようじゃないか。普通に憚らず堂々と変態が生きていける世界を創ろうじゃないか。」
「タ…タクト君……」
俺は思わず身構える。
その心情を察して、タクト君は俺の肩から手を下ろす。
「もしも、断るというのであれば……」
タクト君は指を鳴らす。
パチンッ。
同時に、俺の右腕が切り落ちた。
「うわああああああああああああああ!」
直後、落ちた右腕がぐずぐずに腐り溶け、消えてなくなった。
いや、右腕だけじゃなく、その右腕を元々生やしていた部分も、左腕も、両の足も腐り始めてきた。
「な…な…」
狼狽する俺の耳元にタクト君は口を寄せ囁く。
「さあ、答えを聞かせておくれ。君は、どうしたい?」
「あ……あぁ……」
体の腐食は増していき、首から下が完全にただれてしまった。
「さあ、早く。」
タクト君が目を見開く。
そしてついに、体の腐食が首にまで進んできた。
「うわあああああああああああああああああああ‼」
絶叫と共に体を起こす。
「……あれ?」
白い部屋に白いベッド。
開いた窓から心地の良い風が流れてくる。
右腕は、くっついていた。
「あ、目が覚めたね。」
隣から声が聞こえる。
見ると、ベッドの脇で椅子に座り読書をしている男がいた。
紺色のスーツに白いワイシャツ。首下にはえんじ色のネクタイを締めている。
細身な体格に、艶のある綺麗な黒髪が風になびいている。
なんだ?
デジャヴュ?
「あの、ここは」
「ちょっと待ってー。今、良い所だから。」
男は俺の言葉を遮り、読書に夢中になっている。
男が読んでいる本には、『淫乱人妻の失望』というタイトルが書かれていた。
……官能小説かよ。
男は「よし。」と言って本を閉じると、伸びをして立ち上がった。
「ここは病室だよー。君は助かったんだ、神室君。」
まったく緊張感のない笑顔でそう告げる男。
結構身長が高い(百八十センチくらい)。
「あの、なんで俺の名前を知って……っ!」
男の体から、あの建物にいた連中と同じエネルギーのようなものが出ている。
この人、いや、こいつ……まさか。
「やー、ちょっとちょっと、落ち着いてよ。そんな警戒しなくても大丈夫だって。」
慌てて身構えた俺を見て、男が困ったように手首を上下させる。
「信じられるか! お前もあいつらの仲間なんだろ!」
「うーん……困ったなー。」
男が頭を掻いていると、病室の扉が開いて、顎にガーゼをつけた病院着の嵐山が入ってきた。
「なんだ神室、起きたのか。」
不愛想な面をする嵐山。
しかし、今はその不愛想な面が愛おしい。
「嵐山っ!」
俺は立ち上がり嵐山に駆け寄ると、肩掴んでを思いっきり揺すった。
「ありがとう! ありがとう!」
「なんなんだいきなりお前は!」
嵐山が俺の手を振り払う。
そんな嵐山を、涙を浮かべて見る。
「お前のこと、ゲイだからって避けててごめんな! こんなに良い奴なのに! 命の恩人なのに!」
「ゲイじゃねぇよ! お前ずっとそう勘違いしてただろ!」
嵐山が大口を開けて叫ぶ。
え? 違うの?
「そ、そんな! 嵐山君、君、男も好きだったのかい⁉」
長髪の男が片足立ちで両手を上げて驚く。
「殴りますよ。」
嵐山からの冷徹なツッコミ。
っていうか。
「嵐山、こいつと知り合いなのか?」
嵐山は呆れた顔で見てくる。
「こいつ…ってお前、下田先生は一応年上だぞ。」
お前も殴るとか言ってたじゃねぇかよ。
一応とか言ってるし。
……先生?
「そうなんだよ、嵐山君!」
長髪の男が嵐山に縋りつく。
「神室君が僕のこと警戒しちゃってさー。誤解を解いておくれよー。」
「……はー。」
嵐山はため息をつく。
「なんなんだよ、この状況……」
五月十四日(土)九時二十八分 〇×病院・二〇八号室
「———と、いうわけで、僕は君の命の恩人の恩人なわけだ。だからなにも不審がることなんてないんだよ。」
シモダが人差し指を立てる。
「えぇー」
本当かよ。
「本当だ。下田先生がいなきゃあ、俺はお前の居場所すらわからなかったしな。」
嵐山が言う。
「まぁ、嵐山が言うんだったら……」
この人は連中の仲間ではないのか。
「あれあれー? なんだかひどくなーい?」
シモダさんがベソをかく。
「とにかく」と、嵐山が椅子から立ち上がる。
「下田先生、そろそろ神室が起きたことを警察に言いましょう。あんまりここには長居できませんし。」
「あ、そうだねー。」
シモダさんも立ち上がる。
「ちょっと待って。警察って…俺、何話せばいいんだよ。」
嵐山が俺に顔を近づけ囁く。
「いいか。俺が最初、警察に事情を聴かれたときに友達であるお前が廃墟探索してたってことにしたから、お前もそれに合わせろ。①お前が好奇心から廃墟探索へ出かけた。②お前が雰囲気を出す為に使っていたマッチが屋上で手元から滑り落ちて、誰かが捨てて行った生ゴミに引火。③たまたま駅に来ていた俺はボヤ騒ぎでお前のことが心配になってつい、消防隊が駆けつけるのを待たずに中に入った。④倒れていたお前を見てパニくった俺がお前を抱えて屋上から飛び降りた。」
「……それ、かなり無理があるんじゃねーか?」
「確かに無理矢理だけど、証拠ならなんとかなってるし、警察からの捜査を切り上げるにはこうするしかないんだ。もし細かい部分を訊かれても覚えてませんってしつこくシラを切り通せば、案外なんとかなる。悪いんだが、お前のためだ。頼むぞ。」
嵐山が顔を離す。
「……キスされるかと思った。」
思わず唇を押さえる。
「だからゲイじゃねーっ!」
叫ぶ嵐山の前に、シモダさんが人差し指を立てて入ってきた。
「あ、そうそう。ちなみに、君の身元引き取り人なんだけど、両親が海外出張で不在だから、代わりに僕が叔父ってことで請け負ったからねー。そこもよろしく。」
えぇっ。
確かに両親は海外出張で不在だけど。
この長髪官能小説が?
「君、今失礼なこと考えてない?」
シモダさんが片手を広げた。
その後、二人が退出してほんのちょっとしたらスーツ姿の刑事が二人(今度は本物のようだ)が病室に入ってきた。
なんであんなことをしたんだとか、現場に入ったのはいつだとか、根掘り葉掘り訊かれたが嵐山に言われた通り話を合わせ、わかんないところはシラを切り通していたら案外なんとかなった。
厳重注意ということで、叔父(仮)も呼ばれ、一通り説教を食らった後、刑事二人は退出した。
その数分後、入れ替わりで医者が入ってきて簡単な問診を受けた。
異常なしとの診断が下され、退院手続きを済ませて病院を出た。
五月十四日(土)十時二十五分 〇×病院・駐車場
駐車場に停まっているレガシィの鍵を開け、シモダさんが細い目で俺を見る。
「そんなわけで、今から叔父であるこの僕が、君を自宅まで送っていくことになるわけなんだけれど。」
シモダさんは一呼吸おいて続ける。
「やー。君、危ない組織に狙われちゃってるからねー。このまま自宅へ送るわけにもいかないんだよねー。」
緊張感のない調子でシモダさんは高らかに笑う。
「狙われてる人間に対する顔じゃないですよ。」
嵐山が冷たい目で見るが、シモダさんはそれを無視して続ける。
「そ・れ・にー、君には現状をザックリとしか説明してないわけだし、もっと詳しく話さなきゃだから、今から説明がてらちょっと付き合ってほしい場所があるんだけど、どうかな?きっと今の君に必要なものが得られると思うよ。」
シモダさんは「ま、」と続ける。
「このまま自宅に帰っても君の安全は僕たちが保証するから、君の日常は守られる。いつも通り、オナニーに明け暮れていて構わない。だから好きな方を選んでよー。」
「………。」
迷ってるふりをする。
しかし、答えは決まっていた。
シモダさんの口調はともかく、昨日会った連中はヤバいの一言に尽きる。
特に神代託人。
はっきり言って二度と関わりたくない。
けれど。
一体なぜ俺が狙われているのか、あの連中やシモダさんがこぞって体から出しているこの光みたいなのはなんなのか。
俺の腕が切断され、治されたのが夢ではないのだとしたら。
そして何より、『パンドラの箱』を名乗る連中の目的、その理由。
俺は……。
「このまま帰るわけにはいきませんよ。」
これは、俺の問題でもある。
シモダさんは少し雰囲気の違う笑顔になると、車の扉を開けた。
「そっかー。じゃあ、車に乗ってよ。」
シモダさんに促され、俺は助手席に、嵐山は後部座席に座った。
シモダさんがキーを回し、車のエンジンをかける。
「じゃあ、早速だけど、神室君。何から訊きたい?」
タクト君が俺の肩の手を置く。
「だから我々と共に世界を終わらせようじゃないか。普通に憚らず堂々と変態が生きていける世界を創ろうじゃないか。」
「タ…タクト君……」
俺は思わず身構える。
その心情を察して、タクト君は俺の肩から手を下ろす。
「もしも、断るというのであれば……」
タクト君は指を鳴らす。
パチンッ。
同時に、俺の右腕が切り落ちた。
「うわああああああああああああああ!」
直後、落ちた右腕がぐずぐずに腐り溶け、消えてなくなった。
いや、右腕だけじゃなく、その右腕を元々生やしていた部分も、左腕も、両の足も腐り始めてきた。
「な…な…」
狼狽する俺の耳元にタクト君は口を寄せ囁く。
「さあ、答えを聞かせておくれ。君は、どうしたい?」
「あ……あぁ……」
体の腐食は増していき、首から下が完全にただれてしまった。
「さあ、早く。」
タクト君が目を見開く。
そしてついに、体の腐食が首にまで進んできた。
「うわあああああああああああああああああああ‼」
絶叫と共に体を起こす。
「……あれ?」
白い部屋に白いベッド。
開いた窓から心地の良い風が流れてくる。
右腕は、くっついていた。
「あ、目が覚めたね。」
隣から声が聞こえる。
見ると、ベッドの脇で椅子に座り読書をしている男がいた。
紺色のスーツに白いワイシャツ。首下にはえんじ色のネクタイを締めている。
細身な体格に、艶のある綺麗な黒髪が風になびいている。
なんだ?
デジャヴュ?
「あの、ここは」
「ちょっと待ってー。今、良い所だから。」
男は俺の言葉を遮り、読書に夢中になっている。
男が読んでいる本には、『淫乱人妻の失望』というタイトルが書かれていた。
……官能小説かよ。
男は「よし。」と言って本を閉じると、伸びをして立ち上がった。
「ここは病室だよー。君は助かったんだ、神室君。」
まったく緊張感のない笑顔でそう告げる男。
結構身長が高い(百八十センチくらい)。
「あの、なんで俺の名前を知って……っ!」
男の体から、あの建物にいた連中と同じエネルギーのようなものが出ている。
この人、いや、こいつ……まさか。
「やー、ちょっとちょっと、落ち着いてよ。そんな警戒しなくても大丈夫だって。」
慌てて身構えた俺を見て、男が困ったように手首を上下させる。
「信じられるか! お前もあいつらの仲間なんだろ!」
「うーん……困ったなー。」
男が頭を掻いていると、病室の扉が開いて、顎にガーゼをつけた病院着の嵐山が入ってきた。
「なんだ神室、起きたのか。」
不愛想な面をする嵐山。
しかし、今はその不愛想な面が愛おしい。
「嵐山っ!」
俺は立ち上がり嵐山に駆け寄ると、肩掴んでを思いっきり揺すった。
「ありがとう! ありがとう!」
「なんなんだいきなりお前は!」
嵐山が俺の手を振り払う。
そんな嵐山を、涙を浮かべて見る。
「お前のこと、ゲイだからって避けててごめんな! こんなに良い奴なのに! 命の恩人なのに!」
「ゲイじゃねぇよ! お前ずっとそう勘違いしてただろ!」
嵐山が大口を開けて叫ぶ。
え? 違うの?
「そ、そんな! 嵐山君、君、男も好きだったのかい⁉」
長髪の男が片足立ちで両手を上げて驚く。
「殴りますよ。」
嵐山からの冷徹なツッコミ。
っていうか。
「嵐山、こいつと知り合いなのか?」
嵐山は呆れた顔で見てくる。
「こいつ…ってお前、下田先生は一応年上だぞ。」
お前も殴るとか言ってたじゃねぇかよ。
一応とか言ってるし。
……先生?
「そうなんだよ、嵐山君!」
長髪の男が嵐山に縋りつく。
「神室君が僕のこと警戒しちゃってさー。誤解を解いておくれよー。」
「……はー。」
嵐山はため息をつく。
「なんなんだよ、この状況……」
五月十四日(土)九時二十八分 〇×病院・二〇八号室
「———と、いうわけで、僕は君の命の恩人の恩人なわけだ。だからなにも不審がることなんてないんだよ。」
シモダが人差し指を立てる。
「えぇー」
本当かよ。
「本当だ。下田先生がいなきゃあ、俺はお前の居場所すらわからなかったしな。」
嵐山が言う。
「まぁ、嵐山が言うんだったら……」
この人は連中の仲間ではないのか。
「あれあれー? なんだかひどくなーい?」
シモダさんがベソをかく。
「とにかく」と、嵐山が椅子から立ち上がる。
「下田先生、そろそろ神室が起きたことを警察に言いましょう。あんまりここには長居できませんし。」
「あ、そうだねー。」
シモダさんも立ち上がる。
「ちょっと待って。警察って…俺、何話せばいいんだよ。」
嵐山が俺に顔を近づけ囁く。
「いいか。俺が最初、警察に事情を聴かれたときに友達であるお前が廃墟探索してたってことにしたから、お前もそれに合わせろ。①お前が好奇心から廃墟探索へ出かけた。②お前が雰囲気を出す為に使っていたマッチが屋上で手元から滑り落ちて、誰かが捨てて行った生ゴミに引火。③たまたま駅に来ていた俺はボヤ騒ぎでお前のことが心配になってつい、消防隊が駆けつけるのを待たずに中に入った。④倒れていたお前を見てパニくった俺がお前を抱えて屋上から飛び降りた。」
「……それ、かなり無理があるんじゃねーか?」
「確かに無理矢理だけど、証拠ならなんとかなってるし、警察からの捜査を切り上げるにはこうするしかないんだ。もし細かい部分を訊かれても覚えてませんってしつこくシラを切り通せば、案外なんとかなる。悪いんだが、お前のためだ。頼むぞ。」
嵐山が顔を離す。
「……キスされるかと思った。」
思わず唇を押さえる。
「だからゲイじゃねーっ!」
叫ぶ嵐山の前に、シモダさんが人差し指を立てて入ってきた。
「あ、そうそう。ちなみに、君の身元引き取り人なんだけど、両親が海外出張で不在だから、代わりに僕が叔父ってことで請け負ったからねー。そこもよろしく。」
えぇっ。
確かに両親は海外出張で不在だけど。
この長髪官能小説が?
「君、今失礼なこと考えてない?」
シモダさんが片手を広げた。
その後、二人が退出してほんのちょっとしたらスーツ姿の刑事が二人(今度は本物のようだ)が病室に入ってきた。
なんであんなことをしたんだとか、現場に入ったのはいつだとか、根掘り葉掘り訊かれたが嵐山に言われた通り話を合わせ、わかんないところはシラを切り通していたら案外なんとかなった。
厳重注意ということで、叔父(仮)も呼ばれ、一通り説教を食らった後、刑事二人は退出した。
その数分後、入れ替わりで医者が入ってきて簡単な問診を受けた。
異常なしとの診断が下され、退院手続きを済ませて病院を出た。
五月十四日(土)十時二十五分 〇×病院・駐車場
駐車場に停まっているレガシィの鍵を開け、シモダさんが細い目で俺を見る。
「そんなわけで、今から叔父であるこの僕が、君を自宅まで送っていくことになるわけなんだけれど。」
シモダさんは一呼吸おいて続ける。
「やー。君、危ない組織に狙われちゃってるからねー。このまま自宅へ送るわけにもいかないんだよねー。」
緊張感のない調子でシモダさんは高らかに笑う。
「狙われてる人間に対する顔じゃないですよ。」
嵐山が冷たい目で見るが、シモダさんはそれを無視して続ける。
「そ・れ・にー、君には現状をザックリとしか説明してないわけだし、もっと詳しく話さなきゃだから、今から説明がてらちょっと付き合ってほしい場所があるんだけど、どうかな?きっと今の君に必要なものが得られると思うよ。」
シモダさんは「ま、」と続ける。
「このまま自宅に帰っても君の安全は僕たちが保証するから、君の日常は守られる。いつも通り、オナニーに明け暮れていて構わない。だから好きな方を選んでよー。」
「………。」
迷ってるふりをする。
しかし、答えは決まっていた。
シモダさんの口調はともかく、昨日会った連中はヤバいの一言に尽きる。
特に神代託人。
はっきり言って二度と関わりたくない。
けれど。
一体なぜ俺が狙われているのか、あの連中やシモダさんがこぞって体から出しているこの光みたいなのはなんなのか。
俺の腕が切断され、治されたのが夢ではないのだとしたら。
そして何より、『パンドラの箱』を名乗る連中の目的、その理由。
俺は……。
「このまま帰るわけにはいきませんよ。」
これは、俺の問題でもある。
シモダさんは少し雰囲気の違う笑顔になると、車の扉を開けた。
「そっかー。じゃあ、車に乗ってよ。」
シモダさんに促され、俺は助手席に、嵐山は後部座席に座った。
シモダさんがキーを回し、車のエンジンをかける。
「じゃあ、早速だけど、神室君。何から訊きたい?」
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