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第13話「切断」
しおりを挟む五月十三日(金)十八時十八分 廃ビル
「じゃあ、みんなから神室君に質問ターイム!」
タクト君の明るい声とは裏腹に、場の空気は冷え切っていた。
ほぼ全員、何とも言えない顔で俺を見ている。
失笑すら起こっていない。
視線が痛い。
背中の洪水が収まらない。
直立二足の息苦しさに眩暈すら覚える。
複数人の前でスベることがこんなにも恐ろしいことなのかとそろそろへたり込みそうになった時、唯一そっぽを向いていた白髪男が口を開いた。
「別に質問なんざねぇなぁ。重要なのは、俺らの目的の為にどれくらい使える奴なのかってことだしよぉ。」
続いて、黒髪の女性は俺に冷たい眼を向けた。
「それに関しては同感ね。男ってほんと、頭の中そればっかりよね。デリカシーとかないのかしら。」
「うっ…」
鳩尾に再び痛みを感じる。
それに関しては全面的に俺が悪い。
なんで女性の前であんな発言したのだろう。
やっぱ頭の中そればっかりだからか。
「もう、二人とも言いすぎだよ。神室君だって、いざという時の引き出しが少ない中、頑張ったんだから。」
タクト君、それフォローになってないですから……。
「普段から女と話す機会もないんだろうね、かわいそうに。」
黒髪女が嘲笑する。
「っつ」
三度、鳩尾に激痛が走る。
腹をさすり、痛みを必死に堪えていると、タクト君が心配そうに顔を覗き込んできた。
「顔色悪いけど、大丈夫? やっぱりまだ痛いの? 少し座って休んでよ。さっきもあんなにスベり倒したし、精神的にも疲れてるんだよ。」
タクト君、椅子を引いてくれるのはありがたいんだが、俺に優しくしてくれてるんだか、トドメを刺しに来てるんだか、どっちなんだ君は。
それでも、この子の前では弱いところを見せたくない。
この子を守るのは俺だ。
俺は腹をさする手を止め、笑顔を作る。
「大丈夫ですよ、くれくらい。ところで、さっき気になったんですけど、この方たちの目的っていった……い?」
手を止めた時、制服の内ポケットから何かが落ちた。
「何か落としたよ?」
タクト君が落とした物を拾い上げる。
それは、小型の8×●だった。
瞬間、脳裏に過るあの音。
便器の機能音、そして……。
……ショアァーッ。チョロロー…チョロッ…チョッ。
「——————っ。」
そうだ。
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なんでこんな大切なことを忘れていたんだ。
レギュラーのオカズになること必至なのに。
しかも、放課後に起こったあの事件。
普段は清楚な西野さんが、完全なるビッ●と化していたあの光景。
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今年一興奮したぜ。
興奮のあまり我を忘れてオナニーしてたら、その現場を嵐山に見つかるわ、トイレへ連れ込まれるわで散々な目に遭ったけどな。
しかもあの後、謎の女に嵐山が襲われて……。
ふと、黒髪の女性と目が合う。
「なに? キモいからこっち見ないでくんない?」
不機嫌そうな女性の顔。
その顔は間違いなく、あの時の……。
「そうだ……。あの後警察が来て……お前と一緒に逃げて……急に腹に痛みを感じて……」
だから、だから俺は寝てたのか。
寝かされていたのか。
だったら、俺が目覚めたここは……。
この女もいるここは一体……。
思わず後ずさる。
一歩、また一歩と後退し、誰かとぶつかった。
「神室君。」
タクト君の声だ。
後ろから。
「……タクト君?」
ゆっくりと振り返る。
「思い出しちゃったんだね?」
タクト君が笑っていた。
だが、その笑顔には、闇が感じられた。
「タクト…君?」
今度は、タクト君から後ずさる。
な、なんだ……この、形容し難い悪寒は……。
この、お花畑で遊んでいたら、急に地面が割れて地獄に落とされたかのような、浮遊感にも似た不快感は、一体……。
タクト君は、目を閉じて息を吐く。
「あーあ。あともう少しだったんだけどなぁ。弱味を見せまいとする君の弱味を僕だけに見せてもらえば、完了だったのに……残念☆」
タクト君の笑顔。
さっきと変わらぬ笑顔のはずなのに、邪悪な気配が漂っているのはなんでなんだ?
タクト君が、微笑みかけ、近づいてくる。
「まったく、君の性欲の強さには驚かされるよ。」
タクト君が手を伸ばしてくる。
「く、来るなぁ!」
反射的に、タクト君の手を払いのけた、その時。
ゴロッ。
「な……」
振り払った俺の右腕が、転がった。
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