クトゥルフの雨

海豹ノファン

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嘆きの霊魂

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サキュラSIDEーーー

私はアテナ様の手を触れる。
アテナ様は子供の時から霊が見えて、交信が出来ると言う。

彼女の手を触れると霊感が強くない者でも霊が見えて、ある人は忌み嫌い、ある人は好奇の目で見ると言う事が多かったらしい。

でも私は別段気にはしない、色々な人を見てきて良い人も悪い人も見てきて分別は付いてきたから。

ただアテナ様は後者では無い、だから私は平気だ。

アテナ様の手を触れた途端景色がガラリと変わり、いない筈の人物が見えだした。

「潤実…」

海溝潤実だ。
潤実は哀しげな目で私を見つめている。
大きな小動物のような姿はいつもは視閲の題材にしていたのだが今は違ってて…。

私は胸が締め付けられるように苦しくなり、今は潤実と顔を合わせたく無いと言う気持ちに襲われてしまっている。

私は潤実と合った途端視線を反らしてしまう。
今は気まずい…。

「気にしないよ、サキュラ…」

潤実はいつもの優しい表情で私に囁きかけてきた。
それでも私は気持ちが強張ったままでどう潤実と顔を合わせれば良いのかわからない。

その時私の前が真っ暗になると共に温かく心地の良い感触が伝わってきた。

潤実が抱きついてきたのだ。
私が私らしくもなくしどろもどろとしてしまい、自分が動かなければと抱きついてきたのだ。

「ごめんねサキュラ…いつも私の為に動いてくれて…」

潤実は少し嗚咽をあげながら私に囁きかけてくれる。

温かい感触とともに潤実が体を少し震わせているのを感じる、緊張ではない…胸が高まっているのだ。

「潤実…お姉…ちゃん…」

私の口からつい「お姉ちゃん」と言う言葉が出てきてしまった。

いつもは抱きついてきようものなら何らかの拒絶反応は示してしまうが今の潤実の前では何故か抵抗も無く受け入れてしまう。

なんだこの気持ちは…。
しかし謝らなければ…他の女子と強制連帯とは言え一緒に潤実を責めていた事を。

「潤実…ごめんなさい…私他の子と混ざってて貴女を責めだしてしまっていた…」

潤実は私の頭を優しく撫でてくれた。

「勇気あるねサキュラ…凄い子だよ…」

勇気あるのは貴女の方、私はさっき貴女を避けてたのに…そんな私を抱きつきに来てくれたのだから…。

そんな事…なかなか出来ない事だよ…。

私も感極まり嗚咽を上げてしまう。

そんな私達をアテナ様は互いの成長を喜ぶように優しく微笑みかけていた。

しかし異変は起こった。

『侵入者アリ!侵入者アリ!排除セヨ!排除セヨ!』

ブザーと共にアトランテォス中に侵入者排除のアナウンスが轟きだしたのだ!

「時間がありません!早くバアルの書を書き換えるのです!」

アテナ様がそう言う。
ずっと潤実とこうして居たかったのに、神は残酷だ。

しかし捕まったら私達は今度こそ最後だ!
だから潤実に次々と起こる災厄の根源、バアルの書を書き換え、潤実を救わなければならない、いや、世界を救わなければならない。

それによって世界のバランスも崩れているのだから!

「ごめんねサキュラ!私に協力してね!!」

「何水くさい事言ってるの?仲間でしょ!?」

アテナ様の手を繋ぎ、潤実の思念が見えるようになっている私は必死に潤実が走るのをついていく。

ハァハァ…!

私は体力はどちらかと言うと無くて、潤実やアテナ様についていけれなくて息を切らしてしまう。

「大丈夫?休みましょうか?」
「サキュラ!?」

私は二人のお姉さんに迷惑をかけてしまう。

「私は平気…早く急がないとならないんでしょ…?」

私は痩せ我慢する。

「仕方がありません!」


すると私は一瞬浮遊感に襲われる。
その瞬間私はアテナ様に背負われたのを知った

「アテナ様…すみません…」

「貴女がたの為ではありません、世界の命運がかかっているのです、潤実さん、気にせずに案内してください!」

潤実はコクリと頷き私を背負ってくれたアテナ様を導き走り出す。

ドゴオンッ!!

その瞬間、壁が横からぶち破られると共に何かが私達の前に放り出される。

!!!

一体何が起こったのかと立ち止まり目をパチクリさせる私達。

前には青年がボロボロの状態で横たわっていた。
何らかの兵器で吹き飛ばされたのだろうか?

「大丈夫ですか!?」

アテナ様がすぐに駆け寄り、異能で青年の傷を治療する。

よく見るとこの男はドッシュ!?

さっきは潤実がいると勘違いして女子更衣室に乗り込み、興奮状態となってブルマを頭に被せたまま走り去ったけど。

「!!潤実?アンタ捕らえられているはずじゃ!?」

ドッシュは潤実を見て驚く。

今は治療でアテナ様の手に触れられている為霊魂の状態の潤実が見えるらしい。

「そうですが私の手に触れたものは見えないものが見えるの」

実体の潤実は今デジェウスに捕らえられていて身動きが出来なくされ、責めを受けていると言う。

そこにいる潤実は霊魂の状態の潤実、半透明な為霊魂とはわかる。

「今は生き霊の状態でここにいるけど助けないと彼女はこの世から消えてしまうわ、だから急いでいるのよ!」

「しかしそっちの方向は違うぜ?」

ドッシュは首を傾げる。

「そうじゃないの、ここにはバアルの書があってそれが私達の運命、いや世界の運命を捻じ曲げているの!!」

そこで潤実が口を開く。

「何のことだ?」

ドッシュは疑問を投げかける。

「バアルの書を書き直さないと世界は間違った方向に進み、星はその反動に耐えられなくなり死んでしまいます!だからそれを書き直す為に進んでいるのです!」

アテナが続いて説明した。

「よくわからんが大変な事みたいだ、だがこっちも大変な事になってる!」

ズシンッ!

その時大柄の男が姿を現した。
褐色の肌、白い鎧、立派な白髭に銀髪を備えた男がほくそ笑んで私達の前に現れたのだ。

「この小童が、逃しはせんぞ!」

この男の目…あの江戸華喧華にも似てる…殺気を含んだ目が…!

その時アテナ様は私を降ろし、ドッシュに放つ。

「ここは私に任せてあなたがたはバアルの書を書き直しに行ってください!!」

「姉ちゃんには無理だ!ここは俺が!!」

ドッシュは止めようとするがその前にアテナ様は激しい闘気を全身から噴出させ、周囲に風を起こしその為ドレスがバタバタと踊り長い髪をなびかせた。

「私の事なら大丈夫です!せいっ!!」

アテナ様は盾でデジェウスの巨体を突く。

「ぐわあっ!!」

デジェウスは女性としてはやや長身とはいえ自分より一回り小柄なアテナの盾の突きに地に尻をつく。

「すげえ…」

ドッシュはアテナに憧れの眼差しを向けるがアテナは「急ぎなさい!」と口走った。

「ドッシュ!アテナ様に任せておきましょう」

アテナ様一人では心配なのだが、私達が手助けしたところで足手まといにしかならないしバアルの書を書き直しに向かった方が得策だと悟った私はドッシュの袖を引き、急がせようとした。

「バリア!!」

アテナ様は一瞬だけの効果のバリアを貼り、デジェウスが前に出れないようにする。

「私に触れないと潤実は見えないはず!これを持って!」

アテナは私にお守りのようなものを手渡す。

「そのお守りは私の大事なもの、なので私と同様持ち続ければ潤実さんの霊魂も見える事が出来るはず!先を急ぎなさい!!」

アテナはそう私達に諭した。

「ありがとうアテナさん!サキュラ、ドッシュ!ついてきて!!」

潤実は私達を案内しに走った。
なるほどアテナ様に触れなくてもこのお守りを持ってれば霊魂《ぬけがら》の潤実を見る事が出来る。

私達は潤実に案内されてバアルの書斎へと急いだ。
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