クトゥルフの雨

海豹ノファン

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荒れ果てた地上

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ここルルイエは海の中にあって巨大な空気で囲む膜で作られてある。

その為私達地上人も呼吸をする事が出来る。

そのルルイエの中には丘へと上がる潜水艦も備えられている。
勿論操縦をする人がいて、その人に海から上がってもらうのだけど。

「はい、500ルーエね!」

ルーエとはルルイエで使われている硬貨の単位で、日本円で13000円くらい…高いのだけど、深い海の為、それと潜水艦も高いので仕方ないと言えば仕方がない。

でも少しだけぼったくられたかな?と言う気持ちになる。

こうして潜水艦で陸地に上がる私達。
地上へ上がった私達はそれこそ愕然とした。

勿論、始めはどこか違う所に来ちゃったのかな?と思った。


しかし看板に書いてある漢字やひらがなの一部がここが日本だと思いだされる。

「酷い…アテナさんやドッシュの言ってた通り地上がこんな事になってるなんて…」

私は目前の光景が現実だと受け入れられなくて、茫然自失と突っ立ったまま目前の光景を目の当たりにする。

「潤実!あれを見なさい!」

その時サキュラが前の上空に浮かんでいる「何か」に指を指す。

「何…あれは…?」

私は何があっても特に驚きとか感じる事が出来ずただ静かに漏らす。

それは茂った緑が宙に浮いているように見えた。
苔がびっしりついている。

空飛ぶ大陸?
ラピュタを思い出すが勿論そんな事言ってられる状況じゃない…地上を滅茶苦茶にされて、真上には不気味な大陸が何やら黒いモヤを沸き立たせながら宙に浮いているのだから。

「あれは古代の宇宙船アトランテォス、遥か古、死にかけた星から脱出して古代人が人々や動物を乗せて運ばれたと言う巨大宇宙船…」

「アトランテォスってあの海に沈んだと言われるアトランテォス!?」

するとサキュラの呟いた事はルルイエで伝わっている伝説か!?

「古代宇宙船でどこか行こうとしているの?」

「いや、その主、ルルイエ皇帝デジェウスは宇宙船アトランテォスを利用して地上人、そしてルルイエ人を牛耳ろうとしている!」

そんな事言われてもピンと来ないが、何となくそれが現実なのだとすれば、大変な事になるのは何となく目に見える。

「あの様子だとまだ本格的には始動していないみたいね、でもあの船が光を放ち、始動化した時デジェウスは神となり、地上はデジェウスのものとなってしまう!」

そしてサキュラは私の手を引く。

「さあ行きましょう!インスマスとクトゥルフの戦いを終わらせるの!」

サキュラは感情のこもった強い眼差しを私に向け、私はサキュラから勇気を貰った気がした。

「うんっ!」

私は同じく気を引き締めて頷く。

「グフフアトランテォスに向かおうとしているのだな?そうはさせん!」

「!!!」

私達の目の前に多くのインスマスの群れが取り囲んできた。

「どうしよう…サキュラ…!」

私は流石に大勢だと太刀打ち出来そうにないとサキュラに問いかける。

「狼狽える必要は無い!今の貴女なら出来るはずよ、クトゥルフブレイクリーを使うの!」

サキュラが唱する。
私は確かにゼウス様から真のクトゥルフブレイクリーを教わった。

それを使えば…!

「な、なんだこの女の周りに白い綿みたいな光が舞ってやがる!?」

インスマス達が狼狽える。

「さあ今よ!」

サキュラが発する。

『クトゥルフブレイクリー!!!』

私はただ前へ走った。
するとどうだろう、インスマスから体がすり抜けてしまう。

「ど、どうなってんた!??」

私の体が彼らをすり抜けた事に驚き慌て出すインスマスの群れ。

サキュラも私と一緒で、インスマスから体がすり抜けて私と共に目標へ走って行く。

「この効果は1分!使ってしまったらしばらくは使えないわ、大事に使いなさい!」

「う、うん!」

私はインスマス達からサキュラと共にすり抜けてある場所に向かった。

そこは…。

ウイーンウイーンと響く機械音、巨大な影が空を覆い隠し、無機質な金属が代わりに空の役割を果たしているかのように私達の真上に聳《そび》え浮いていた。

私は息を飲み込んだ…あれが崩壊しそうになった星から脱出するのに用いられた古代の巨大宇宙船アトランテォス…そしてルルイエ皇帝デジェウスが神となる為に利用しようとしている災厄の魔城…!

「向こうの光の柱から私達は浮いてアトランテォスの中に忍び込む事が出来る、急ぎましょう!」

サキュラの言う通り真上から光の柱が注がれているその場所へと足を進める。

向こう側からヒュンッと物音がする。
「!!!」

背後を見ると先端の尖った何かが畝《うね》りをあげて飛んできた。
私はバリアを張り、自分とサキュラを守る。

危なかった、気づくのが遅れたら私達は間違いなく致命傷を負っていた。

傷は回復出来るけど当たりどころが悪ければ悪い程治療は遅れるしその前にこの世からバイバイする事になってしまう。

私は今クトゥルフになっているのでそれなりに五感は働く、トラテツやサキュラには全然及ばないけど。

「ボウガンのようね」

いつもの落ち着いた口調で放つサキュラだが事が深刻なのは間違いない。

「走っていきましょう、敵がすぐ目前に来ている」

私達は影の覆い尽くす中の光の柱めがけて息を切らす程の速さで走った。

「ハァ、ハァ」

ブバーッと瓦礫が崩れ落ちてくる。
白い煙と共に瓦礫が無数に降ってきてこのままでは私達は無事で済まない!

これも敵の策略!?私達がここに来るのを見計らってたの?

瓦礫が雪崩のように落ちてきて私達を生き埋めにしようとする。

私はバリアを張ろうとするがサキュラは固まったまま動けない。

このままではサキュラが!
私はサキュラに向かい走る。

そして傘を広げるようにバリアを張り、サキュラを守る。

ドドドーン!
私達は瓦礫の下敷きにはならずに済んだが目の前は真っ暗闇で温かい体温だけが私に伝う。

前が見えないので確認は出来ないが…。

「サキュラ!大丈夫?」
私はサキュラの無事を呼びかける。
「え、ええ」
良かった…サキュラが無事で、私は胸を撫で下ろした。

一体どれくらいの瓦礫が降ってきたかわからない。
勿論、ずっとこんな所にいるわけにいかない!

「メイルストローム!!」

私は瓦礫を破壊し、何とか外へ出る事が出来た。
しかし本当に死ぬ所だった。

呼吸は出来なくなるしバリアは張っているものの破片に当たりそうになるがサキュラが無事なのは何よりも救いだ。

地上に出られたは良いが目前にはインスマスの群れが取り囲んできた。

「この力はクトゥルフブレイクリーか…しかし我々に取り囲まれたらもう逃げ場は無いぜ!」

不敵な笑みを浮かべて獲物を捕らえたと勝ち誇った様子で私達を捕まえようとするインスマス達。

「仕方ないわね、私が囮になるしか…」

サキュラはそう呟くと着ていたミニドレスをハラリと地に降ろした。

「な、何するつもりなの!?」

私は正直サキュラが気でも触れたのでは無いかと気が動転する。

「潤実、こいつらを片付けたら私もすぐに向かう!貴女は早く光の柱に入りなさい!」

サキュラは急かせる。
敵達は何故かサキュラに夢中になっており私には目もくれない。

これはサキュラの異能か!?
私はサキュラの異能は初めて見たがよく見るとサキュラの体から淡い光が放たれている。

(早く急ぎなさい!さもないと貴女まで魅了されて取り返しのつかない事になるわ!)

サキュラがテレパシーで私に強く怒鳴った。
私はサキュラの言う通り、光の柱の中に入り、空中から放たれる光を浴びる。

するとどうだろう、私の体が宙に浮き出すではないか!

上から確認するとサキュラの周りはインスマス達が取り囲んでいて何やらヘラヘラ笑いながらサキュラを襲っているようだった。

サキュラ!
私はサキュラを助けに行こうとしたがいつのまにかそこに壁が出来ていて外に出る事が出来なかった。

そして私は丸い光のなかに吸い込まれ、アトランテォスの内部に移動させられた。

サキュラSIDEーーー

敵はかなり多い…全員は対処しきれないかも知れない…敵は私のフェロモンにすっかり酔い、私にしか手を出せないようになっている。

フェロモンで理性を失い私を襲う獣《インスマス》達、私の体は次々と汚れていく中で獣達の生命力を去っていく。

生命力を吸われた獣は干からびたゾンビのようになり、大地と同化するが生きている奴らはそれを気にせずに早く早くと私の体を求めてくる。

海溝潤実…貴女に人身御供になってもらうわよ!

「スピチュアルハーツ!!!」

私はスキルスピチュアルハーツを放ち、海溝潤実のこれまでの痴態を目に焼き付け、自分に熱い思いを取り入れた。

これによって媚薬の効果を得られて生気が消失せずに済む。
男達は私を襲いだしては倒れていく。

しかし思いの外敵は多く私はスピチュアルハーツで欲を高めても対処しきれない程体力も精神も疲弊しだす。

駄目…このままでは…!

私は生命力を吸い取る力を失いただ狂った獣の餌食となり矢継ぎ早に獣達に穢され、搾取されるただの生きる人形と化した。

獣は私を襲うが私に生気を吸い取られるどころかますます盛んになり、逆に私は異能も力尽きてただの生きる屍も同然だった。

何無理してたんだ…早く終わって…。

そう願っていた時に恐れていた事が現実のものになってしまった。
それは獣が私の首に手をかけて締めようとしていたのだ。

「まだ俺らは終わってないのに気を失いちまった!」

「首でも締めりゃ良くなるって言うぜ!」
「へへっいっちょやってみるか!」

締めてくる手の力は強くなっていく。

「ぐ、ぐがっ!」

締め付けられる首、私は言うまでもなくその男の手を掴み離そうと抵抗し、足をバタバタさせるが男は殺気立った表情を変えず私のもがく姿に更に興奮したのか、手の加える力は益々強くなる。

他のインスマス達も興奮して猛る。
私のスキル「魅惑の鱗粉」は誘惑には絶大な効果を発揮するが私の「ライフティイート」も無限に活用出来るわけではなく、人の体力や精神力と一緒で疲弊し尽き果ててしまう事もある。

魅惑の鱗粉だけは加減するんだったわ!
こうなった場合魅惑の鱗粉はむしろ諸刃の剣じゃない!

私はここで死んでしまうの!?
KEIさん助けて!!

その時、私を狂ったように弄んでいた目の前のインスマスが突然横に吹き飛ばされる。

手の首は離され解放されたが私は首の痛みから咳き込むと同時に液体を噴き出す。

命拾いした…生温かい風が吹いたように感じたけど…一体何が起こったの?

その瞬間は私にも何が起こったのかわからなかった。

「大丈夫か?」

いつのまにか私の前にいたのは黒装束に猫耳の生えた切れ長の目の青年だった。

この男はあのゼウスの像を壊しトラテツの仇と言い海溝潤実にお礼参りに来た黒猫のインスマス!

「貴方はドッシュ…」

私はドッシュを見上げた。
当のドッシュは私の汚れた姿を見て少し顔をしかめている。

「まさか貴方が助けに来てくれるなんてね…」

「ああ、あの時はすまない…」

ドッシュはあの時の事を詫びる。

「良いわ、それより潤実がアトランテォスの内部に侵入したとこよ、私は彼女と合流しないといけない、貴方も手伝ってくれるわよね?」

「勿論だ、トラテツさんの仇どころかトラテツさんを助けてくれた恩人なんだ、無視なんて出来ねえよ!」

ドッシュは答えた。

私は起き上がり汚れた身体を水で洗い流しドレスに着替えるとドッシュと共に光の柱を浴び潤実の向かったアトランテォスの内部へと潜り込んだ。
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