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王弟の暗殺計画
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「金が目的なら、王都の私の別邸まで来い。好きなだけくれてやる」
シリウスは注意深く剣を構えたまま淡々と述べた。
「俺たちゃ、金だけじゃねえんだよ」
三人の中で一際体格の良い男がハッと鼻を鳴らした。彼が三人の中で主格となっているのだろう。
「悪いが王弟殿下、俺達が欲しいのは、あんたの命なんだ」
確かにシリウスを王弟と呼んだ。
山賊がたまたま居合わせた貴族の身包みを剥がそうなどといった目的ではない。
明らかに王弟の命を狙っての蛮行だ。
「誰の差し金だ? 」
シリウスが今日、遠乗りすることは、一部の王宮にいる者しか知らない。即ち、身近な人間が仕掛けたのだ。
「それは言えねえな」
男はニタニタ笑うと、ナイフの刃先をシリウスの顎先へと向けた。
互いに距離を保ち、相手の出方を待つ。
むやみやたらに仕掛ければ隙をつかれ、あっという間に血潮が吹く。
護衛の敗因はそれだ。
シリウスは相手の一見すると荒々しい雰囲気に隠された隙のない動きをすぐさま読み取り、警戒心を張る。
「殿下! 」
アイリーン堪らずに彼を呼ぶ。
「大丈夫だ」
彼女には目も呉れず、シリウスは敵を睨みつけた。
「なかなか、良い動きじゃねえか」
男はシリウスとの距離を測りながら、ニヤニヤと笑う。
「だがな、俺達は今は山賊だかな。傭兵崩れ。実戦では負けはしねえよ」
やはり、単に金に釣られた山賊ではない。男らは死闘を潜り抜けてきた威勢があった。
「あんたみたいに、城の庭で優雅に剣を振るってるんじゃねえんだよ」
経験が桁違いだ。
幾らシリウスが剣術を身につけたところで、命を賭けたゆえの抜け目のなさや醜さは備わってはいない。
「血生臭い中を歯を食い縛って生き延びたからな」
越えがたい壁がある。
「くっ! 」
シリウスもそのことは自覚しており、悔しさに奥歯を噛み締めた。
「殿下! 後ろ! 」
アイリーンが悲鳴を上げた。
ハッとシリウスが真後ろを向く。
実戦には卑怯も何もない。命あってこそ。殺るか、殺られるか。騎士道精神など、愚行に他ならない。
残り二人に背後を取られたシリウスは、まさに袋の鼠だ。
「何だ、女もいるのか」
男らはアイリーンに気づいた。
その顔が下品に歪む。彼らが何を考えているのかは明白だった。
「やめろ! アイリーンに手を出すな! 」
シリウスは憤怒する。
彼の背後を取っていた二人は、ずんずんとアイリーンに近寄るなり、そのほっそりした手首を掴んだ。
生臭い息がアイリーンの顔面に吹きかかる。背けた顎を掴まれ、無理に向きを直された。今度は鼻先すれすれを息が掠める。
「なかなか上玉じゃねえか」
「俺達がたっぷり味見してから、娼館に売り渡してやるか」
恐怖でアイリーンは動くことすら出来ない。螺子の壊れたゼンマイのように、ガタガタガタガタと体が小刻みに揺れるばかり。
男らはそれすら楽しみ、下卑た笑い声をあげる。
「やめろ! 」
シリウスの気が削がれた。
主格の男は見逃さない。
すぐさま刃先がシリウスの喉元に目掛けた。
「い、いや! 」
アイリーンはしゃがみ込むなり、地面の砂を両手で引っ掴んだ。
元々砂礫地になっている場所であるから、細かい砂の粒子が豊富にある。
「ぐおっ! 」
アイリーンは怯むことなく男らの眼球めがけて砂を撒き散らした。
「め、目潰しか! 生意気な! 」
まともに砂を食らって、男らはひっくり返り、のたうち回る。相手が貧弱な女だと侮っていたがゆえ、突然の反撃は大きなダメージとなる。
「殿下! こちらへ! 」
易々と隙が生まれた。
突拍子のないことに、敵の主格の男も狼狽え、余地を与えてしまう。
シリウスは手を差し伸べてきたアイリーンを掴み、握り返すと、身を翻し共に逃げ出した。
シリウスは注意深く剣を構えたまま淡々と述べた。
「俺たちゃ、金だけじゃねえんだよ」
三人の中で一際体格の良い男がハッと鼻を鳴らした。彼が三人の中で主格となっているのだろう。
「悪いが王弟殿下、俺達が欲しいのは、あんたの命なんだ」
確かにシリウスを王弟と呼んだ。
山賊がたまたま居合わせた貴族の身包みを剥がそうなどといった目的ではない。
明らかに王弟の命を狙っての蛮行だ。
「誰の差し金だ? 」
シリウスが今日、遠乗りすることは、一部の王宮にいる者しか知らない。即ち、身近な人間が仕掛けたのだ。
「それは言えねえな」
男はニタニタ笑うと、ナイフの刃先をシリウスの顎先へと向けた。
互いに距離を保ち、相手の出方を待つ。
むやみやたらに仕掛ければ隙をつかれ、あっという間に血潮が吹く。
護衛の敗因はそれだ。
シリウスは相手の一見すると荒々しい雰囲気に隠された隙のない動きをすぐさま読み取り、警戒心を張る。
「殿下! 」
アイリーン堪らずに彼を呼ぶ。
「大丈夫だ」
彼女には目も呉れず、シリウスは敵を睨みつけた。
「なかなか、良い動きじゃねえか」
男はシリウスとの距離を測りながら、ニヤニヤと笑う。
「だがな、俺達は今は山賊だかな。傭兵崩れ。実戦では負けはしねえよ」
やはり、単に金に釣られた山賊ではない。男らは死闘を潜り抜けてきた威勢があった。
「あんたみたいに、城の庭で優雅に剣を振るってるんじゃねえんだよ」
経験が桁違いだ。
幾らシリウスが剣術を身につけたところで、命を賭けたゆえの抜け目のなさや醜さは備わってはいない。
「血生臭い中を歯を食い縛って生き延びたからな」
越えがたい壁がある。
「くっ! 」
シリウスもそのことは自覚しており、悔しさに奥歯を噛み締めた。
「殿下! 後ろ! 」
アイリーンが悲鳴を上げた。
ハッとシリウスが真後ろを向く。
実戦には卑怯も何もない。命あってこそ。殺るか、殺られるか。騎士道精神など、愚行に他ならない。
残り二人に背後を取られたシリウスは、まさに袋の鼠だ。
「何だ、女もいるのか」
男らはアイリーンに気づいた。
その顔が下品に歪む。彼らが何を考えているのかは明白だった。
「やめろ! アイリーンに手を出すな! 」
シリウスは憤怒する。
彼の背後を取っていた二人は、ずんずんとアイリーンに近寄るなり、そのほっそりした手首を掴んだ。
生臭い息がアイリーンの顔面に吹きかかる。背けた顎を掴まれ、無理に向きを直された。今度は鼻先すれすれを息が掠める。
「なかなか上玉じゃねえか」
「俺達がたっぷり味見してから、娼館に売り渡してやるか」
恐怖でアイリーンは動くことすら出来ない。螺子の壊れたゼンマイのように、ガタガタガタガタと体が小刻みに揺れるばかり。
男らはそれすら楽しみ、下卑た笑い声をあげる。
「やめろ! 」
シリウスの気が削がれた。
主格の男は見逃さない。
すぐさま刃先がシリウスの喉元に目掛けた。
「い、いや! 」
アイリーンはしゃがみ込むなり、地面の砂を両手で引っ掴んだ。
元々砂礫地になっている場所であるから、細かい砂の粒子が豊富にある。
「ぐおっ! 」
アイリーンは怯むことなく男らの眼球めがけて砂を撒き散らした。
「め、目潰しか! 生意気な! 」
まともに砂を食らって、男らはひっくり返り、のたうち回る。相手が貧弱な女だと侮っていたがゆえ、突然の反撃は大きなダメージとなる。
「殿下! こちらへ! 」
易々と隙が生まれた。
突拍子のないことに、敵の主格の男も狼狽え、余地を与えてしまう。
シリウスは手を差し伸べてきたアイリーンを掴み、握り返すと、身を翻し共に逃げ出した。
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