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第四章 逆襲
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「また、いちゃいちゃしたくなったの? 」
マスターはグラスの曇りを布巾で拭いながら、にやにやと笑いかけた。当初に比べ、随分と砕けた口調だ。まだ常連の死亡を知らないのか。それとも、知っていて敢えて平然を装っているのだろうか。長谷部の死に、関連があるのだろうか。憶測が頭の中を廻った。
「この間はごめんなさいね。監視してること、気付いてたんでしょ? 」
マスターはあっさりと白状し、詫びた。
「うちの店、社会的地位のある客も結構いるでしょう。マスコミの連中が潜り込むこともしょっちゅうなのよ」
それら疑わしい者を燻り出す部屋だったというわけか。血の気が引いた。まさか刑事だとバレてしまったのだろうか。脳内を、秋葉との卑猥な行為が蘇る。マスターは、それをネタに強請ることも可能なのだ。一転して拙い状況になってしまった。
途方に暮れる俺とは打って変わって、秋葉は平然とワイングラスを弄びながら、行儀悪くカウンターに肘をついた。あくまで、遊び人風情を崩さないつもりだ。
「で、俺らの疑いは晴れたわけ? 」
「まあね」
マスターは即答する。
「少なくとも、厄介な連中じゃないってことはね」
取り敢えず短い会話の内容から判断して、刑事だとはバレていないようだ。こめかみに浮いた脂汗を拭った。
「あの長谷部って子は常連? 」
秋葉はさりげなさを装い、本題に入った。
「長谷部ちゃんね。そうね、二年程前からちょくちょく顔を見せるようになったわね」
「でも彼氏がいるんだろ。なのに、男漁りに来てたのか? この間の様子からだと、彼氏とはかなりいい雰囲気みたいに思えたけど」
「それがねえ」
マスターは言葉を濁し、困ったように息を吐いた。
「その彼氏、何か拙いことに関わってたようで、逃げ回ってるんですって。どうやら今、女に囲われてるらしくて」
「『長谷部ちゃん』のところじゃなくて? 」
「そうよ。巧いこと言って長谷部ちゃんとの縁を繋げておきながら、ちゃっかり女のところに転がり込むなんて。最低な奴よね」
マスターは鼻息を荒くし、心底憤っている。
つまり沢渡は、長谷部の部屋を出ているということだ。
「その女っての、気になりますね」
耳元でこっそりと告げた俺の意見に、秋葉は小さく頷く。
「女の名前とか聞いてない? 」
「さあ? 長谷部ちゃん、よく愚痴ってたけど。そこまでは」
一から出直しだ。掴んだと思った手掛かりが、あっと言う間に遠退いた気分になる。急に口寂しくなって、煙草を斜めに咥える。振り出しに戻る前に一服して気を落ち着けたかった。どうやら禁煙出来そうにない。
マスターはグラスの曇りを布巾で拭いながら、にやにやと笑いかけた。当初に比べ、随分と砕けた口調だ。まだ常連の死亡を知らないのか。それとも、知っていて敢えて平然を装っているのだろうか。長谷部の死に、関連があるのだろうか。憶測が頭の中を廻った。
「この間はごめんなさいね。監視してること、気付いてたんでしょ? 」
マスターはあっさりと白状し、詫びた。
「うちの店、社会的地位のある客も結構いるでしょう。マスコミの連中が潜り込むこともしょっちゅうなのよ」
それら疑わしい者を燻り出す部屋だったというわけか。血の気が引いた。まさか刑事だとバレてしまったのだろうか。脳内を、秋葉との卑猥な行為が蘇る。マスターは、それをネタに強請ることも可能なのだ。一転して拙い状況になってしまった。
途方に暮れる俺とは打って変わって、秋葉は平然とワイングラスを弄びながら、行儀悪くカウンターに肘をついた。あくまで、遊び人風情を崩さないつもりだ。
「で、俺らの疑いは晴れたわけ? 」
「まあね」
マスターは即答する。
「少なくとも、厄介な連中じゃないってことはね」
取り敢えず短い会話の内容から判断して、刑事だとはバレていないようだ。こめかみに浮いた脂汗を拭った。
「あの長谷部って子は常連? 」
秋葉はさりげなさを装い、本題に入った。
「長谷部ちゃんね。そうね、二年程前からちょくちょく顔を見せるようになったわね」
「でも彼氏がいるんだろ。なのに、男漁りに来てたのか? この間の様子からだと、彼氏とはかなりいい雰囲気みたいに思えたけど」
「それがねえ」
マスターは言葉を濁し、困ったように息を吐いた。
「その彼氏、何か拙いことに関わってたようで、逃げ回ってるんですって。どうやら今、女に囲われてるらしくて」
「『長谷部ちゃん』のところじゃなくて? 」
「そうよ。巧いこと言って長谷部ちゃんとの縁を繋げておきながら、ちゃっかり女のところに転がり込むなんて。最低な奴よね」
マスターは鼻息を荒くし、心底憤っている。
つまり沢渡は、長谷部の部屋を出ているということだ。
「その女っての、気になりますね」
耳元でこっそりと告げた俺の意見に、秋葉は小さく頷く。
「女の名前とか聞いてない? 」
「さあ? 長谷部ちゃん、よく愚痴ってたけど。そこまでは」
一から出直しだ。掴んだと思った手掛かりが、あっと言う間に遠退いた気分になる。急に口寂しくなって、煙草を斜めに咥える。振り出しに戻る前に一服して気を落ち着けたかった。どうやら禁煙出来そうにない。
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