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悪意ある甘さ

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 カッと燃えるような熱さが食道を伝っていく。
 口内いっぱいに広がる、胸焼けするくらいの甘さ。まるで生クリームをぎゅうぎゅうに丸めて喉奥に押し込められたような、危険な感覚。
「どう? 」
 イメルダが興味津々で覗き込んできた。
「甘いわ」
 それ以外に感想のないマチルダは、この上なく顔をしかめる。
「でしょうね」
 澄ましてイメルダは返した。
「そ、それに何だか体が燃えるように熱いわ。な、何なの、これは」
 火だるまになったんじゃないかと疑うくらい、体温が上昇していく。爪先から頭のてっぺんまで、最早、四十度近くありそうなくらいに熱い。
 熱くて熱くて、マチルダは思わずドレスの胸元をくつろげた。
 脈拍も異常をきたし、血の巡りが速くなっていた。あらゆる血管が膨張している。じきに、パンと弾けて血飛沫が上がりそうなくらいに。
「た、ただのお酒じゃないわ。何なの、これは」
 良薬は苦しと言うが、これは真反対だ。
 甘い、甘過ぎる。
 血肉が危険な味を取り込むことを拒絶していた。
「よくわかったわね」
 くらくらする意識の向こう側で、ゾッとするくらいに冷たいイメルダの声。
「そうよ。これは違法薬物の入ったお酒よ」
 世界が反転する。
「とんでもない媚薬入りの」
 イメルダの声が反響した。
「や、やだ。体が」
 マチルダは堪え切れず、その場に蹲る。
 膝が戦慄き、直立することすら出来ない。
 下着が濡れて、尿とはまた違うぬめりが太腿から脛へ垂れて、床に黒い染みを幾つも作った。
 ぬるついた液体は止まらない。
 子宮がただならぬ悲鳴を上げている。今にも弾け飛びそう。
「でしょうね。もう下着がぐっしょりでしょう? 」
「ど、どうしたらいいの」
「あなた一人じゃ解決出来ないわね」
 言うなりイメルダは意味深にアンサーを一瞥する。
 マチルダの異常な変わりようを、鼻息を荒くして凝視していたアンサーは、イメルダの視線にハッと我に返った。
「ぼ、僕は嫌だよ、もう。殴り倒されるのは御免だ」
 トラウザーの前部分を手で隠して、いやいやとアンサーは首を横に振った。
「意気地なし」
 興奮具合は隠しようがないのに。それでもマチルダに手を出すことを頑なに拒否するアンサーを、イメルダは侮蔑するように睨みつけた。
 アンサーは肩幅を縮めて俯く。
「仕方ないわね。伯爵家のご子息に何とかしていただいたら? 」
 イメルダは意地悪く笑うと、マチルダへ提案する。
「とことん淫乱な姿を見せて。ご子息に嫌われたら良いのよ」
 これこそが、イメルダの狙いだ。
 彼女は、妹が自分より格上と付き合うことが面白くないのだ。
「あのご子息は誠実そうだったもの。マチルダのあんまりな痴態に幻滅するでしょうね」
 イメルダは言葉とは正反対の、まるで天使のように穏やかな微笑を携え、鈴の音を思い起こさせる声を揺らした。
「ああ。楽しみだわ」
 悪意ある笑いが室内に響いた。
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