10 / 114
愚かな娘
しおりを挟む
「迂闊なことをしたな」
ローレンスの館の主人は、率直に述べた。
「幾ら姉の婚約者といえど、易々と男を自分の寝室に入れるとはな」
漆黒の切れ長の目つきは、今や呆れたように垂れ下がってしまっている。その眼差しは、まさに幼い子供に向ける教育者そのもの。
上から目線の愉し方に、ムッとマチルダは口を尖らせた。
正当な意見であるから、尚更、腹立たしい。
「君は男に対して全く警戒心というものがない」
「いちいち指摘されなくても、わかっております」
「いや。何もわかっていない」
断言される。
「君はまだ理解していないようだな」
「え? 」
不意に頭上に影が出来た。
マチルダの顔に緊張が走ったときには、すでに男に肘を掴まれてしまっていた。
男は上背があるから、上半身を乗り出されたら、まるで覆い被さられているような錯覚さえする。
「は、離して! な、何をなさるの! 」
上下に振れば、あっさりと戒めは解かれた。
触れられた個所がジンジンと熱を持った。男は一切力を入れていないのに。大きくて逞しい手だ。ところどころ、剣だこまで出来ている。物凄い力を隠し持っているのは一目瞭然。ナイフとフォーク以外に重い物など持たない主義のアンサーとは、比べ物にならない。
「私も男なんだよ、マチルダ」
ニコリともせず、大真面目な顔で男は言い切る。
「な、馴れ馴れしくファーストネームで呼ばないで」
ぷいと顔を背けるマチルダ。耳朶まで赤く染まってしまっている。
「やはり、か」
男の目がギラギラと光った。
「君、処女だろう? 」
問いかけではない。明らかな確信を持って放たれた指摘。
「なっ! 」
あまりの不躾さに、マチルダは絶句した。
「図星か」
彼女の反応に答え合わせして、男は顎を撫でながら何やらうんうんと頷いている。
ここで違うと反発したところで、何もかも見透かす男の目から逃れることは出来そうにない。マチルダは悟った。
下手をすれば、卑猥な質問攻めに遭いかねない。
ほんの僅かな時間で、マチルダは男の本性を見抜いていた。
言い返せない悔しさでいっぱいになり、マチルダは太腿の上で拳を作ると、小刻みに震わせる。
それが余計に相手を楽しませているとも知らずに。
「妙だと思ったんだ。どうも奥手過ぎる。私が手を触れだけで、いちいち飛び上がるのだからな」
「べ、別に飛び上がってなど」
「いや、確かだよ。靴先が三センチは浮いていた」
「そ、そんなわけないでしょ! 」
「どうだかな」
男はニタリと唇だけ吊って笑う。
「きゃっ! 」
マチルダの尻がソファから浮いた。
テーブル越しににゅっと伸びた手が、マチルダの右頬に触れたからだ。
「ふうん。それなら、これは」
「ちょっ、やだ」
今度は顎をくすぐられる。
「これは? 」
「きゃあ」
耳の軟骨を指先が這った。
これほどまでに、異性に体を触れさせたことなんてない。
彼の触れた後がじんわりと熱を持っていく。
「か、揶揄うのもいい加減にしてちょうだい」
いつまでも弄ばれてなるものか。
とうとうブチ切れて、マチルダは男の手の甲をぴしゃりと叩いた。
「君の反応を確かめたまでだ」
至極当然のような物言いに、マチルダは最早我慢も限界で、容赦なく男の頬に平手を打ち込んだ。
ローレンスの館の主人は、率直に述べた。
「幾ら姉の婚約者といえど、易々と男を自分の寝室に入れるとはな」
漆黒の切れ長の目つきは、今や呆れたように垂れ下がってしまっている。その眼差しは、まさに幼い子供に向ける教育者そのもの。
上から目線の愉し方に、ムッとマチルダは口を尖らせた。
正当な意見であるから、尚更、腹立たしい。
「君は男に対して全く警戒心というものがない」
「いちいち指摘されなくても、わかっております」
「いや。何もわかっていない」
断言される。
「君はまだ理解していないようだな」
「え? 」
不意に頭上に影が出来た。
マチルダの顔に緊張が走ったときには、すでに男に肘を掴まれてしまっていた。
男は上背があるから、上半身を乗り出されたら、まるで覆い被さられているような錯覚さえする。
「は、離して! な、何をなさるの! 」
上下に振れば、あっさりと戒めは解かれた。
触れられた個所がジンジンと熱を持った。男は一切力を入れていないのに。大きくて逞しい手だ。ところどころ、剣だこまで出来ている。物凄い力を隠し持っているのは一目瞭然。ナイフとフォーク以外に重い物など持たない主義のアンサーとは、比べ物にならない。
「私も男なんだよ、マチルダ」
ニコリともせず、大真面目な顔で男は言い切る。
「な、馴れ馴れしくファーストネームで呼ばないで」
ぷいと顔を背けるマチルダ。耳朶まで赤く染まってしまっている。
「やはり、か」
男の目がギラギラと光った。
「君、処女だろう? 」
問いかけではない。明らかな確信を持って放たれた指摘。
「なっ! 」
あまりの不躾さに、マチルダは絶句した。
「図星か」
彼女の反応に答え合わせして、男は顎を撫でながら何やらうんうんと頷いている。
ここで違うと反発したところで、何もかも見透かす男の目から逃れることは出来そうにない。マチルダは悟った。
下手をすれば、卑猥な質問攻めに遭いかねない。
ほんの僅かな時間で、マチルダは男の本性を見抜いていた。
言い返せない悔しさでいっぱいになり、マチルダは太腿の上で拳を作ると、小刻みに震わせる。
それが余計に相手を楽しませているとも知らずに。
「妙だと思ったんだ。どうも奥手過ぎる。私が手を触れだけで、いちいち飛び上がるのだからな」
「べ、別に飛び上がってなど」
「いや、確かだよ。靴先が三センチは浮いていた」
「そ、そんなわけないでしょ! 」
「どうだかな」
男はニタリと唇だけ吊って笑う。
「きゃっ! 」
マチルダの尻がソファから浮いた。
テーブル越しににゅっと伸びた手が、マチルダの右頬に触れたからだ。
「ふうん。それなら、これは」
「ちょっ、やだ」
今度は顎をくすぐられる。
「これは? 」
「きゃあ」
耳の軟骨を指先が這った。
これほどまでに、異性に体を触れさせたことなんてない。
彼の触れた後がじんわりと熱を持っていく。
「か、揶揄うのもいい加減にしてちょうだい」
いつまでも弄ばれてなるものか。
とうとうブチ切れて、マチルダは男の手の甲をぴしゃりと叩いた。
「君の反応を確かめたまでだ」
至極当然のような物言いに、マチルダは最早我慢も限界で、容赦なく男の頬に平手を打ち込んだ。
33
お気に入りに追加
442
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R18】殿下!そこは舐めてイイところじゃありません! 〜悪役令嬢に転生したけど元潔癖症の王子に溺愛されてます〜
茅野ガク
恋愛
予想外に起きたイベントでなんとか王太子を救おうとしたら、彼に執着されることになった悪役令嬢の話。
☆他サイトにも投稿しています
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
つがいの皇帝に溺愛される幼い皇女の至福
ゆきむら さり
恋愛
稚拙な私の作品をHOTランキング(7/1)に入れて頂き、ありがとうございます✨ 読んで下さる皆様のおかげです🧡
〔あらすじ〕📝強大な魔帝国を治める時の皇帝オーブリー。壮年期を迎えても皇后を迎えない彼には、幼少期より憧れを抱く美しい人がいる。その美しい人の産んだ幼な姫が、自身のつがいだと本能的に悟る皇帝オーブリーは、外の世界に憧れを抱くその幼な姫の皇女ベハティを魔帝国へと招待することに……。
完結した【堕ちた御子姫は帝国に囚われる】のスピンオフ。前作の登場人物達の子供達のお話に加えて、前作の登場人物達のその後も書かれておりますので、気になる方は是非ご一読下さい🤗
ゆるふわで甘いお話し。溺愛。ハピエン♥️
※設定などは独自の世界観でご都合主義となります。
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる