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魅惑の手法

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「まあ、良いわ。あなたがそこまで覚悟出来ているなら」
 気を取り直したように、ユリアンは急に声を弾ませた。
「ちょっと待って」
 行儀悪くスコーンを一口で頬張ると、指先についた粉を舐めてから、立ち上がる。
「確かサイズを間違えて買ってしまったものがあるのよ」
 言うなり、ワードローブの二段目の引き出しを抜いた。
「ほら! 見て! 」
 取り出したのは、黒く透けたレース素材の布切れ。
 最初は手芸の材料かと思った。
 だが、ユリアンが広げてみせたそれに、リリアーナはギョッと目を剥き、咄嗟に立ち上がった。
 弾みでテーブルのカップが、がちゃんとぶつかり合う。
「こ、ここここれは! 」
 声がひっくり返ってしまった。
「初夜に身につけるために買っておいたの」
 手芸材料かと思われた薄い布切れは、あろうことか夜着の形状をしていた。
 が、リリアーナの知る夜着ではない。
 ひらひらの透けた素材は、肌を隠すどころか剥き出しにしている。本来の役割を果たしていない。パッと見ただけだが、隠さねばならぬところこそが表に出てしまっている。
 ユリアンは、ドレスの上からリリアーナの体にそれを当てて確かめる。
「リリアーナ、あなた胸が小さいからピッタリじゃない? 」
「貧乳で悪かったわね」
「兄さんの好みよ」
「そうなの? 」
 そんな卑猥な情報は知りたくなかった。
「これを身につけて、押しかけなさい」
 ユリアンが提案する。
 リリアーナは自分の髪色に負けないくらいに顔を赤らめた。
「嘘でしょ」
「いえ。本気で提案してるの」
「これ、夜着でしょ? いつ着替えるの? 」
「そんなもの、ドレスの下に着込んでいなさい」
「ゴワゴワするわ」
「文句言わないの」
 ユリアンは人の悪い笑みを寄越す。面白くて堪らないと言わんばかりに。
 そんな彼女に相反して、リリアーナはむっつりと黙り込んだ。


 リリアーナはなかなか衝立の向こう側から姿を現さない。
 衝立の鶴の絵も、あんまり待ちくたびれて首が倍に伸びてしまったようにさえ見えてくる。
 リリアーナは衝立から顔だけ出して、弱々しい溜め息をついた。
「ね、ねえ? これは幾ら何でも攻め過ぎじゃない? 」
「大丈夫よ」
 言うなり、ユリアンはリリアーナの手首を掴むと、衝立から引き摺り出した。
「ああ、ズロースは脱ぐのよ」
「そ、そんなことしたら見えてしまうわ」
「どうせ最後には全部脱ぐでしょ」
「そ、そうだけど」
 体の三分の二が露出した夜着にもじもじしているうちに、ズロースを下げられる。
 布切れから半分はみ出したのは、三角形に薄く生えた和毛。リリアーナは前屈みになって、出来る限りユリアンの視線をそこから逸らそうと試みる。
「ほら、胸を隠したら駄目よ。サイズが合ってるか確かめるから」
 乳房を隠した両腕の枷を、強引に解かれた。
 ユリアンの目に、リリアーナのほぼ全裸が晒されてしまった。
 ユリアンはレディにあるまじき、ヒュウと口笛を鳴らす。
「あなた、なかなか良い体つきじゃないの」
 胸の貧弱さばかり気にしているが、それさえ目を瞑れば、腰はほっそりしているし、腹の肉もスッキリしている。臍の形も縦型で申し分なし。乳首はツンと尖って可愛らしい薄ピンク。何より脚がすっと長い。これほどの抜群がドレスに包み隠されていたなんて。
 そこには、何故か、あるはずの銃弾の痕が消えていた。
「こ、これ。薄っぺらい布切れよ。胸の先が透けてるじゃない。乳房なんて、ほとんど丸出し。下なんて、半分以上出てるわ」
「それが良いの」
「だけど」
「何よ? 私のセンスにケチつける気? 」
「そ、そういうわけじゃないけど」
 弱り切ってリリアーナは眉尻を下げた。
 ザカリスに体を差し出す決意は、単なる思いつきではない。覚悟を持っている。
 だが、いざ実行するとなると、躊躇いのほうが勝るのだ。
「リリアーナ。さっきの度胸はどうしたの? 」
 ユリアンが発破をかけてくる。
「そ、そうね」
 リリアーナはごくりと唾を飲み下すと、どんと強めに拳で胸を叩いた。
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