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仮面舞踏会の夢
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サーフェスは周りの紳士と一線を画している。
燕尾服に身を包んだ彼は、恐怖するくらいにハンサムだ。琥珀の瞳は、マーレイを捉えて離さない。
幾度か彼と体を重ねたが、そのときよりもずっと官能的で、そして油断ならない。優しい微笑の裏には悪魔のような何かが潜んでいる。
彼の視線によって裸に剥かれているような、気恥ずかしいような恐ろしいような、奇妙な感覚になる。
「レディ、どうぞ」
サーフェスはワルツの輪の中へとマーレイを誘った。
まるで呪文のようなメロディが耳に染みて、体はいつになくギクシャクと強張っている。
淑女としての振る舞いを徹底されていたマーレイは、ダンスの腕前は言うことなしだったが、今回は違う。
サーフェスは、数年前まで平民だったとは思えないくらいに巧みだ。
彼にリードされ、逞しい腕に支えられて、自信たっぷりに導かれ、二人は軽やかにステップを踏む。
二人を包む甘さに、周囲の人々は感嘆の息を吐く。
マーレイはうっかり自分がジゼルに成り切ることを忘れそうになった。
彼に縋りつき、会いたかったと泣き出してしまいそうになる。
自分から関係を絶ったはずなのに、未練は堆く積もり、今にも崩れて吐き出してしまいそうだ。
やや熱気を帯びた彼の手のひらがいけない。
触れ合った部分から熱さがイブニンググローブ越しに伝わってくる。
「ダンスがお上手なのね」
喉がからからになり、危うくサーフェスの名前を呼びそうになったマーレイは、慌てて別のことに意識を飛ばす。
「付け焼き刃ですよ」
「まあ。とんでもないわ」
我ながら白々しい会話だ。
彼が何故、ダンスを申し込んできたのかすら、聞けない。
蜂蜜に群がる蟻のような男らに困惑する娘を、少しばかり揶揄ってみたのだろうか。
「君は……」
「ジゼルですわ。公爵」
マーレイは緩く微笑んだ。
今夜はジゼルに成り切ると決めた。
「ジゼル? 」
サーフェスは形の良い眉を寄せる。鼻から上が仮面に覆われているので、表情の全貌は読めない。
「マーレイを通じて、お花やお手紙はいただいておりますわ」
「そ、そうか。気に入ってもらえるに越したことはないが」
「男の方からあのような花束をいただいたのは、初めてですわ」
口元に笑みを作れば、腰に回された手に力が入った。
彼と触れ合うときは恋愛指南をしていたときばかりだったから、このように優しくダンスを踊るなんて、信じられない。
前回の仮面舞踏会はパートナーのバルモアに拒絶され、一人虚しく壁と一体化していたから。
あの頃は、まるで拷問のような時間だった。
バルモアはフローレンスを始めとして、若い娘とダンスを楽しんでいる。
婚約者であるマーレイのことなど、頭の隅にも存在していないと言わんばかりに。
ずっと夢を見ていた。
自分だけの王子様と、このように優雅に大広間でステップを踏むことを。
「白珊瑚のイヤリングがよく似合っているね」
ジゼルの耳朶で、かすみ草のイヤリング飾りがゆらゆら揺らめいた。
マーレイのときに、彼の前でこのイヤリングをつけたことはあるものの、朴念仁の彼は気づきもしていないはず。
ジゼルが初めてサーフェスと出会ったときにつけていたイヤリングだ。
かすみ草の花言葉は「幸福」「永遠の愛」。
たとえ今夜を最後に別れてしまうことになろうと、彼への愛は永遠に胸に刻み込んでおく。
そう誓いながら、マーレイはかすみ草のイヤリングを揺らした。
燕尾服に身を包んだ彼は、恐怖するくらいにハンサムだ。琥珀の瞳は、マーレイを捉えて離さない。
幾度か彼と体を重ねたが、そのときよりもずっと官能的で、そして油断ならない。優しい微笑の裏には悪魔のような何かが潜んでいる。
彼の視線によって裸に剥かれているような、気恥ずかしいような恐ろしいような、奇妙な感覚になる。
「レディ、どうぞ」
サーフェスはワルツの輪の中へとマーレイを誘った。
まるで呪文のようなメロディが耳に染みて、体はいつになくギクシャクと強張っている。
淑女としての振る舞いを徹底されていたマーレイは、ダンスの腕前は言うことなしだったが、今回は違う。
サーフェスは、数年前まで平民だったとは思えないくらいに巧みだ。
彼にリードされ、逞しい腕に支えられて、自信たっぷりに導かれ、二人は軽やかにステップを踏む。
二人を包む甘さに、周囲の人々は感嘆の息を吐く。
マーレイはうっかり自分がジゼルに成り切ることを忘れそうになった。
彼に縋りつき、会いたかったと泣き出してしまいそうになる。
自分から関係を絶ったはずなのに、未練は堆く積もり、今にも崩れて吐き出してしまいそうだ。
やや熱気を帯びた彼の手のひらがいけない。
触れ合った部分から熱さがイブニンググローブ越しに伝わってくる。
「ダンスがお上手なのね」
喉がからからになり、危うくサーフェスの名前を呼びそうになったマーレイは、慌てて別のことに意識を飛ばす。
「付け焼き刃ですよ」
「まあ。とんでもないわ」
我ながら白々しい会話だ。
彼が何故、ダンスを申し込んできたのかすら、聞けない。
蜂蜜に群がる蟻のような男らに困惑する娘を、少しばかり揶揄ってみたのだろうか。
「君は……」
「ジゼルですわ。公爵」
マーレイは緩く微笑んだ。
今夜はジゼルに成り切ると決めた。
「ジゼル? 」
サーフェスは形の良い眉を寄せる。鼻から上が仮面に覆われているので、表情の全貌は読めない。
「マーレイを通じて、お花やお手紙はいただいておりますわ」
「そ、そうか。気に入ってもらえるに越したことはないが」
「男の方からあのような花束をいただいたのは、初めてですわ」
口元に笑みを作れば、腰に回された手に力が入った。
彼と触れ合うときは恋愛指南をしていたときばかりだったから、このように優しくダンスを踊るなんて、信じられない。
前回の仮面舞踏会はパートナーのバルモアに拒絶され、一人虚しく壁と一体化していたから。
あの頃は、まるで拷問のような時間だった。
バルモアはフローレンスを始めとして、若い娘とダンスを楽しんでいる。
婚約者であるマーレイのことなど、頭の隅にも存在していないと言わんばかりに。
ずっと夢を見ていた。
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「白珊瑚のイヤリングがよく似合っているね」
ジゼルの耳朶で、かすみ草のイヤリング飾りがゆらゆら揺らめいた。
マーレイのときに、彼の前でこのイヤリングをつけたことはあるものの、朴念仁の彼は気づきもしていないはず。
ジゼルが初めてサーフェスと出会ったときにつけていたイヤリングだ。
かすみ草の花言葉は「幸福」「永遠の愛」。
たとえ今夜を最後に別れてしまうことになろうと、彼への愛は永遠に胸に刻み込んでおく。
そう誓いながら、マーレイはかすみ草のイヤリングを揺らした。
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