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七面鳥とはっきり言う

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 彼は囚われの身だ。
 こんなこと、道義に反している。
 強姦に他ならない。
 ましてや、想いなど叶わない相手。
 燃え盛った炎はたちまち鎮火する。
 マーレイは至って常識人だ。
 鍵をベッドの下に放ってしまいたい衝動と闘いながら、マーレイは手錠の鍵穴に差し込んだ。
 カチリと乾いた音が鳴る。
 サーフェスは目を赤くし、唸りながら勢いよく半身を起こした。
「ハンスのやつ! 殺してやる! 」
 それは決して比喩などではない。これでもかという怒りに取り憑かれたサーフェスは、死神のごとく男の喉首を締め上げることしか考えていない。
 サーフェスはベッドから飛び降りるなり、一足飛びでドアの前に立つとノブを捻った。
「お待ちください! 」
 マーレイは叫ぶなりサーフェスの背中に慌ててしがみついた。
 彼の肌は汗ばみ、いつかのマーレイの爪痕が細く筋として残っている。
「止めるな、マーレイ! あの野郎、私に何の恨みがあるんだ! 」
「いいえ! 彼にはそのような気持ちなど、これっぽっちもございません! 」
「何故、そう言い切れる! 」
「そ、それは……」
 マーレイは口籠る。
 ハンスは、サーフェスが憎くて拘束したのではない。
 過去の呪いに雁字搦めの乳兄弟に救いの手を差し出すよう、マーレイに頼んだのだ。
「あなたを七面鳥にするために」
 消え入りそうな声だが、サーフェスの耳にはしっかり届いた。
「何だと? 」
 彼は今しがたまでのハンスへの憎悪を消して、代わって奇妙なことを口走ったマーレイに意識を集中させた。
「七面鳥だと? 私を丸焼きにするつもりか? 」
 バカにするように、ハッと鼻を鳴らす。
「い、いえ。ち、違うわ」
 幾ら彼の気持ちがマーレイにないとしても、別に殺したいわけではない。
「それとも隠喩か? 口を憚るくらい劣悪なやつだと? 」
「い、いえ。そうではありません」
「では、心変わり? 」
「そ、それは……」
 七面鳥の意味で、心変わりというのがあった。
 ハンスは、サーフェスがジゼルに意固地になっている感情が変わるようにと、例えたのだろうか。
 それとも「七面鳥と話しましょう真剣に話そう」との意味か。
 どちにせよ、このままうやむやにはするなとハンスは促しているのだ。
 マーレイはそんなハンスの気持ちを代弁出来ないまま、ぐっと唇を噛む。彼の腰に巻きつけた手は、離すタイミングを見誤ってしまった。
 ピッタリと耳を彼の背中に押し当てると、鼓動が皮膚越しに伝わってくる。心配になるくらい、彼の心音は異常な速さを刻んでいた。
「マーレイ」
 サーフェスは苦痛に耐えるように低く、その名を呼んだ。
「やはり君は悪役令嬢だ。しかも、この世で一番の極悪な」
「なっ! 何ですって! 」
 いきなり罵られ、マーレイはカッと赤くなる。
「クソッタレ! 」
 サーフェスは悪態をついた。
 とてもではないが、お行儀良い貴族様が口にするような単語ではない。
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