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女同士の応酬
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「あら? こちらの方は? 」
その段になって、冷たいタオルを絞っていたマーレイに、マルガリータはようやく気づいた。
「シェカール公爵の友人です。マーレイ・レノワーズと申します」
厳しく躾けられているため、所作は完璧にこなせる自信はある。
その堂々とした振る舞いは、逆にマルガリータの癇に障ったらしい。非の打ち所のなさは、粗探しを好む女性にとっては気に食わない。
「友人? 女性が? 私が田舎の屋敷に引っ込んでいる間に、随分と考え方が先進的になったのね」
嫌味たっぷりにマルガリータは返した。
一昔前では、男女の友情などあり得ないことだ。
貴族の娘はその美貌と振る舞いを武器に、男は金や地位、名誉を餌にして、互いの条件に見合う相手を探し出す。全てはより良いタネを後世に残すために。
「それで、何故、そのお友達がこのような場所に? 」
マルガリータは不躾にマーレイを値踏みする。
そのような視線には慣れきっているから、マーレイは今更苛立ったりはしない。あくまでツンと済ましている。
「見たところ、どこぞの貴族のご令嬢ね。ここの社長が、王族公爵だと知っていて? 」
「存じております」
怯むことなくマーレイは返事した。
傍らのハンスの方が、ヒヤヒヤしながら状況を見守っている。
「そう。だったら、それが狙い? 」
「え? 」
「あの子の意識が混濁しているうちに、媚びでも売ろうと? 」
マルガリータは失礼極まりない言葉を並べたてた。
さすがのマーレイも、サーフェスに関連することには動揺を隠せなかった。
「わ、私は! そのようなつもりは! 」
「あら、そう? この母の目を盗んで良からぬことを企んでいるのかと思ったわ」
明らかに済ました空気を崩す小娘に、マルガリータは勝ち誇ったような高笑いを上げる。
「この子ったら、数多の見合い話を蹴って。結婚相手は自分で探すの一点張り。妙な女に入れ込んでいるのではないかと、心配していたら」
「ですから! 私と公爵はそのような関係ではございません! 」
カッとなって言い返してしまうのは、マーレイもまだまだ未熟である。
「あら、そう。それを聞いて安心したわ。サーフェスにはしかるべき家の娘を娶らせるつもりだから」
それはマーレイの全身を真っ二つに割るくらいに、彼女を愕然とさせた。
ハナから望んでいたわけではない。
高利貸しを営んでいるといえど、相手は身分の高い貴族。
だが、彼と触れ合ううち、微かな望みが生まれていたことを思い知らされる。彼の優しく細められたその眼差しを、いつしか独占していた気になっていた。
「長居は無用よ。こんな平民の店をこの私が訪ねたとわかると、どのような噂が立つか」
マルガリータは嫌そうにぐるりと室内を見渡す。
「奥様。坊ちゃんとは話されないのですか? 」
「必要ないわ。生きているとわかったのだから」
眠るサーフェスには興味を失せたと言わんばかりに、足早にベッドから離れていく。
「何かあれば、すぐに報せを寄越しなさい」
言い置くなり、勢いつけてドアが閉まった。
その段になって、冷たいタオルを絞っていたマーレイに、マルガリータはようやく気づいた。
「シェカール公爵の友人です。マーレイ・レノワーズと申します」
厳しく躾けられているため、所作は完璧にこなせる自信はある。
その堂々とした振る舞いは、逆にマルガリータの癇に障ったらしい。非の打ち所のなさは、粗探しを好む女性にとっては気に食わない。
「友人? 女性が? 私が田舎の屋敷に引っ込んでいる間に、随分と考え方が先進的になったのね」
嫌味たっぷりにマルガリータは返した。
一昔前では、男女の友情などあり得ないことだ。
貴族の娘はその美貌と振る舞いを武器に、男は金や地位、名誉を餌にして、互いの条件に見合う相手を探し出す。全てはより良いタネを後世に残すために。
「それで、何故、そのお友達がこのような場所に? 」
マルガリータは不躾にマーレイを値踏みする。
そのような視線には慣れきっているから、マーレイは今更苛立ったりはしない。あくまでツンと済ましている。
「見たところ、どこぞの貴族のご令嬢ね。ここの社長が、王族公爵だと知っていて? 」
「存じております」
怯むことなくマーレイは返事した。
傍らのハンスの方が、ヒヤヒヤしながら状況を見守っている。
「そう。だったら、それが狙い? 」
「え? 」
「あの子の意識が混濁しているうちに、媚びでも売ろうと? 」
マルガリータは失礼極まりない言葉を並べたてた。
さすがのマーレイも、サーフェスに関連することには動揺を隠せなかった。
「わ、私は! そのようなつもりは! 」
「あら、そう? この母の目を盗んで良からぬことを企んでいるのかと思ったわ」
明らかに済ました空気を崩す小娘に、マルガリータは勝ち誇ったような高笑いを上げる。
「この子ったら、数多の見合い話を蹴って。結婚相手は自分で探すの一点張り。妙な女に入れ込んでいるのではないかと、心配していたら」
「ですから! 私と公爵はそのような関係ではございません! 」
カッとなって言い返してしまうのは、マーレイもまだまだ未熟である。
「あら、そう。それを聞いて安心したわ。サーフェスにはしかるべき家の娘を娶らせるつもりだから」
それはマーレイの全身を真っ二つに割るくらいに、彼女を愕然とさせた。
ハナから望んでいたわけではない。
高利貸しを営んでいるといえど、相手は身分の高い貴族。
だが、彼と触れ合ううち、微かな望みが生まれていたことを思い知らされる。彼の優しく細められたその眼差しを、いつしか独占していた気になっていた。
「長居は無用よ。こんな平民の店をこの私が訪ねたとわかると、どのような噂が立つか」
マルガリータは嫌そうにぐるりと室内を見渡す。
「奥様。坊ちゃんとは話されないのですか? 」
「必要ないわ。生きているとわかったのだから」
眠るサーフェスには興味を失せたと言わんばかりに、足早にベッドから離れていく。
「何かあれば、すぐに報せを寄越しなさい」
言い置くなり、勢いつけてドアが閉まった。
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