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4-5 理外回帰編:魔族との遭逢

233 返すよ

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「走って……!!」

 突然起こった爆発に飛ばされた後、ぼくは平原に壁を張り続けながら走っていた。
 鉄の壁。空中に浮遊しているノアに意味があるかは分からないけど、自分が出せる最大強度の壁を出さざるを得ない。

 自体が上手く飲み込めていない。
 あいつは、あいつで、でも、誰だかわからない。
 瓜二つの魔族ってことなのか!?

 走りながら、木に激突してる幌馬車。その車輪にこびりついている血痕をみやった。

 ハンスさんも……あいつに殺された。
 僕がもっと警戒してたら……!!
 
「あるじ!! そいつの手を離してください!!」

「ダメだ! アルマさんはアイツらの仲間じゃない! さっき殺そうとしたし」

 僕が手を引っ張っているアルマさんの方をチラッと見てみると、顔が青ざめながらも必死に速度に追いつこうとしている姿があった。

「わたし、わたし……」

 だが、精神がブレている。
 同じく事態が飲み込めていないようだ。

「……っ、ハッキリしろ!!! お前は、あるじの敵か? 味方か!?」

「分かんない! わかんないよ! 私もっ……私のことが分からないの!!」

「じゃあ! 今、アルマさんはどっちにいたい!?」

「今……っ」

「自分のことがわからないのなら、今わかっていることで決めたらいい! 何者か、そんなの関係ない!」

 わからないことに思いを馳せるのはぼくがやりがちなことだ。
 でも、何かを判断するためには「今持っている手札」だけで考えるしかない。

「一緒にいたい……けど、だって……私、クラディスさんやアンちゃんの仲間をたくさん殺した……から」

 アルマさん表情が暗く、重たくなっていく。

「だからっ……!! それ抜きでって言ってるじゃないか! 今あるっ、今、アルマさんはどっちにいきたいか! 向こうに行きたいのか、僕達と一緒に来るのか!」

 冒険者を殺したことがアルマさんの判断を鈍らせている。その気持ちは分かる。
 僕が魔族ばっかりのところに放り出され、魔族や魔物をたくさん倒していたなら後ろめたさは感じるだろう。それに元人間だっていうなら、人間を手に掛けたことは心苦しいだろう。
 
 が、知るか。知ったこっちゃない!!

「僕はっ!! 大犯罪者てんせいしゃだ!! 味方に殺人鬼がいようが、魔族だろうが、魔王だろうが!! 知らん!! 今更気にしない! ぼくが一番の悪者だからっ!!」

 グイッと手を引っ張って、叫んだ。

「早く決めて!! アルマさんが行きたい方を!!」

「っ! 私は……! 二人と一緒にいたい……!! 私を連れてって!!」

「……! よしっ! なら行こう!」

 その決断に微笑み、再び前を向いて走り出そうとした。アルマさんの手を握る力が強くなったのを感じた。

 しっかし……この状況どうやって切り抜けるかなぁ……。
 敵が魔族なんて、いきなりボスもいいところだっての。
 
「逃げてばっかりなのは、変わりないなぁ……」

 おっと、本音を口が喋ってしまった。

「逃げるのも手段の一つですよ、あるじ」

「転生前もそうだったからさ……根は変わらんみたいだなって」

 転生前も思考放棄をして、ただただ目の前のことだけをやっていて、本当にやらないといけないことからは逃げていたしなぁ。
 逃げるのだけは上手くなっていってる。これでいいのか……? 
 まぁ、今は逃げないとダメだ。うん、場面場面で――

「お兄ちゃん……?」

「……えっ?」
 
 苦笑いを浮かべながら走っていると、突然アルマさんが何かを言った気がして振り返った。

「いま、なんて……」

 ――刹那、真っ直ぐ走る自分たちの横に死神が降り立った。

「────!」

 反応できたのは眼球のみ。
 体は一ミリとも回避行動を取ることは出来なかった。

「あるじ――ッ!!」

 アンが思いっきり手を引っ張り、二人して体勢を崩して地面に体をぶつけた。


 ――ブォンッ。


 なんの音が……なったんだ。
 コケる時に頭上でなった音……何かで空中を割くような音だ。

「くそっ――」

 早く体勢を立て直せ……!
 地面に手を付き、立ち上がろうとしたところに落ちてきたのは尋常ではない量の赤黒くどろっとした液体。

「え」

 ──ボド、ボドドドドドドドドドドドドドドドド。

「な、にが……これ」

 滝のように流れてくる液体が、ぼくの身体を包みこみ、暖かさと鉄臭い匂いを浴びせるように運んできた。

「……」

 恐る恐る見上げると、僕と手を繋いでいたアルマさんの体がそこにはあった。
 だが、首から上が見当たらない。

「ぁ……あっ」

 思わず息を飲み込んだ。
 右手の火傷痕、自分の口腔にアルマさんの血液が染みていくのを感じた。

 ──さっきまで会話してた人が、死んだ。

 また、ぼくは──守れなかった。

「っ~!!」

 止めようのない吐き気が腹部から喉へと伝わってきて、必死に押さえ込もうと口に手を当てる。が、無理だった。

「っぶっ……ぐっえ……がはっ! っ! うぅ……っ!」

 その場に嘔吐を繰り返し、地面についていた手を見て。
 血に染まってて。
 また、頭に熱いものがこみ上げて。

「仲間にならない魔族は要らないから……殺しちゃった。人間と手を組んだらめんどくさいし」

「おまえっ……なかまじゃ……、ないのか……!!」

「仲間同士でも殺す時は殺すよ。そういうものさ、君たち劣等種に理解は出来ないだろうけどね」

 ノアがぼくに指を伸ばしてきた──それと同時、ぼくの横から手が伸びて。

「──『砕撃』ッ!」

 アンの衝撃破がノアに襲いかかった。

「へえ」

 だが、その一撃はノアの周りにあった透明な何かによって阻まれた。
 防壁? 結界? 分からない。不敵な笑みを崩すことは叶わなかったことは分かる。
 まったく、効いていない。

「デタラメだなっ……! くそが──」

 グイとアンがぼくの身体を引っ張る時に、半透明な波がノアを中心に円状に広がり、消えたのが見えた。

「今の……」

 まるで、アンの攻撃の衝撃を逃したような感じに見えた。

「う~ん、良い一撃だ。だからこそ私だけが喰らうのは勿体ない――返すよ。『砕撃』……だっけ?」

 スッとノアが手を振ると、ガツンッと体中に衝撃が走った。

「~っ!??」

 まるでダンプカーに追突されたような衝撃。
 それはすぐに背中へと周り、激しい痛みを伴い、鞭打ち状態にさせた。

「──!?」

 一瞬何が起きたか理解ができなかった。

 瞬きをする前にいた場所と、今いる場所が違う。

 なぜ背中に痛みが……?
 少し辺りが暗く感じる……。
 ここは──……。

「はぁっ……はああああっ……!! はっ、はあぁ……!」

 止まっていた肺が動き出した。
 締まっていた喉が開き、空気が全身に運ばれていく。

 脳みそが動く。動く。ようやく、分かった。

 返す。
 ノアがそういったと同時に、近くの森林部まで体が吹き飛ばされたのだ。

 ──グラと物音が聞こえ、後ろを振り返り見るとアンが木にぶつかって落ちていた。

「ぅ……あ、るじ……っ」

「アン……!」

 ──不味い。
 飛んできてであろう方向を見やる。ノアの姿は見えない。

「くっ、逃げよう……!」

 ふらつく体でアンの身体を持ち上げ、森林の中に逃げ込んでいった。
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